歌ヲ聞キ乍樗堂一茶両吟/降雪にの巻
En écoutant la chanson......
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斧の聞ゆる山の名を 問ふ
在とだにしらぬばかりの御庵 一茶
初ウ三句、ほんとに知らなかったのかしら ?
〇
在とだに あり・と・だに。「在り」は存在、「と」は格助詞、「だに」は副助詞。道綱母に「ありとだによそにても見む名にし負はば」と。
しらぬ 知らぬ。
ばかりの 許・の、「ばかり」は副助詞、「の」は格助詞。
御庵 おんいほり。庵は、世を過ごす仮の住まい。蝉丸大夫に「奥山に紅葉踏みわけ鳴く鹿の」がありました。
〇
おののきこゆる やまのなをとふ
ありとだに しらぬばかりの おんいほり
世情を避け奥山に住まう、そんな暮らしがあった時代に遡りながら、歌仙という文藝のなかで、<ありやなしや>の微妙な<存在>を確認しようとしていたのです。
〇
万葉に
君が行き日長くなりぬ山たづの迎へを往かむ待つには待たじ 衣通王
と。(神話の恋ですから、激情がほとばしっているのです)
〇
人の世だと
おのがねにつらき別れはありとだに思ひもしらで鳥や鳴くらむ 藻壁門院少将
この歌に
大津にて智月といふ老尼のすみか
を尋ねて 己が音の少将とかや
老の後このあたり近く隠れ侍りし
というふを
少将の尼の話や志賀の雪
と、こんな芭蕉の句がありました。
〇
句に
恋ふたつレモンはうまく切れません 信子
逢ふことも過失のひとつ薄暑光 翔
枯野路に影かさなりて別れけり 久女
など。
29.10.2023.Masafufmi.