現代を「鬼滅の刃」で読む(完):天照す太陽
ついにコミック23巻です。「時間がない時間がない」と言いながら、「時代を読むのだ」となんだかんだ読む口実をつくることができました。
永遠の命と強さを求めつづけ、1000年もの時間を生きた鬼舞辻無惨。太陽を克服した禰豆子の登場で、不老不死に手が届くかと思いきや、鬼殺隊の一斉攻撃の前に崩れ落ちる寸前です。
鬼舞辻が作り出した鬼は、彼の死とともに消え去ります。逃れ者の鬼であった珠世の言葉によれば、鬼舞辻無惨は「鬼が群れて自分の敵になることを恐れていた」ようです。そのリスクがあるにも関わらず、苦手な太陽を克服する鬼の誕生に期待し、鬼を作り出してきたということです。
無惨:「この為に千年 増やしたくもない同類を増やし続けたのだ」
苦難の時はあれど、1000年にわたり、鬼舞辻無惨は鬼の誕生に関係しているとされる「青い彼岸花」や「太陽を克服する方法」について調査、研究を行ってきました。
無惨:「私は私が強く念じたことを必ず叶えてきた。実行してきた。しかし、一個体にできることは限界があった」
鬼舞辻無惨は、鬼は不老不死の最強生物と信じてきましたが、鬼殺隊との戦いの中で敵の頭領であった産屋敷の言葉を噛み締めることになりました。
それは、生物である人間には寿命があり必ず死ぬが、だからこそ、その想いや価値観は次世代に継承される。継承されるということ其のことが不滅なのだということです。
無惨:「生き物は例外なく死ぬ。その想いこそが永遠であり不滅。確かにそうだった」
無惨:「肉体は死ねば終わり。だがどうだ。想いは受け継がれ決して滅ぼず」
無惨:「私はその事実を目の当たりにし、感動して震えた」
その価値観は「伊勢神宮」等を思い出すと理解できます。西洋の石造りの神殿と異なり、ご神木で造られた神社の本殿は時間とともに朽ちます。だからこそ、決められた時間サイクルで建て直しが必要です。
伊勢神宮では20年に一度の式年遷宮が行われます。これを行うためには、20年後の遷宮に備えて、儀礼の継承、ご神木の手配、宮大工の技術の継承と言ったように、知識や技術が次世代に受け継がれることが必須です。人材の育成が何より大事です。
つまり、想いが継承され、その想いにより技が継承される。長年朽ちない石造りの神殿ではなく、朽ちる木材を使い、建て直す。
人々は先代から時間をかけて引継ぎをする必要があるのです。この引継ぎことが、石造りよりも、朽ちる木材に永遠性を与えているとも言えます。
命に限りがあると認識した者は、次世代に想いを託すことを考える。
その証拠に、不老不死であり自分を最強の鬼と信じていた鬼舞辻無惨が、自分の肉体が滅ぶことを覚悟した時、自分の想いを次世代に「託す」ことに初めて価値を見出しました。
つまり、無惨は、鬼殺隊の竈門炭治郎に鬼と化すことのできる自分の血を与え、自分の想いを継承した「完全なる鬼」になって欲しいと願うようになったのです。
無惨:「私の肉体は間もなく滅びるだろう。陽の光によって。だが、私の想いもまた不滅なのだ。永遠なのだ。私はこの子供に想いの全てを託すことにする」
炭治郎は意識の中で鬼舞辻無惨の鬼への誘いに抵抗します。炭治郎も瀕死の重傷を負っている状況で、無惨は鬼化することにより命を掴めと炭治郎を諭します。
無惨:「自分のことだけを考えろ。目の前にある無限の命を掴み取れ」
炭治郎は抵抗します。
炭治郎:「嫌だ。俺は人間として死ぬんだ。無限の命なんか少しも欲しくない。いらない。みんなのところに帰りたい」
私が「鬼滅の刃」を読んで受け取ったメッセージは以上のことです。
生物は種の存続の為に「寿命」を設定した。その方が、種のうちのどこかのグループが生き残る可能性が高くなります。
しかし、不老不死は(鬼舞辻無惨やJOJOの奇妙な冒険で石仮面をつくった者たちのように)次世代のことを考える重要度を限りなく低下させます。不老不死の者にとって仲間を増やすことは繁栄ではなく、自分が占有できる資源の減少です。
近年AI化で人間の意識を不老不死にしようとする試みがあるそうですが、私たちが幸福に感じることや美しいと感じることが意味を失う危険性は消せません。
「鬼滅の刃」も「JOJOの奇妙な冒険」も、登場する鬼や吸血鬼は太陽の光に弱いですね。この意味を考えてみました。吸血鬼と同じだからと言ってしまえば、それまでですが。
「現代を『鬼滅の刃』で読む」シリーズのはじめでは、社会学者の宮台真司さんが使う鉄の檻の「損得マシーン」を現代の鬼として想定しました。
つまり、仲間との生身の助け合いや情熱よりも、経済的尺度や業績主義などの制度の中での自分にとっての損得でしか、自分の幸せを測定できないことです。
そうした負のエネルギーとバランスを取るには、お金や地位に過剰な力を与えすぎてはいけないかなと言うことです。そのためには、やはり、太陽ですよ。身のまわりの仲間たちと協力しながら、自然環境や資源や文化など、次の世代にバトンを渡す関係性の中で生まれる笑顔や幸福感(太陽です)。
お金や地位でマウントしてくる者たちには、正面きって抗っても敵いません。気にせずに、仲間たちと「太陽」を生み出すことです。これ、思っている以上に強い武器ですよ。きっと。
最後に炭治郎の言葉です。
炭治郎:「みんなに繋いでもらった命で俺たちは一生懸命生きていきます」
(コミックス23巻 完)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?