見出し画像

モト・グッツィ 750-S3の概要

750-S3は譲っていただけるご縁に恵まれて、2021年2月から乗り始めました。
生産台数は1000台未満、日本にはおそらく数台しかないと思われ、実物を見る機会も少ないと思います。 ネット上の日本語の情報は僅かですので、このバイクの使用者として実態を記すことに幾許かの意義があると考えました。それはこのnoteを立ち上げる一つのきっかけになりました。

S3の「立ち位置」

生産年は1975年から翌年にかけて。生産台数は1000台未満とのこと。1971年に登場したV7スポルトの系譜に連なり、前年生産の750Sとほぼ共通の外観を持ちます。
S3登場当時のアピールポイントはトリプルディスクを装備したことでしょう。また、その後しばらくモト・グッツィの各モデルでお馴染みとなる、前後ブレーキが連動して作動する「インテグラル・ブレーキ」が採用されています。
翌年登場する後継モデルは名車850ルマンです。V7スポルト最後のマイナーチェンジ版であり。ビッグブロックのスポーツモデルとして最後のナナハンであると思われます。

性能は?

下記はネットで拾った画像でフランス語表記ですが、当時の宣伝用パンフレットのようです。

カタログ燃費は16.7?

最大出力 70CV、最高時速 206km/hと書かれていますが、かなり「盛った」数値で、少なくとも私の所有する車体の実状とは離れています。
乗り始めた当初の印象は「40馬力台」です。その後シリンダー内壁にメッキ剥離の損傷が見つかったたため、腰上のオーバーホールを行い、現在はかなり性能向上しています。それでも70馬力は遠く、最高速は180km/hくらいではなかろうかと思います。なお2022年6月現在は慣らし中につき、4000回転までしか使っていませんので、この項目は今後、追記するかもしれません。上記修理内容の詳細については別の投稿で書きます。

劣化版?

デトマソ体制で進んだコストカットの影響を指摘する資料が散見されます。たとえば《GUZZIOLOGY》※には「カムシャフトとフライホイールがマイルドな850Tと共通のためか、前年のモデルよりも性能が劣っているとされる」と書かれています。
※GUZZIOLOGY
https://www.daverichardson.biz
私自身はV7スポルトも750Sにも触れたことがありません。経年による個体差も大きいので、この記述が正しいかどうか確かめようと思っても、今となっては比較すること自体がなかなか難しそうです。 

特徴的なカラー


S3がマイナーな立ち位置の割に言及されることが多いのは、750Sとともにそのカラーリングがたびたびオマージュされたからかもしれません。グッツィ中古車として今や随一の人気を誇る1000Sや、2000年代後半に登場したV7シリーズの一部にも黒地に斜めラインの特徴的なカラーが採用されました。
なおヤマハミニトレの1979年モデルのカラーも酷似しています。

ヤマハGR50/80(1979)これはこれで魅力的

似ているだけかもしれませんが、個人的には影響が無いとは思い難いです。
ともかく、復刻されたり模倣されるだけあって今見てもなかなか瀟洒なデザインと感じます。

ライディングポジション

ハンドル位置は低め。750Sまでは高さの調節ができましたが、S3は基本的に固定式です。
ステップ位置は前寄りです。どこかのウェブページに「チンパンジー向け」と書かれていました。もう少しバックしていた方が扱いやすいですが、足短め、腕長めの私には向いているかもしれません。それでもかなりの前傾姿勢を強いられますので、体幹を鍛え続ける必要性を感じます。
シートは低く、足付きは極めて良好です。極端な低さは明らかに倒し込み、切り返しの重さを招いていますが、独特の操作感を生み出しているものとして、ポジティブにとらえています。

かなりの前傾姿勢です。

機能

機能は簡素です。メーターには時計や燃料計はもちろんトリップも無し。不便なところもありますが元より快適装備の充実を理由に選んだバイクではありませんので、特に気になりません。サイドスタンドは自動で戻る「自殺式」ですが、ギリギリ乗車状態から下げることができます。日常的な運用、取り回しは悪くありません。

各部の操作感

私が乗っている個体の始動性は極めて良好です。冷間からの始動はチョークを使いますが、いずれにせよセル操作1秒未満、即始動という感覚です。
走行時の操作で最も戸惑ったのはスロットルの重さです。乗り始めた当初は全域でトルク不足だったため、ヘラ状のスロットルアシストが必須でした。アシストは今も付けていますが、腰上修理後の現在のトルクなら、外すことができるかもしれません。慣らし終了後に試します。
シフト操作は着実にする必要があります。購入当初は中途半端な操作も相まってギア抜けを起こしてしまうことがありましたが、丁寧な操作で回避できます。
インテグラルブレーキは右レバーで右フロントブレーキ、右足ペダルで左フロントブレーキとリアが動作するというもので、このバイクのエンジン特性を活かし、スムースに流すツーリングを続けるには良いシステムかもしれません。グッツィに詳しくない人に仕組みを説明すると「それ大丈夫なの?」と問われることが多いですが、このバイクには「アリ」と思います。

走行性能

重いフライホイールの影響か、停止状態からの発進はスクーターにも置いていかれるくらいで、一呼吸おいて速度が乗ります。後ろで信号待ちをしていたバイク(ちょっと性格が悪いと思う)にスパッと前に入られ、その後数十メートル以内に追いついてしまう、といった状況がしばしばおきています。
他の多くのモトグッツィと同様ですが、高速巡航は安定しており中高速コーナーの気持よさは格別です。いっぽう、長く低い車体と古臭い足回りの動きが鈍いせいで、ジムカーナ的な低速コーナーの連続は不得意です。車重がそれなりにあり、ブレーキの利きも甘めなので、勾配のキツい下りは慎重に走ります。「コーナー曲率、勾配、カントなどから即興的に先読みする面白さがある」のだと言い張れば、どの局面でもマイナスとは感じず。実際、運転はとても面白い(修理前の状態でも楽しかった)。
現在エンジン修理後1000km未満のため、最大5000回転縛り。巡行は4,000までとの指示を受けていますが、修理前とくらべて低回転でのトルクが倍増しており、格段に扱いやすくなりました。「急坂は登らない」印象は解消されました。
なお、修理後に劇的に燃費が改善しました。修理前は12~13/L。修理後は19~20/Lくらいです。タンクが22Lですから400kmほどの航続距離を得たことになります。

乗り手の成長に資する

上述のようにスロットル、車体など一定の重さがあり、かつ速度を高めると各操作が軽くなっていく感覚がありますが「速く走ろう」とすると、あまり良い結果をもたらしません。余分な力が少しでも入った途端に「思い通りにならないバイク」になりますし、そもそも、絶対的に速くありません。「バイクがどう動きたいのか」を予想してそれに合わせる、といった乗り方が良いように思います。そこに注力した結果、このバイクなりには速く走ることになっているかもしれません。
バイクの要求はまったく理不尽ではありません。車体を下半身で支えて脱力する、要は基本に立ち返りつつ、路面や交通の状況に神経を振り分けて走らせれば良いのであって「公道でバイクに乗ること」の意味と面白さを伝えてくれるかのようです。
S3に乗ることで着実にライディングの質が向上しつつあるのを感じています。

首都高をまったり走って慣らし中





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?