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混ぜるな危険。
お風呂の赤カビが気になる。
見て見ぬふりをしたいが、やっぱり気になる。バスクリーナーでこすっても落ちない。そういうとき、キッチンハイターを使えば一発で解決するのは知っている。でも、ふと思う。
もしかしたら、排水口の奥底で何かと混ざって、知らぬ間に毒ガスが発生しているのではないか。しばらくして「なんか喉がイガイガするな」と思ったら、それがもう最後。ニュースでは「家庭での事故が相次いでいます」と報じられ、解説員が「塩素系と酸性のものを混ぜると危険なんですね」と頷いている。そんな映像が脳裏をよぎる。
だから、俺は慎重派だ。キッチンハイターを手にしながら、風呂場の換気扇を回し、窓を開け、最悪の場合を想定して家族を避難させるべきか考える。そこまでして使う必要があるのか? いや、ない。だから今日もバスクリーナーでゴシゴシこする。カビは落ちない。
混ぜるな危険。
これは掃除用品だけの話ではない。
人気バンドのメンバーが別のバンドとコラボすることがある。でも、それが最高だった試しがない。俺は、誰かが「この組み合わせ、やばくない?」と言ってるのを聞くたびに、「いや、たぶんやばくない」と思ってしまう。
たとえば、ロックバンドのボーカルがソロ活動を始める。実力派のミュージシャンとコラボし、新しいサウンドに挑戦する。これはこれでいいんだけど、なぜか心が震えない。やっぱりオリジナルメンバーがいい。あのドラマーじゃないとダメなんだよ、あのベースの音がないと物足りないんだよ、と思う。
まるで、実家の味噌汁のようだ。外食でどんなに美味しい味噌汁を飲んでも、やっぱり母親の味噌汁がしっくりくる。特別な隠し味があるわけじゃない。ただ、あの組み合わせじゃないと落ち着かないのだ。
バンドメンバーが新しくなったり、コラボで話題を集めても、それはそれ。だけど、やっぱり「いつもの味」が一番落ち着く。
混ぜるな危険。
お風呂掃除とバンドの話が同列に語られることはあまりないかもしれない。でも、本質は同じだと思う。何かを劇的に変えようとして、思わぬ化学反応を起こすことがある。それが良い方向に転べば最高だけど、失敗すれば「やっぱり元のままが良かった」と思う。
だから俺は今日も、キッチンハイターを使うのをためらいながら、お風呂の赤カビをこすり続ける。そして、好きなバンドのオリジナルアルバムを聴く。変わらないものの良さを、ひしひしと感じながら。