
風早ハ兎文一茶/交流始末
3-1
家買ふて(表六句)
やつがれ遠祖の恵に ものゝふのものゝ敷に生れて
角ありといへとも 麟をあさふく才あらねば 人々
呼て 蝸牛庵と号く むへなる哉 ことしてゝ虫の
にしり入ことくの陋巷を もとめて
家買ふて肱を枕の月見哉 宣来
〇
やつがれゑんそのめぐみに ものゝふのものゝふにうまれて
つのありといへとも りんをあざふくさいあらねば ひとびと
よびて くわぎうあんとなづく むへなるかな ことしてゝむしの
にじりいるごとくのろうこうを もとめて
いえかうてひじをまくらのつきみかな 宣来
〇
(一座する者、風士六名が明月を題に発句を披露し合いましたところ、私の句を立句にして俳諧の連句を巻くことになりました。)
かく申し上げる私めは、遠祖の恵を賜り、代々士の家に生まれ
角はあっても、あの麒麟をやっつける才覚もないものですから
皆が蝸牛庵というようになりました。如何にも理に叶っており
今年てゝむしがにじり入るような狭い棲み屋を、求めました。
陋巷というのが最もふさわしい居に移りました。
その室内から
肱枕で月を眺められるのも、それはそれでおつなものだと云うことなのでしょうね。
〇
句に
わか草や烏帽子ながらの肘枕 几董
さみだれの畳くぼむや肱枕 鴎外
肘枕しびれ醒めたる無月かな 欽一
など。
19.10.2023.Masafumi.