小説「数珠つなぎ」
最後の日。これで最後だからもう会わないからこんな最低な暮らしはもうオシマイだから、だからこそ何もかも覚えていないように。私と彼は酒屋に言って、ビールを5箱買って、当然持ち運べないから丁稚さんに軽トラ出してもらって、それが前日の事。朝、6時に目覚ましを掛けて、家財道具はみんな売るか捨ててしまった、布団しかない部屋で、起きて、そして飲み出した。もう会わないから。何も残らない方がいいから。いっそ死んでもいいから。そんなつもりで、出鱈目な酒を飲んだのだった。だから、彼の事はほとんど覚えていないのだけど、脳と言うやつが恨めしく。結晶のようにして残った映像が、数珠玉をつなぐように、ところどこ残っていて、地獄に堕ちろ、とかだったら良いのに。元気で、しあわせに、そう言うことを交わした記憶が、何十年と経った今でも、時々私の骨の間から見つかって、驚かされるのだ。