![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/90425793/rectangle_large_type_2_7b44cf0ad41b9b10782d561786dc941f.jpeg?width=1200)
樗堂一茶両吟/蓬生の巻 30
秋霜に大阪雪駄辷る也
見セ物店の小男鹿を見に 一茶
名オ十二句、人の見たがるものが、さて、あるやなしや。
〇
見セ物店の
みせもの、見世物。それらを商う処。
小男鹿を
牡の若鹿。
見に
わざわざ、<そこに、それを>見にゆくの ??
〇
あきしもにおおさかせった/すべるなり
みせものみせの
さをしかをみに
「雪駄」と「小男鹿」、わずかに<皮>つながり。これを読み筋の糸口にして。
〇
雪駄の表は、元は竹皮。裏には、鞣革が使われていました。
剥がせば、物も変わる。
木戸口では、中の様子をチラリと見せる。「おっと、お代は見てのお楽しみ」と、呼び込みのお兄さんの声がかかる。
ベールに隠された、秘儀の扉がひらかれる。
〇
歌仙という文藝は、兎にも角にも、おかしいな、妙だな、そりゃないだろうなどと思わせなければなりません。
「小男鹿」と云えば歌にもあり、隠者の書き物にもあります。
その「小男鹿」を「見世物」という「場」に引きずり出したところが、何よりも滑稽だったのです。
〇
まさか、皮を剥がれた小鹿がいるわけでもなく、ギリシャ神話にみられる半獣の生き物がいるわけでもなく、それにもかかわらず、人はなぜ木戸銭を払って中を覗こうとしていたのでしょうか。
「何か、おもしろいものはないのかい。」と、俳諧師一茶は<悪場所>へと誘いながら、名残表を〆ていたのです。
寛政七年春、豫洲松山二畳庵でのことでした。
*
蓬生の巻 名オ七句から十二句
雜 信長の和睦破れし陣中に 堂
雑 かゝる時しも音楽の声 茶
雜 押合ふて笠着てねたる丸木舟 堂
月 秋 関の惣嫁に石投る月 茶
秋 秋霜に大阪雪駄辷る也 堂
秋 見セ物店の小男鹿を見に 茶
■画像は、「悪場所の発想」など。