「新宿鮫XI 暗約領域」の感想
新宿鮫、1巻が出たときから読んでいる好きなシリーズだ。
ずーっと読んでる。
同じ著者の他の作品は、あまり読んでいない。
このシリーズのファンなのだ。
池袋よりも渋谷よりも新宿にひかれるのは、千葉から都内に出るとなると新宿だから、ってところがあるだろう。
住んだことはないが、まあ副都心の中では若い頃から一番遊んだ街だし。今だって、映画ぐらいは観に行くし。
※この先、少しネタバレあります(コメント欄も、その話題です。Julietteさん、ネタバレしてごめんなさい!)。犯人とストーリーの流れとかに関してはほぼ何も語ってはいませんが、人によっては気にしてしまうかも……なとこなので、読む予定の方はこの先は読み終えてからのほうがいいかもです。
その「新宿鮫」の8年ぶりの長編だ。
前巻の場合は、どこかで連載されていると知ってはいたが、単行本化されてから読む派なので刊行を待った。
今回は連載しているとは全く知らず、続刊が発売されていることをTwitterで知った。
XとXIの間に短編集が出てはいたが、間をつなぐ作品ではなく、どれもXで起こった「鮫島を取り巻く環境の大きな変化」以前の作品をまとめたものだったと思う。
ひとつ前の巻「新宿鮫X」のネタバレになってしまうが、Xで鮫島はこれまで彼を支えてきた上司の桃井課長と、恋人の晶を失う。
孤独な鮫島が仕事と私生活とでそれぞれ頼りにしていたたった二つの大切なものを、どちらも失ってしまったのだ。Xでは、結果として失った――というところで終わっていたので、続きが出るとしたらいったいどうなるのだろう? と気になっていた。
もちろん、新しく現れた不気味な犯罪集団「金石」とのその後の関わりも気になっていたが、各巻での事件や鮫島と対峙する相手とかの全体的な傾向が、国際化した謀略もの絡みが多い気がしてその点に関しては微妙なのだ。
どちらかというと私は、ストーリーの方向性としては初期のほうが好きだったりする。国際的な犯罪や陰謀が絡んでくる……というのは、「鮫島が挑む色々な事件のパターンのひとつ」として存在していてくれたほうがいい。以前の流れが出てくると、その手のことばっかりになってしまってちょっと嫌だ。もっと、国内の奇妙な犯人を探して、追い詰めて欲しい気がするからだ。
でも最近は、同期のライバルである香田の関わりからか、作者の趣味なのか、国際的な犯罪者やスパイ絡みが多い気がして「またか~」って思ってしまうところがある。
まあ、前巻Xの展開からすると「金石」絡みの事件なんだろうな……とは思って読み始めた。
実際そうだったのだが……。
まあ、読み始めたら夢中になっちゃうよね。
新宿の感じがたまらんし。
このシリーズを読むと、街中で見かける人がみんな「すれちがう人がみんな暴力団員か、その企業舎弟か、どこかの犯罪組織の一員か、その愛人か……と思えてくる」と、前巻の感想でも書いたんだけど、 今回もそれは健在。鮫島たちは少しずつしか歳をとらないが、「新宿」は今に合わせて変化していく。あの感じが好きだ。
しかも、たぶん前巻より分厚い(700ページ超)のに、晶とのシーンが皆無なんだから、これがものすごく辛い。ひたすらに辛い。
晶に心配されたり、飲みに行ってハッパかけられたりしないまんま、桃井の死の責任を抱えて苦しむ鮫島が一歩、また一歩と犯人を詰めていく。
鮫島も辛いだろうが、読んでるこっちも、まあ辛いったらないのだ。
そういうとこも味わうように計算されてるのかもしれないけど。
辛い……。
話は面白いけど、ずーっと辛い。
新登場したキャラクターが、少しホッとできる要素でもあるけれど。
新しく着任した女性課長は「警察は絶対に正しい。基本を曲げるな」という信念の持ち主で、役職に相応の年齢なので可愛いシーンってわけじゃないのだけれど、鮫島とのやりとりがなんだか微笑ましい(こういうキャラ好きなの。PATRONEのルフィっぽいというか)。だんだんと、鮫島を理解していくところが良かった。
それと相棒になる若い刑事も良いやつで、今後どうなっちゃうのかな~って、やきもきする設定でもある。
しかし。
しかしだよ。
やっぱり晶が全く出てこないのは耐えがたい。
いやほんと、フーズハニイの復活とかないのかよ……。
お話に関しては、プロットが絡みに絡んでややこしいのだが、読む側は別の視点から書かれたシーンもあって概要をつかみやすくなっている。
あと、連載小説だったからか、鮫島と誰かが「ここまでの捜査状況」を把握する(相手に説明したりする)シーンがはさまるのだが、それがやたらとあって若干くどく感じた。まあ、わかりやすくはあるのだが。
そして結末は唐突だ。
ざっくりと事件がその後どうなったかを説明して終わる。
これまでと同じく、次の話の中で反芻してくれると思うのだけど。
見処は、天敵の香田と鮫島がチームを組むとこかな。あれは絶対に映像で観てみたい。
それから、藪さんの短編での設定が生きているのが最高だった。あそこが唯一、明るい気分で読めたところだったかもしれない。レギュラー陣で唯一残っている鑑識の「藪」は、両津勘吉の幼馴染みなんだよね(短編で、こち亀の両津の出てくる話や、シティハンターの冴羽獠が出てくる話がある)。
で、藪の地元の浅草ですき焼きを食べるシーンが出てきたので、「おお。あれの設定って本編にも!?」と、嬉しくなったのだった。
というわけで、結末があっさりしていただけに新体制での今後がどうなるのか、続きが気になっちゃうよ。
そして、晶をっ! 晶を出して!
やっぱり晶がいないとダメだよっ、新宿鮫はっ!
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