カナンの小さな神話・追記
カナン神話の舞台裏
※以下の文章は「カナンの小さな神話」を掲載した冊子の最終号に載せた、あとがき的な裏話です。文中の(注)は、転載するにあたって、補足として付け加えました。
最終回ですし、今回は『小さな神話』の裏話でもしましょう。
●小さな神話の作り方
最終話をのぞく全ての作品は、いずれも私一人の創作ではありません。実はカードによって作り出されたものなのです。
ここで言うカードとは神話を作るための専用のカードのことです。
通称「カナン・バカカード」。
カナンの地名や職業、動物、自然、国名、道具など様々な単語が一枚のカードに一つずつ書いてある、というだけの代物です。
まずはこのカードを用意し、次にお話し好きの人を数人集めます。
「投げやりなことばかり言う人」や、「話の前後に気を配らない人」は誘わないほうが無難でしょう。
脈絡のない、散発的な現象を語る「神様の与太話」もそれなりにカナン世界っぽいですが、ここで作りたいのは神話であって、「物語」である以上、ある程度の起伏や結末が欲しいからです。
カードはよく切って二つに分け、半分だけを使います。毎回同じ単語の組み合わせになって似たような話になるのを防ぐためです。
これで準備はOK。あとは二枚ずつカードを引いて、そこに書かれた単語を使いつつ、即興でリレー式に物語を作っていきます。
「こんな展開にしてやろう」なんて考えていても、一周してくる間に全然違う展開になったりして、なかなか楽しい作業です(というより、一種のゲームですね)。
カードに書かれた単語を使わなければならないので、唐突に何かが現れたり、途中でどこの国での出来事なのかがわかったりもしますが、「誰が何をして、どうなってこうなった」みたいな大体の流れだけでなく、ときには印象的なシーンが事細かに述べられることもあります。
『小さな神話』のネタは、こうしてできていったのでした。
私の作業は、この結果を整理して、背景を付け足したり、脚色、演出を加えて体裁を整え、物語らしくするといったものだったのです。
『小さな神話』のどれもが、妙に展開が急だったり、登場したのにその後が語られずに退場する人物などが頻繁に登場したりするのは、こうした手法で作られていたからです。お陰で、既存の神話や民話にありがちな強引なストーリー展開が再現できたと(言いわけ抜きで)思っています。
●作品について
自分で最も気に入ってるのは『生き返りお菓子』です。
理由は、きちんと起承転結とどんでん返しがあり、歴史とも絡んでいるから。難を言えば最初の猿や芸人のくだりが唐突すぎますが。
また、お菓子はゲームの本編(※注:カナンは手紙で行う会員制ゲームだった)に絡めようとも考えていました。
あの神話の主人公は物語の中で一度蘇り、“二度蘇ったワニクト”と呼ばれています。菓子を三枚もらっているのにです。だから、どこかにあと二枚残っている可能性があったわけです。また、ケラタラ山の山頂へ登れば、まだ菓子の入った容器が発見できたかも知れません。そんなこと思いつくプレイヤーがいるかよ……とは思いつつ、ちょっとドキドキしていました。
って、ゲームが終わってからこんな話してもねえ……。
(※注:プレイヤーが自分のキャラクターにそうした行動をとらせたら、マスター役の私は、そのキャラが生き返りお菓子を手に入れたお話を書いて送ることになったはず)
●カナンの神様について思うこと
『小さな神話』は神話のくせに神様がメインの話が殆どありませんでしたが、カナンの神様に抱く私のイメージは、日本の妖怪とギリシャ神話の神様を混ぜたようなものです。
ギリシャ神話の神様は、人間臭くはありますが、それでも神様の住む場所なんかでふんぞり返って人間を見下ろしたりもします。でも、日本の妖怪は神様ほどの力はなくて、人々の暮らしのすぐ隣に潜んでいます。
カナンの神様はこの両方、「どこにでもいて、しかも人知の及ばない力や考え方を持った存在」ってとこでしょうか。自然現象が何かを考えていたとしても、人間にはわからないし、頼んだところでどうにもならないのです(頼みを聞いてくれたりもする世界なのが、現実とカナン世界の大きな違いですけどね!)。
それから、これはリアクション(※注:ゲーム内でプレイヤーが得られる自分たちのキャラクターが活躍する小説)でもそうでしたが、私がカナンの神様に関して忘れないように気をつけていたのは、『本当にいる』という感覚です。
アニミズム的なところもあるカナンの神々ですが、人はアニミズムと聞くとどうも「この世界の人々はあらゆるものに神が宿ると『信じている』んだなあ」とかいう感覚になりがちです。
でも私は、カナンでは人が信じる信じないではなく「本当にいるんじゃ仕方がないよ」という感覚で生きている……そんなふうにもっていきたいと思っているのです。
●その他
プカプカの描いた『ムングの絵札』というネタを、あちこちで出していますが、このプカプカ、実は「TRPGカナン」のテストプレイでの私のキャラクターなのです。
旅の紙芝居師として、神様が出てくるたびに(まあ、舞台がカナンだから、たいてい出てくるんですが……)、その姿を描きためていました。
暇があったら本当にムング札でタロットのような占いをする方法を考えたいのですがねえ。
カナン・バカカードがある限り、小さな神話はいくらでも作ることができるので、機会があれば再開したいと思います。
ではでは、ラッハ・マク!
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