風早ハ兎文一茶両吟/門前やの巻
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狆の飽たる板敷の菓子
三伏のいらかを巡ル雲の峰 兎文
初ウ七句、これより暑気払いの寺社詣の旅へと。
〇
三伏の さんぷく、夏至後第三庚を初伏、第四庚を中伏、立秋後の最初の庚を末伏という。「三伏の酷暑」と手紙にも書く。
いらかを 甍、ここでは寺社の大屋根の一番高いところ。
巡ル めぐるは、「寺社巡り」と「甍と雲」の二つに係る。
雲の峰 入道雲。甍の上に聳え立ち湧き立つ雲が。
〇
ちんのあきたる
いたじきのかし
さんぷくの/
いらかをめぐるくものみね
前句の菓子は暑気払いに呑む甘酒のようなもの。即ち、薬と見れば付け句の「三伏」は合点がゆきます。歌仙の運びからすれば、これより人々を寺社詣の旅に誘っていたのです。
〇
謡曲「西行桜」
ワキサシ 夫れ春の花は上求本来の梢にあらはれ 秋の月下化冥暗の水に宿る 誰か知る行く水に 三伏の夏もなく 澗底の松の風 一声の秋を催す事 草木国土 おのづから 見仏聞法の 結縁たり
これをふまえて、
香薷散召上られて御覧ぜよ 執筆
なうなう旅人三伏の夏 在色
なみ松の声高うして馬やらう 雪柴
江戸談林十百韻第一「されば爰に」のなかに先例がありました。句にある香薷散(こうじゅさん)は、暑気払いの薬として知られ、旅行者の多くがこれを携行していたのです。
命なりさゆの中山香薷散 宗因
香薷散犬がねぶって雲の峰 其角
とか。
〇
現代の句に
三伏の動かぬ雲と鬼瓦 しげ子
三伏のをんないよいよ服剰す 友二
三伏やのれんを入れてよりの客 真砂女
お後が宜しいようで、、、、
6.10.2023.Masafumi.