全面箔押し(しかも2色)カバーを作った話
このたび、全面箔押しカバーの同人誌を作りました。
A5サイズで広げるとA4+折り返し部分となり、かなりの大迫力です。
大手サークルならまだしも、「この部数でできるの?」と思われそうなほど部数は控えめです。
この部数での発行が可能になってしまったのも、
箔押し コスモテックさん https://linktr.ee/cosmotech_no1
カバーの印刷・本文印刷 大陽出版株式会社さん https://www.taiyoushuppan.co.jp/doujin/index.php
デザイナー・日村克美さん https://hymmra-k.tumblr.com/
による、ご協力の賜です。
コスモテックさんは一般の箔押し加工会社で同人誌専門の会社ではないため、本文印刷などを含めて、どのようなやりとりで進行したかが気になる方もいらっしゃるかもと思い、こうして記事にしてみました。
コスモテックさんでも一足先に記事にしてくださいました!
長くなるので要点
・少部数でも全面箔押しはできる
→箔押し・印刷に関して部数を理由に断られることはおそらくない、という意味です。
とはいえ、少部数では当然割高になる面も出てきます。極力赤字が出ないようにするなら、工夫が必要になると思います。私は印刷所の早割を駆使しました。
最初は箔押し料金の金額が想像もつかず、カバーだけで1冊あたり最大1,000円までの予算を設定していました。
結論からいえばそこまでかかりませんでしたが、それに近い金額にはなりました。
ただし、箔押し費用、紙代、ベルベットPP加工代などのほかに、2回目の箔押し校正代、デザインなどの外注費等をすべて含んだ金額ですので、やり方によってはもっとリーズナブルにできるはずです。
・準備期間はたっぷり取ろう!
→コスモテックさんは箔押し専門の会社なので、箔押しに使う紙などは基本的に我々依頼者側の手配が必要になります(※理由は2節で触れます)。
今回は本文印刷をしてくださった大陽出版さんの協力で実現しました。
思わぬところで時間がかかったりするため、準備期間はたっぷりあるほうがベターです。
1.全面箔をしよう!
※長いため箔押し・印刷についてのみ読みたい方は「2」から読んでくださいね。
2018年頃
日村さんが手がけた同人誌の表紙デザインを初めて拝見し、「この方に装丁を頼んでみたいなあ……」という思いがぼんやりと浮かびました。
2019年春頃
日村さんにお願いしてみたい企画を思いつき、ご多忙そうでしたが、ダメ元でメールをお送りしました。
運よく同年秋のスケジュールを頂戴でき、企画・制作がスタートしました。
(なお、2018年から始まってなぜ発行が2021年なの?そんなに大変なの?と不安に思われるかもしれませんが、私の個人的な事情のせいです。普通は長くても数か月だと思いますので、ご安心ください)
今回の同人誌はBL商業誌番外編とはいえ、かなりマニアックな内容の再録本です。有り難いことに熱心な読者さんはいらっしゃいますが、部数はかなり控えめになるのは、当初よりわかっていました。
ちなみに依頼書はこんな感じです。
綺麗な本を作りたいけれど、少部数なのでフランス製本とかフルカラー+特色かなと考えていましたが、Skypeでの打ち合わせを経て日村さんがくださったラフがこちら。
※基本料金では通常1案で、今回はオプションで2案お願いしております。
どちらも違った方向性で魅力的ですが、全面箔と言われて拒めるオタクはいません。そのうえ、箔押しのみで繊細な図案のすべてを表現するという試みに心が動きました。
実現が難しいのはわかっていましたが、A案の全面箔プランで動きだすことに。
実は、初めて拝見した日村さんのデザインでも大面積の箔押しが印象的だったので、この案を見せていただいてとても嬉しかったです。
箔押しをどの会社にお願いするかで頭にぱっと浮かんだのが、時々Twitterで、「ものすごい箔押しができる会社」として見かけるコスモテックさんでした。
ただ、コスモテックさんのサイトをいくら探しても料金表がありません。
(※お問い合わせすると快く見積もり出してくださるため、怖がらなくて大丈夫です。値段表がない理由は次の2節に書いています)
この緻密さだと高額な高精細箔になるだろうと予想が付いていたので、ものすごくお金がかかるのでは!?と不安になりました。
しかし、日村さんが「見積もり次第で、・2-3色の全面箔 ・1色の全面箔 ・4C+箔 で考えます」とおっしゃってくださったおかげで、まずはコスモテックさんに問い合わせいたしました。
2.コスモテックさんにご相談
2019年11月頃
かなり少部数なので到底無理だと危惧していたものの、上製本にしなければ予算をカバーに全振りできるだろうと考え、ダメ元でコスモテックさんに上記のラフを送ってご相談しました。
すぐに青木さん(後に前田さんに担当さんが交代)からお返事をいただき、あまりの速さに驚いたのを覚えています。
思えばこのときにラフをお見せしていたことで、あとの打ち合わせがすごくスムーズになりました。
実際、コスモテックさんも、
と書いてくださっています。最初から完成イメージが共有されていたため、やりたいことを説明しやすく、とてもスムーズでした。
ご相談した際は、「予算によっては表紙のみ全面箔押しにして、裏表紙はワンポイントにする」つもりでしたが、嬉しいことに表紙+裏表紙全面箔でも予算内で、全面箔を採用できました!
