8.初デート
彼との初デート。
この日は、お昼間の誰も居ない彼のバーで待ち合わせ。
特に何も計画はしていなくて。
というよりも、それまでずっとメールでのやりとりばかりだったから、ちゃんと話してみたかった。
レンのお店のカウンターに座ると、彼が飲み物を出してくれた。
レンも私の隣に座って、しばらく話していた。
どんな話しをしたかなんてもう覚えてないけど、笑うと目尻にシワが入る横顔が素敵だった。ただ話しているだけで数時間経過してて。日曜日の昼間なんて、もちろんバーはおやすみ。当然、お客さんが来るわけでもない、お店にはレンと私二人きり。それもあって、時間が経つのを忘れてずっと話していた。
午前中に待ち合わせして、そろそろお腹も空いてくるお昼頃にはさすがに話すネタも尽きてきて会話が途切れ途切れになっていた。
沈黙が、なんとなく気まずくって、カウンターに置いてあったレンの車の鍵を触って遊んでいた。
レンの車の鍵には、家の鍵、お店の鍵、職場の鍵、沢山鍵が付いていて触るたび鍵同士がぶつかって音を立てていた。
私とレンの会話の合間を、鍵の音だけが繋いでいた。
チャリン
チャリン。。。
レンが、急に私の手を鍵ごとカウンターに押し付けた。
ちょっとびっくりして、レンの方を見ると、レンがじっと私を見ていた。
レンと私の距離が近づいていく。
あ、これはヤバいやつ。
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レンと、初めてのキスをした。
あんなにも長い間キスをしていたのは、初めての経験だったし、あんなにも夢中でキスしたのもされたのも、初めてだった。
キスをした後も、私とレンはずっと抱き合っていた。
直接会った回数は少ないけど、それまでの半年ぐらいの間ずっと
やりとりをしていたからなのか。
彼と触れている事に違和感を感じなかった。
その後も暫くお喋りをして、お店を出ようかという頃には、
すっかりお昼も過ぎていた。
この日は、二人で遅めのランチをして、夕方頃まで一緒に居た。
「付き合いましょう」って申し入れなしに恋人としかしない行為をしてはならない。
なんて掟が、なんとなくあったけど。
この時はもうそんな事どうでも良くなっていた。ガールズトークでこの件を話題にしたら絶対指摘されるやつ。でもそれでも、もういいやと思っていた。
彼としたこの日のキスの事は、きっとこの先ずっと
忘れる事はないと思う。
それぐらい素敵なキスだった。