風早ハ兎文一茶両吟/門前やの巻
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武士に劣りてすこき荒胡
ざんじ吞干す一樽の酒 一茶
名オ十二句、名残折表の折端、何はともあれ仲直り。
〇
ざんじ 暫時。少しの間、しばらく。時間の経過をあらわす。
呑干す のみほす、干すは空にすること。
一樽の酒 ひとたるのさけ。樽は、木製の枠を竹の輪で締めた円筒形の容器のこと。
〇
さむらいに おとりてすごきあらえびす
ざんじ のみ ほす ひとたるのさけ
前句の諍いを受け、差し入れられた樽酒を飲み干したのです。「暫時」の措辞をうまく利かせて、名残り表を〆ていました。
〇
元々、酒は甕に入れていたのだそうです。それが樽になってから、輸送が容易になり地方の酒が京・大阪に集中するようになったということです。
そんな時代、婚儀が整う儀礼を「樽入れ」と云うようになり、祭り仲間の挨拶、若い衆の喧嘩おさめなどに、熨斗をつけた樽酒の贈答が始まったと云われているのです。
〇
俳諧に
呑み明けて花生にせん二升樽 芭蕉
角樽をまくらの鬼や紅葉狩 西鶴
此の雛に樽の八千代や諸椿 園女
から樽をもりにあてけり月の雨 丈草
聟入に樽提て来る新酒哉 几董
句に
樽提けて宵寐起すや水祝 子規
樽を干す木香に人酔ふ返り花 乙字
顔見世や積樽の上江戸の月 癖三酔
辻ごとに樽酒そなへ秋祭 多賀子
ゆく年やふるさと印す樽 真砂女
〇
門前やの巻 名オ七句~十二句
雑 半分ハ仲人もかふる鍋の敷 文
月 秋 近き隣の宵々の月 茶
秋 厂かねに哀なる事思出し 文
秋 筑紫左遷の舷の露 茶
雑 武士に劣りてすこき荒胡 文
雜 ざんじ吞干す一樽の酒 茶
まずは一献。
16.10.2023.Masafumi.
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