「神奈川県三浦市方言のア]カトンボについて」を公開しました
ResearchGate に表題のファイルをアップロードしました。以下のリンクからダウンロードできます。
https://www.researchgate.net/publication/353614172_shennaichuanxiansanpushifangyannoakatonbonitsuite
内容は、神奈川県の方言を研究されている坂本薫氏に提供いただいた音声データをもとに、過去に報告されたことがない、ア]カトンボをはじめとする4語(ア]カトンボ、ウ]ミボーズ、オ]ニガシマ、ムスメム]コ)の曲線声調による音調形をそれぞれ nFFnFnFnF, nFFnFnFnF, nFFFnFnF, nFnFnFnFF であると報告するものです。
曲線声調は、以下の記事でも少し触れていますが、言語音における音韻的なピッチ変化を、音の高さの段階的な変化として記述する「段階声調」に対して、音の高さがどのようなカーブを描いて変化するかとして記述するものです。
上の例では、ア]カトンボ という表記は、アに比べてカのピッチが低いという段階的な情報を示しているため、段階声調によるものだと言えます。それに対して、nFFnFnFnF という表記は、それぞれのモーラについて、下降の程度が強い “F”(音の高さが急激に下に向かうカーブを描く)かそうでない “nF”(水平に近いまたは上昇的)かという情報を示しており、これは曲線声調による表記です。
ア]カトンボというデータからは、今回確認されたnFFnFnFnF以外に、nFFFFFという可能性が考えられました。nFFnFnFnFだということは音声を聴いてみて初めて確かめられたことです。
これは同語の語形の曲線声調による初めての報告です。日本語諸方言の音調形はほぼすべて段階声調で記述されてきたため、曲線声調を記録したデータはほとんどありません。最近の言葉であれば今からでも記述をし直すことができますが、ア]カトンボのような古い語形は、現在でもその語形を保持している高齢の話者を探し出すか、過去にとられた録音データから探し出すしかありません。日本語の曲線声調理論自体がマイナーすぎて、こうした取り組みも行われてきていません。
古い語形がどんどん失われていくので、手遅れになる前に曲線声調による記述を大規模に行わなければなりませんが、そのためにはまず理論が受け入れられる必要があります。
日本語の曲線声調理論は新しい理論なので、従来の理論では記述されないことが、曲線声調では記述されるということを示す必要がありますが、今回の報告はその一つの例を示すことにもなったと思います。
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