風早ハ兎文一茶両吟/門前やの巻
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半分ハ仲人もかふる鍋の敷
近き隣の宵々の月 一茶
名オ八句、月の座を引き上げて人倫の機微を詠む。
〇
近き隣の ちかきとなり。諺に「遠くの親戚より近くの他人」がありました。
宵々の 「よひ」は、日が暮れてまだ間もないころのこと。「よひよひ」と重ね「日々の」暮らしを照らす。
月 お月さま。
〇
はんぶんは なかうども かぶる なべのしき
ちかきとなりの よひよひのつき
日々の暮らしの言乍ら、世話をやいたりやかれたり、ほらお月さまもご覧でさぁね、と。月は賞美の月でもあったのです。
〇
俳諧に
隣へも酒のあまりや小名月 才麿
三ケ月隣の梨に花がつく 仝
冬こだち月に隣をワすれたり 蕪村
欠して月誉て居る隣かな 几董
句に
生酔の隣たゝくや春の月 子規
ならぶ火は隣の国よ朧月 仝
妻去りし隣淋しや夏の月 仝
隣より謡ふて来たり夏の月 漱石
〇
猶々
秋深き隣は何をする人ぞ 芭蕉
万歳のやどを隣に明けにけり 荷兮
大雪や隣のおきる聞き合せ 浪化
隣への藪結わけて星祭 園女
衣更わざと隣の子をだきに 仝
藥喰隣の亭主箸持參 蕪村
このふた日きぬた聞えぬ隣かな 仝
やぶ入の宿ハ狂女の隣かな 仝
さかしらいふ隣も遠く冬篭 几董
蝿を打つ音や隣もきのふけふ 太祇
壁の蔦隣は鰯たく香哉 成美
一夜酒隣の子迄来たりけり 一茶
も一つは隣の分ぞゆみそ釜 仝
隣とは合点しても小夜砧 仝
きりぎりす隣に居ても聞へけり 仝
藪入や鯛一匹を隣あひ 子規
爐開の藁灰分つ隣かな 仝
しんきやな隣の地唄春の雨 紅葉
脊雨の隣の琴は六段か 漱石
秋の暮隣の娘売られ行く 寅彦
隣へ貸す八月十五日の大鍋 谷子
〇
さらに俳諧歌に
楽しみもうれひも花に三ケ月のそりの合たる隣をも哉 一茶(七番日記)
たのしびも憂ひもともに三か月のそりのあふたる隣をもがな 一茶(真蹟・信州高山一茶ゆかりの里)
一茶の俳諧歌は文化十四年(1817)の作品でした。
15.10.2023.Masafumi.
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