三浦大知『OVER』についてのファーストインプレッション(2024.02.14)【Archives】
(※以下の記事は、三浦大知さんのアルバム『OVER』発売当時に一聴して受けたファーストインプレッションについて勢いでツイートした文章をまとめたものです)
「能動」「Sheep」そして「Pixleted World」という、既出3曲の楽曲に漂っていた濃密な予感が、その純度を極限まで高めて他の曲とともに「アルバム1枚」という形で結実している(当たり前だけど)。
これまでも、現在も、そしてこれからも、自らの表現の限界を常に越えて(OVERして)いく、というとてつもなく強靭な意志がはち切れそうな程に詰まった、もの凄い作品になった。
全10曲34分というめちゃくちゃ潔い長さは、前作『球体』とは対極と言ってもいい構成だけれど、だからと言って表現の強度が低くなったというわけでは、当然ない。
というかむしろ『球体』の半分以下の時間に圧縮されたことで、1曲1曲の密度がブラックホールくらいになってるんじゃ……。
曲順も最高で、タイトルも歌詞も緩やかにしかし確かに繋がっていて、ストーリーラインもみえる。
「能動」〜「全開」は緩やかどころか、だいぶ繋がってる。KREVAさんの冒頭の“全開”の声で「能動」の衝動・激情をさらにブーストして色んな壁をブチ破りまくってる印象。この前半部繋ぎの疾走感とエネルギーは相当ヤバい。増水した川が堤防をぶち破るくらいのとんでもない熱量。
そして低体温だけれど怪しげな艶のある声とビートの「好きなだけ」に続くコントラストに揺さぶられて、すぐさまに心は鷲掴み。なんじゃこの感覚。この不思議な感じをきちんと表現する音楽的な語彙を持ち合わせていないけれど、これはもう好きなだけ“エロい”と言ってしまっていいのではないか。
続く軽やかでアーバンな「Flavor」は気持ち良すぎるビートで、なんかキラキラな夜景見えるし。「決して消えないFlavor」という言葉はアルバム全体にも、三浦大知という名のついた表現全体に降り注ぎ、沁み渡りまくっている。
Lo-Fiに歪んだサウンドの弦の刻みに叙情的なメロが乗る「Light Speed」は超ツボ。めっちゃ慣れ親しんだロックのバイブスである。コード感をちょっと外して未知の場所に連れてってくれる感覚の展開も最高。
ここまでかなりの勢いで駆け抜けて、宙に飛び出したところで「羽衣」に包まれたようにテンポダウン。不思議な音がいくつか絡み合う空間の中で、羽衣という柔らかさ穏やかさの極みみたいなイメージに、ダイナマイトという激しい言葉をブツけて起こす火花。
そして瑞々しさを感じさせるトラックが印象的な「ERROR」。チェロっぽい弦の音がカットインしてからのブレイク、からのアップテンポなビートインは、アガると同時に平穏さも感じるという、不思議感覚に包まれる。ループしてるフレーズが色とりどりに煌めいている。
「羽衣」〜「ERROR」〜「Sheep」の流れはどんどんピースフルな領域に向かい、眠れない夜にも、歌えない朝にも深切に寄り添う。
こうして通しで聴いていると、シングルリリースで聴いた時とはまた全然違った響きで届いてくる(ミックスもちょっと変わってる?)
そして最後は“全て”を(一旦)置いて示す。その“全て”は今の自分の“全て”だし、決して渡さない自分だけの物語を現在進行形で紡いでいる、今立っている地点にある“全て”でもある。最後の最後にFurui Rihoさんとシンクロして呟くように歌われる問いが、そのまま冒頭曲にスムーズかつドラマティックに架橋を果たす。
この終わらぬループは、ぼやけて不確かなこの世界の中で、どこまでも能動的で全開に好きなだけクリエイティビティを抱いて表現に向き合って浮き上がる、拭い去りようもない趣向を光速で照らす。重さを感じさせない優しい羽衣で包み込まれたかと思うと、誤謬かと思うような次元まで突き抜け、しかしその先には羊たちの味わうような安息も訪れる。大切なものは何かと問い掛けながら、「これが今の自分の全て」と高らかに歌い上げる三浦大知さんのアティテュードを鳴らし、この到達点すらも越えようと、もうすでにもがいている。
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