樗堂一茶両吟・蓬生の巻 12
川留の嶋田のかたハ嶋津方
かしこたてして憎き山伏 樗堂
初ウ六句、憎まれっ子世に憚るは山伏さんかぇ。
〇
かしこたて
賢立て、かしこーだて。かしこたつ。賢そうにふるまうこと。
して
よせばいいのに、おしゃべりが止まらない。
憎き
ほんとに、およしなってんだよ。
山伏
山伏さんたら、嫌われるよ。
〇
かはどめの/しまたのかたはしまつかた
かしこたてして
にくきやまふし
川留でみんなうんざりしているところに、情報通の山伏がひとり、見てきたような噺を語りはじめたのです。と、歌仙行には描かれていたのです。
〇
ほら、あそこ。
あそこにいるのが「嶋田のかたハ嶋津方」とくりゃあ、評判になった「五大力恋縅」だよ。
もとは上方の薩摩源右衛門のはなし。
これを江戸のはなしに置き代えて、九州は千島家の江戸詰めの源五兵衛と三五兵衛。片や深川芸者の売れっ子「小万」にしようってわけさ。きっとこれが大当たり間違いなしだよ。ほらみろ、島田宿に泊っているお侍さんの顔をみてみろよ、まるで九州侍を絵に描いたようなものじゃないか。深川芸者じゃなくっても「やぼのやぼ、野暮てん」だってわけさ。
〇
何云ってるの。
聞こえるよ、そんなこと云って切られちまっても、知らないわよ。
あたしゃ、島田の女郎だよ。
切ったはったはよしとくれ、もっといい噺はないのかい。
*
蓬生の巻 初裏一句から六句
秋 奥陸の新防守の秋されに 仝
雑 火打入へき革袋ぬふ 堂
夏 早苗饗の日と契たる中なれハ 茶
夏 身はぬれ鷺の夕暮の声 堂
雑 川留の嶋田のかたハ嶋津方 茶
雑 かしこたてして憎き山伏 堂
■画像は、「蟹山伏」ほか。
(姐さん好みの、島田の戎屋が「生写朝顔話」で語られるようになるのは、天保三年(1832)のことですから、こめんなさい、この歌仙には間に合いませんでした。)
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