樗堂一茶両吟/「藪越や」の歌仙
歌仙評釈
◇樗堂一茶両吟/「藪越や」の歌仙
田家
初オ 藪越や御書の声も秋来ぬと 一茶
牛にすゝらす白粥の露 樗堂
月 院の月薄霧の香の寂ぬらむ ゝ
衣摺べき平石もなし 茶
髪洗ふ土は求めし早苗饗に 茶
鶏喰ふ小狐をうつ 堂
初ウ 北谷の竹ふく軒端落かゝり ゝ
水汲む礼に水菜送りて 茶
夕がすみ煩ふ人を思ひそめ 堂
月 乳守の神の梅むすぶ月 茶
五ツ六ツ袖の色貝つとにせば 堂
歌兄弟の庵り開きに 茶
水の雨魚も鳴べき風情にて 堂
燐乱るゝ諏訪の涼風 茶
昼の夢よべのうつゝを結ぶ也 堂
春は立テども部屋住の窓 茶
花 花の木は雪のふるとし根枯して 堂
普賢の像を直す陽炎 茶
名オ 名産の海苔のあつもの盛並べ ゝ
葎がくれの雅なる雪隠 堂
うらまれて男嫌ひの夕化粧 茶
仇口さむき顔見せの客 堂
宗因が点の一句をひけらかし 茶
蜘の尿する短檠の陰 堂
野送りの跡を清むる鈴の声 茶
気違ひ立てけらけらと云ふ 堂
月 有明の猿に木槿を礫つゝ 茶
頭巾に秋の霜置し舟 堂
下鳥羽の祭拝みに婿がもと ゝ
砧の棒の椿けづりつ 茶
名ウ ぬらくらと番日怠る病あがり 堂
本取筋はけしきばむ頃 茶
花 朝風の花に余寒をこきまぜて 堂
髫髪は節衣着かざりにけり 茶
拳して辛きめ見する猫の妻 堂
石の枕の宿や此の宿 茶
丙辰初秋会
◆寛政八年七月(1796)
■画像は、金子兜太「一茶句集」古典を読むー9 岩波書店(部分)