
風早ハ兎文一茶両吟/門前やの巻
15
穢れし女下山してなく
念比に素湯貰て吞す也 一茶
初ウ九句、からだの芯から温まってくる、ふたりの恋。
〇
念比に ねんごろに。仲睦ましく情を通じること。
素湯 さゆ(白湯)真水を湧かした湯。
貰て もらふて、<他者から受け取って>の語をわざわざ添えて
吞す也 「吞む」は「飲む」に同じながらややニュアンスが違う。ここでは相手の意志を受け入れる意、也は成とも。
〇
けがれしをんな
げざんしてなく
ねんごろに/ さゆもらふてのみほすなり
旅ゆく人への白湯の持成しは、遍路宿の接待でもよく見られた光景でした。一茶は、さらに一歩踏み込んで、ここに情話を盛り込み恋の句に仕立ていたのです。
〇
もう忘れられてしまった民俗のひとつに「はしり遍路」がありました。
むらの若い衆の采配で、親に反対されている二人を旅に出したのです。これをハシル、あるいはアシッタといい、たいてい二人の旅は四国巡礼の遍路旅だったのです。
喩え恋路にならずとも、伊予では娘遍路とか若衆遍路が盛んに行われ、いわば通過儀礼のひとつとして地域社会のなかで制度化していました。シナリオライターの早坂暁はこうした伝統を「花遍路」に描いていたのです。
むすめ遍路に雪割櫻夕櫻 杏子
〇
白湯はからだを温めます。
俳諧に
咳く人に白湯まゐらす夜寒かな 几菫
埋み火や白湯もちんちん夜の雨 一茶
句に
水澄むや一本の湯気お白湯より 桃子
白湯を吞む十月吉野杉匂い 斌雄
8.10.2023.Masafumi.