樗堂一茶両吟/蓬生の巻 28
押合ふて笠着てねたる丸木舟
関の惣嫁に石投る月 一茶
初オ十句、月はさまざまなものを照らし出す。
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関の
関。三界世界の関あれば、天然自然の関もある。まして、人の世なれば。
惣嫁に
さうか、さうよめ、惣右衛門。「江戸の夜鷹、京の辻姫、大阪の惣嫁」。
石投る
「動く」のはこの詞のみ、従って句の肝とでも。
月
月一語の結句。歌仙に月三座あり、そのひとつ引き上げていました。
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おしあふてかさきてねたる/まるきふね
せきのさうかに
いしなげるつき
前句「河原」の景、付句「闇に光」。さて、そこに照らし出されたものは ?
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レイヤー①
女が客をひいている、近頃うわさの「関の惣嫁」らしい。あまり阿漕なことをしてると「お月さんに石投げられるよ」、ふん「なにさ、おとといおいでってんだ」。
レイヤー②
「石投る」を軸に。各地の河原で「印字打ち」が行われており、伊予松山では石手川や重信川などのことが知られていました。そして、ここから全く別の異次元の世界へと広がってゆくのです。「合戦」です。「関の」=「合戦」、即ち、天下分け目の「関ケ原」へと。
レイヤー③
合戦のざわめきをかき消すように、月あかりがひとりの女を大写しにします。戦国の世を生きた<信長の姪、浅井が娘、茶々こと、秀頼の母、淀どの>だったのです。絵解き法師なら、「九相図」などを持ち出しながら、零落した女性たちのことを朗々と語っていたことでしょう。
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歴史家の桑田忠親は<淀はそれほどの美人ではなかった>と書いているのですが、ただ、浮名を流した噂噺には事欠ず、「絵本太閤記」などになりますとまるで「悪女」のように描かれていたのですから。
本当のところは、どうだったのでしょうかね。
■画像は、石合戦など。