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仕切り直し樗堂一茶両吟/藪越やの巻
丗六
拳して辛きめ見する猫の妻 樗堂
石の枕の宿や此宿 一茶
丙辰初秋会
名ウ六句、石の枕の挙句、これにて満尾。「丙辰初秋」と名残裏の余白に。
〇
石の枕の 「石に枕するとは、山野に隠栖する意。」
宿や 「や」は強調。
此宿 この宿と、さらに重ねて、懇ろに。
丙辰初秋会 寛政八丙辰年初秋会。1796年歌仙張行、初秋会のことであったと。
〇
こぶしして からきめみする ねこのつま
いしのまくらのやどや
このやど
「辛きめ」の難儀を受けて、「石の枕の」と応じた一茶の挙句。もとより、宿の亭主に対する懇ろな旅人の謝辞は忘れてはいなかったのです。
〇
石に枕し
石に枕し流れに漱ぐ 蜀志・彭羕伝 世間から離れ山野に隠栖すること。
石に漱ぎ流れに枕す 晋書・孫楚伝 負け惜しみの強いこと。
いずれも中国の故事、後のことながら夏目金太郎こと「漱石」の由来とも。
〇
さらに、一茶はこの後松山に滞在し句会に一座し歌仙を巻いていました。北条・門田家蔵一茶真蹟のなかに、
樹下石上を栖となすは 雲水斗薮の常ならな
くに、今よひは諸風士と共に蝸牛庵に会ス
人並に畳のうへの月見哉 むさしの旅人 阿道
月見の茶にも友あればこそ 宣来
白浜の風を横ぎる雁落て 魚文
苞のしめりの状にうつれる 蘇郎
山折敷積重ねたる冬ざれに 宇好
餅搗く音の春を待つ声 蝶花
右一順
と。
一茶は、寛政八年八月、月見の句会の様子を、交遊のあった北条の門田兎文に書き記していたのです。
〇
藪越やの巻 名ウ一句~六句
雑 ぬらくらと番日怠る病あがり 堂
雜 本取筋はけしきばむ頃 茶
花 春 朝風の花に余寒をこきまぜて 堂
春 髫髪は節衣着かざりにけり 茶
春 拳して辛きめ見する猫の妻 堂
挙句 石の枕の宿や此宿 茶
丙辰初秋会
樗堂一茶両吟/藪越やの巻、これにて満尾。長々のおつきあいありがとうございました。いづれまた、どこかで、、、。
22.6.2023.Masafumi.