風早ハ兎文一茶両吟/門前やの巻
05
土人形の土かわく見ゆ
二ツ三ツ銭さし捻る朝の月 一茶
初オ五句、経世済民の句を月の座に。
〇
二ツ三ツ 百文差でも一文銭が96枚、ずしりと重い。
銭さし さし、ぜにさし、ぜにざし(銭差、銭緡、繦)。藁、麻縄などで銭貨の穴に通して一纏めにした銭貫、あるいは銭縄のこと。虎明本狂言「河原太郎」に「『鳥目がたくさんあらふ程に おこさしめつなひでやらふに』ぜにざしをなふ」と。
捻る 指先でつまんで回す。ここでは「捻り出す」で金銭を支出するの意。
朝の月 ひとびとの暮らし、日々の営みに<さす>明け方の月。
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つちにんぎやうの
つちかわく
みゆ
ふたつみつ ぜにさしひねる あさのつき
土人形に銭と付けたのは、稼ぐに勝る貧乏なし、下々の者とてすべからく<おあし>は使いよう。近世になって刊行されるようになった農書の教えがあったのです。
夜な夜なの銭勘定はどちらかと云えば大店の商人の為せること、つましい庶民の暮らしは<使ってなんぼ>の朝な朝なの銭捻りにあると教えていたのです。例えそれが僅かであったとしても、<何かを生み出す>先を見据えた投資に向けさせようとしていたのです。
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誰樂軒浮世草子「立身大福帳」に
銭さし 銭をぬきたる跡をすてぬ物也 先にて銭をつかいさし明たれば一筋にても袖へ入れて帰るべし さやうに心得る人はかならず一代の内に大銀をもつ也 是をそりゃくにしてすてる人はいづれもひん也 これ冥利也
と。
もう十五、六年前のことになります。
小さなまちの幼稚園で園長をしていたときに、私は「銭さし」の話題から「わらしべ長者」の各地に伝わる様々なバージョンを子どもたちに聞かせていたことがありました。
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なにも「わらしべ長者」を出さずとも、歌仙の運びからすれば落語「今戸の狐」あたりがピッタリですが、なにせこの噺、兎文一茶の二人には預かり知らぬ、かなり後の世のことだったのですから ね。
28.9.2023.Masafumi.
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