通常、同人誌印刷所のサイトには基本料金表が掲載されており、それに慣れている方は、料金表がないコスモテックさんのような会社には戸惑うかもしれません。実際、私もそうでした。
どうして料金表がないのかコスモテックの青木さんに伺ったところ、
とのお返事をいただきました。
確かに、コスモテックさんは図柄によって箔型の素材を変えたりなさってるため、料金表というかたちにするのは難しいだろうなと思いました。
また、お問い合わせするときは、
がわかっているとスムーズだそうです。
私のときも大変丁寧に見積もりを出してくださったので、もっと肩の力を抜いて問い合わせてよかったんだな、と思いました。
そして、コスモテックさんは箔押し専門会社なので、カバー用紙などは基本的にこちらが手配することになります。
名刺など企画なさってるのに無理なのかな?と疑問を抱いていたところ、青木さんが理由を教えてくれました。
そんなわけで、
同人誌印刷所にカバー・表紙などの用紙を手配してもらう
↓
コスモテックさんで箔押し
↓
(製本などのため)印刷所に戻す
という工程は日常茶飯事だと教えていただき、次はカバーや本文の印刷所選びです。
まず、上製本などの凝った同人誌を作るときに頼むR社さんに伺いましたが、R社さんではコスモテックさんではなくほかの協力会社で全面箔をなさっているとのこと。コスモテックさんへの依頼はだめではないものの、トラブルが起きたときに対応しかねます……という、できるだけ協力会社を使ってほしいというニュアンスが濃厚でした。
これは理由も含めて納得のお返事で、異論はありません。
とはいえ、箔押しはどうしてもコスモテックさんにお願いしたくて、普段からお願いしている大陽出版株式会社さんにご相談しました。
すると、二つ返事でOKしてくださいました。ありがとうございます!
3.カバー箔押しまでの道のり
今度は用紙や加工、箔色などを選びます。
前回、
・箔押しはコスモテックさんで
・紙などは発注者側で手配(実際には本文の印刷所にお願いする)
と役割分担が決まりましたが、ここから更に詳細を詰めます。
日村さんと私は「中世の写本のイメージ」を持っており、仕上がりを皮革っぽくしたかったものの、クロコGAのようなざらっとした風合いのある紙は箔押しが定着し難いイメージがあり避けました。
また、以前カバー付きの同人誌を作った際、表面加工ができない特殊紙を使ったため、保存性に不安が残ったことがあります。
そのため今回、全面箔をするのであれば、同時に表面加工(PP加工など)をして保存性も高めたいと考えていました。
コスモテックさんのお話では、「黒い紙への箔押しは、黒に含まれるカーボンに箔が反応して腐食する可能性がある」ため、腐食防止としてPP加工をするとベターだそうです。
皮革のような手触りとなるとベルベットPP加工(第二希望はマットPP加工)ですが、表紙のベルベットPP加工に箔が定着しないケースがあるため、一度コスモテックさんでのテスト箔押しが必要とのこと(マットPPでしたらテストは不要)。
また、カバーには大陽出版さんが折り加工をするときのトンボ印刷が必要です。
こちらは印刷所の領分なので、紙の手配、トンボ印刷や表紙加工などは、大陽出版さんですべてやっていただくことになりました。
結局、以下のような工程でコスモテックさん・大陽出版さんと話がまとまりました。 ※図中、敬称略。
そんな中、ついに日村さんのデザインが完成しました!
