
風早ハ兎文一茶両吟/門前やの巻
29
筑紫左遷の舷に露
武士に劣りてすこき荒胡 兎文
名オ十一句、なあにガチガチの<堅物>だってことさ。
〇
武士に さむらい・に、格助詞「に」は、比較の基準や比況を示す。~~より、~~と比べて。
劣りて おと・る、他に比べて低い状態にあること。「て」は、接続助詞、状態・様子を表す。
すこき すごき、ク活用の形容詞「凄し」の連体形。びっくりするほど程度がはなはだしい。
荒胡 あら・えびす、荒々しい東国の人の意。
〇
ちくしさせんの ふなべりのつゆ
さむらいに おとりてすごきあらえびす
西の前句に、東の夷と付けた「向こう付けの句」。だとしても、これだけでは肝心の句意が分からないのです。
〇
それもその筈、調べてみれば、これには、当世流行りの政談噺が含まれていたのです。云わば時事川柳のようなものだったのです。
例えば、京で流行った哥に「越中が越されぬ山が二つある京で中山備前岡山」がありました。世に云う「尊号一件」の顛末を狂歌にしていたのですが、この句もそのようなもののひとつだったのですね。
〇
当時、公武の間で「尊号」をめぐる確執があり、西のお公家さんたちと東の堅物・老中松平定信が激しくぶつかり合っていました。
結果は定信に押し切られ、「尊号」を断念させられ、中山愛親、正親町公明らが処罰されてしまいました。ややあって、その定信も失脚することとなりましたが、世間の風潮はと云えば、公にあたたかく武には厳しいものだったものですから、石頭の定信と悪しざまに云われていたのです。
白河の清きに魚もすみかねてもとのにごりの田沼恋しき
世にあはぬ武芸学問御番衆の只奉公に律儀なる人
孫の手がかゆい所へ届きかね足の裏までかきさがすなり
お祭は目出たいあらのお吸物だしばかりにてみどころはなし
曲りても杓子は物をすくふなり直ぐなやうでも潰す摺子木
など。
16.10.2023.Masafumi