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オーディオブックの未来
オーディオブックが今年の流行語大賞にノミネートされるほど普及してきた。AmazonのAudibleは2022年1月から聞き放題定額制を導入するほどタイトル数が充実してきている。Audiobook.jpはナレーターのシンプルな朗読からラジオドラマさながらの何人もの声優をキャスティングして効果音なども盛りこむなど進化した形のオーディオブックを配信している。
Spotifyが注力する音声サービス
Spotifyもオーディオブックに触手を伸ばしている。ラジオ番組に目を向けると、一時期は消え掛かっていたラジオドラマも、今はまた活況を呈してきた。Spotifyではポッドキャストの人気が高く、音声エンターテイメントは確実に盛り上がる方向に向かっている。
オーディオブックを含めたSpotifyの音声サービスに関してはこの記事でも触れている。
読書のスタイル
読書のスタイルとしての「聴く読書」、私はシンプルな朗読が好きだ。ひとりのナレーターや俳優が読み進めるもの、またはAlexaに読み上げてもらったり、ロボホンに読み上げてもらったりするのが私には合っている。たくさんの声優さんが出演して、効果音などもふんだんに使われている作品は豪華でエンターテイメント性も高いと感じるが、シンプルな朗読はその余白の広さが想像を膨らませる方向に働くと思う。好みは分かれるところだろう。
私自身は聴く読書はここ5-6年活用しているが、在米中にはそれほど、朗読会やポエトリー・リーディングなど、ライブの現場に足を運んではいなかった。何年か前に、日本国内で朗読劇を観に行ったことは何度かある。
ポエトリー・リーディングとヒップホップ
その一方で、ヒップホップはあまり聴く方ではないが、ヒップホップの近接ジャンルであるポエトリー・リーディングは、洋楽を聴いていると割と身近にあった。ディラン・トーマスはミュージシャンの間でも人気の高い詩人だが、彼のポエトリー・リーディングは彼の声だけで構成されている。英語の語感が元々、ビートとの親和性が高いせいか、独特のリズム感を生んでいる。
ジャック・ケルアックのポエトリー・リーディング・アルバムはピアノ演奏に合わせて進んでいく、音楽と一体化したもの。
そしてギル・スコット・ヘロンはジャズに合わせて語る、こうしてポエトリー・リーディングはラップを生み出す道筋を作ってきた。
言葉というのは人の声を通して伝えられてきた。それは本の歴史よりも長い。活字が持つ力とはまた別の力、人の声で発せられる言葉というのはその言葉に力を与える。耳を通して入ってくる言葉、語りかけられる言葉というのは文字とはまた違った形で人の心に届くのだ。
オーディオブックの可能性
だからオーディオブックには大きな可能性がある。さまざまなスタイルが提案できて、それぞれのスタイルを支持するリスナーが出てくるだろう。それにオーディオブックならクロスメディアで作品を作っていくことが可能だ。例えば詩や小説をモチーフに音楽を作り、朗読をし、それをレコーディング制作してアルバムにするのも可能だ。ルー・リードがRavenで提案したように。
ルー・リードのRavenは現在のオーディオブックに最も近いスタイルを提案していたのではないかと思う。音源制作が出来れば、ライブ・パフォーマンスも可能だ。ポエトリー・リーディングはラップの近接ジャンルな分、ラッパーだけでなくバンドなどのミュージシャンが一緒にステージに立つことが多いし、音楽と組み合わさるとライブでの視覚効果の部分も可能性が広がっていく。
逆にシンプルな、朗読劇というスタイルは稽古日数が少なくて済む分、制作費も抑えられる。今まで私が観てきたのはドラマや映画の脚本家が朗読劇用に脚本を書いて俳優2人がステージ中央の椅子に座り、それぞれが自分のパートの部分(本)を読んでいくスタイルだったが、俳優がほとんど前を向くことなくじっと座って本を読み続ける姿を観ているスタイルの観劇でも全く飽きることなく楽しめた。もし新作小説の刊行後間を空けずに小説を朗読劇のように観られたら、それも楽しいのではないかと思う。
録音制作されたものが現在は主流である聴く読書、オーディオブックは今よりももっと普及したらライブ・パフォーマンスの世界に広がっていけるのではないか、私はそんな期待をしている。エンターテイメント業界に閉塞感が広がる20年代に、ゲーム・チェンジャーとなりうる、そんな可能性がオーディオブックには秘められている。
今日の1曲
ウィレム・デフォーのポエトリー・リーディングの後ろでラウドに鳴るギター・サウンドが素晴らしい。
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