ちなみに後から知ったのですが、このデザイン、日村さんの書き起こしなんです。すごくないですか……!? どうやって素材を組み合わせたのだろうと思っていたら、まさかの……!
紙は「羊皮紙(すみ)」に決定。
箔色もコスモテックさんの箔見本を見ながら日村さんに2案出していただき、最終的にコスモテックさんにご意見を伺うことになりました。
(が、ここで自分の勘違いと大変個人的な事情のため、同人誌の企画自体が1年以上中断してしまいました。コスモテックさん、大陽出版さん、日村さんに大変ご心配をおかけしてしまいました……)
そして、いろいろあって2021年6月に再始動します。
ここからはどんどん話が進みます。
2021年6月
コスモテックさんと大陽出版さんに、見積もりをやり直していただきました(コロナ禍でイベントに参加できず、部数を下げたため)。
結果、大きな変化はなく、部数的にも問題ありませんでした。
しかし、羊皮紙「すみ」がちょうど2021年6月に廃番になってしまい、用紙の再考が必要になりました。
コスモテックさんからは、真っ黒なほうが箔が映えるうえ、あらかじめ腐食防止加工がされており(=PP加工などがいらない)漆黒が美しい「箔守」という新製品はどうかとご提案いただきました。
ただ、紙厚が薄いか厚いかの二択だったのと、保存性のために何らかの表面加工はしたかったため、ちょうどいい厚みで絶妙な風合いのある「NTラシャ(漆黒)」にしました。
4.箔押し立ち会いのススメ
コスモテックさんでの実験を経て、カバーの加工はベルベットPP加工に決まりました。
次は箔押しの校正です。
校正刷りをしてくださって、あまりの箔のド迫力に興奮したコスモテックの前田さんが画像を送ってくださって、こちらも大興奮でした!
※迂闊にもツイートを削除していまいましたが、画像は下記の2点です。
校正が手元に届いて初めて、コスモテックさんが「ここまでの大きさの全面箔を手がけることはめったにない」と書いていた意味がわかりました。
とにかく、箔が迫ってくるように感じるほどのド迫力なのです!!!!
上の2点の画像が1回目の校正で、こちらの出した2案で押していただきました。
メインの図像を彩る1色目の箔色(ホログラム金)は和泉、日村さんともにOKでしたが、差し色となる2色目はいずれの案もホログラム金との差がわかりにくい気が……。
しかし、こちらは箔押しに関してはそこまで詳しくないため、新しい箔を選んだとしても、2色を組み合わせて押したときの雰囲気の想像がつきません。
そこでコスモテックさんが「箔押し加工立ち会い」をおすすめしていたことを思い出し、その話をメールに書いたところ、現場スケジュールを調整してくださり、コスモテックさんの工場へ伺うことが叶いました!
箔立ち会い当日
最初は1台の機械で2色の箔を二日に分けて押す予定でしたが、コスモテックさんが2台の機械を一度に使えるように工場内で調整してくださり、一日で確認できることが可能になりました。
そんなわけで、当日です!
同行してくださった日村さんと到着すると、なんとコスモテックさんでは既にいろいろな箔を押して実験してくださってました。
校正は多くても数種類しか試せないと思っていたため、こんなにもたくさん押していただけると思わず、正直、びっくりしました。
もう、ひたすらに興奮しっぱなしです。
※迂闊にもツイートを削除してしまったので、動画をnoteに引用する方法がわからなかったこともあり、当時と同じ文章を再投稿しました。大変申し訳ありません……。
実際に押していただいて、ホログラム箔ゴールド×ホログラム箔シルバーの組み合わせが上品かつきらめきが美しく、こちらで決定いたしました!
この2色、一つ一つの箔を見ると輝きがすごくて激しすぎでは?と思われるかもしれません。
実際、私自身も「さすがにホログラム同士はギラギラするんじゃ……」とできあがりには半信半疑でした。
ですが、完成品を見ると、文様の繊細さも相まって不思議なほどにエレガントなのです。
正直、自宅で箔見本を見て頭を悩ませていただけでは、この組み合わせは考えもしなかったでしょう。
これは、まさに校正に立ち会わなければ生まれなかっただろうなという組み合わせでした。
コスモテックさんで箔押しをなされる方は、ぜひ、立ち会いをおすすめします!
