仕切り直し樗堂一茶両吟/藪越やの巻
三
牛にすゝらす白粥の露 樗堂
院の月薄霧の香の寂ぬらむ ゝ
歌仙三句、月の座を引き上げて「らむ留め」、長短の句を連ねて遊ぶ俳諧の連句の妙味とでも。
〇
院の月 「院中の月」の用例はあるもののそれではなさそうです。其角『類柑子』の「里居の辨」に「季吟老人の雑談に、職人畫哥會に、白粉、しろいものうりと有、御の字をそへ、物の字を下略しておしろいなり。遠里、小野、をりの、うりうの 雲林院、うぢゐ、不動堂、ふどんど 郷談などにいひかけたる句は、おかしき筋なりとて、今はお里へおりう野の露 季吟」とありました。
薄霧の香 薄くかかった霧、その香。
寂ぬらむ 寂しさも尚一層に。て、らん、らむ留めは歌仙の定式です。
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この歌仙では、樗堂が二句続けて詠んでいましたので、付け筋にいくぶん含みも持たせる余裕があったのかもしれないのですが、後代の私どもからすればやや難解と言わざるを得ません。其角の「類柑子」にその解を求めたのですがさて如何なものか ? まるで自信はないのです。
とは云え、この句の映像美は秀逸でした。
月影に目を奪われてクラッシュバック、ややあって、薄霧の景が広がってゆく。月に薄霧の取合わせを、映像のなかに<感性>に訴える香を差し挟むことで、難なくこなしていたのです。あえて無用のことながら「薄霧の香」を線香の銘柄などで見かけることができますよ。(源氏香にはないのですけどね)
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其角「類柑子」には中宮定子の歌がありました。
いかにして過にしかたをすぐしけんくらしわづらふきのふけふかな 定子
雲の上もくらしかねける春の日をところがらともながめつるかな 御かへし
20.8.2023.Masafumi.
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