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【一分小説】もみあげと髭の境界線

『ヴウィーン、ジジ、ジ、ジジ』
 月曜日の朝、土日で少し伸びた髭を、電気シェーバーが少々苦しそうな音をたてながら俺の髭を刈り取っていく。
 髭を剃り終えて、鏡を見て剃り残しがないかアゴに手を滑らせる。
 んー、あれ、なんか左右でもみあげの長さが違うぞ。右側がどうも短いな、左側に合わしてもうちょい剃るか。

『ピピピ』
 携帯が鳴る。メールの着信だ。
「んだよ、朝から仕事のメールか?」
 そう呟きながらメールを開くと、自分宛からきていた。なんだ新手の迷惑メールか?とも思ったが、一応その内容に目を通す。
 
――過去の俺へ。このメールを送ったのは俺自身だ。もみあげと髭の境界線をないがしろにしてはいけない。絶対にハッキリさせておけ。長くても短すぎてもダメだ!もみあげはもみあげ。髭は髭だ。絶対守れよ!でなければひどく後悔することになるからな。以上――
 
 はて、未来の俺はいったい何を言っているのだろう。あほらしい、やはり新手の迷惑メールか何かだろう。
 
 気にはかかっていたが、それでも左右のもみあげの長さが違うことに比べたら些細な事だった。
 短すぎた右側に合わして、左側のもみあげに深くシェーバーを入れる。すると今度は右側が……とやっているうちに少し短いもみあげになったが、それでも“もみあげが短い人”くらいには整った。しかし鏡を見て感じる。本来もみあげであった部分まで剃った感は否めない。まあ後の祭りだと割りきって、俺はビシッとスーツを羽織り出かける。
 
 会社に向かう途中、何やらいつもと街の雰囲気が違うことに気付いた。雰囲気というより、視線を感じるのは気のせいだろうか。そんな違和感を抱きつつも、いつもの満員電車に揺られ駅を出て会社まであと少し、というところまで来ると警察に止められた。
 
「ちょっと君!」
「はい、なんでしょうか」
「なんでしょうかじゃないよ。ちょっと交番まで同行してくれる?」
「いや、なんでですか」
 警官は深いため息をついた。
「君本当に大丈夫か?」
「いや、本当に何を言っているのか……」
 警官は僕のもみあげを指差しながら言う。
「それだよ、それ。そんな卑猥な格好で捕まらない方がおかしいでしょう。はい、じゃあ公然わいせつ罪で現行犯逮捕ね」
「いや、おかしいでしょう。もみあげが短いくらいで公然わいせつなんて」
「おかしいのは君の方でしょう。よくこんな短いもみあげで街中を堂々と歩けるね」
「はぁ」
「はぁ……じゃくてだな君。私ならまだ下半身を露出させて出歩く方がまだマシだよ」

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