5.大陽出版のここがすごい
コスモテックさんだけでなく、大陽出版さんにも、大変お世話になりました!
同人誌印刷はいつも大陽出版さんを利用しており、今回も箔押し以外の印刷面ではすべてお願いしているため、見積もりも含めて数え切れないほどのメールのやりとりをしました(本当にありがとうございました!)
大陽出版んは昔からお財布に優しいセットものが中心で、それらと比べるとどうしても基本料金が高く見えてしまい、特殊な本を作るのは……とためらわれる方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、実はセット内でできることはびっくりするほど多様で、とても融通を利かせていただけます。
今回は「ぴたごらすセットR(特殊紙+1色刷り)」をベースにしていますが、
・表紙用紙 ……特殊紙のNTラシャ(セット外)
・表紙インク……特色メタルインク(LR輝 ※取り寄せ・セット外)
・遊び紙 ……特殊紙2種類(NTラシャとキュリアスメタル)を前後に、計4枚(セット外)
・カバー用紙……トンボ印刷及びベルベットPP加工(セット外)
・本文用紙 ……書籍用紙(セット外だけど基本料金でOK)
・本文印刷 ……墨刷り
・表紙の色校正×2回(セット外・別料金)
正直、ここまで来るとセット内でやっていることは「本文を墨刷りで印刷する」点くらいですが、これだけバリエーションを持たせてもセット適用。
そして、〆切に間に合えば、セット内の部分に関しては各種早割が適用されます。
※特殊加工などは別会社にお任せするケースが多々あるため、オプションについてはこちらの想像以上に時間がかかることがあります。また、紙や特殊なインクの手配に関しても、場合によっては時間が必要です。
表紙はシンプルにカバーと同じ「羊皮紙(すみ)」に墨刷りを予定していましたが、カバーが「NTラシャ(漆黒)」になった関係で、表紙も同じものに変更しました。
すると、「この紙とインクの組み合わせでは意図した仕上がりになるかわからないのでは」と大陽出版さんよりご指摘いただき、ぶっつけ本番は怖かったので、校正印刷をお願いしました。
最終的には特殊なメタルインクを取り寄せていただき、そちらで印刷していただいております。このインクについても、いろいろアイディアを出していただきました。
この事例に限らず、大陽出版さんからは同人誌印刷のプロの視点からいろいろサポートしていただき、とても心強かったです。
遊び紙は、表紙、カバーと同じ「NTラシャ(漆黒)」を使うことで、カバー折り返しの箔押しの豪華さを際立たせたいと思ったものの、逆に「地味すぎてカバーで万策が尽きたと思われるのでは?」と不安になり、遊び紙を2種類入れました(笑)。
結果的に、カバー、表紙、遊び紙と同じ用紙に揃えたことで、見返しのような効果が出たと思います。
今回は箔押しカバーが華やかさの陰に隠れてしまいがちですが、縁の下の力持ち的な大陽出版さんがいらしてこそできた本です。
表紙や本文の印刷・製本も少部数とは思えぬほど美しいため、実物を手にした方は本文もご確認ください。
6.最後に
自分の備忘録的に細かく書きましたが、「コスモテックさんで箔押ししたいけど敷居が高そう!」「大部数じゃないと無理では……!?」と感じている方の背中を押せたらいいなあと思います。何よりも自分が箔押しの粋を尽くした綺麗な本を見たいのです。
そして、大陽出版さんの万能ぶりも味わっていただきたいです!
全面箔カバー実現のためにいろいろやりとりしている最中は、「すりあわせが多くて終わらないかも!?」と危惧しましたが、実際に完成品を手にするとまた綺麗な本を作りたいと計画し始めてしまうので、我ながら現金なものです。
実は今回の同人誌は採算度外視で企画したのですが、途中で部数が読めないことで不安になってしまい、先行予約を取るかたちで読者の皆様にとても助けていただきました。
本当にありがとうございます!
お手にとってくださった方がずっと手許に置いておきたいな、と思ってくださるような本になったなら、とても嬉しいです。
日村さん、コスモテックさん、大陽出版さん、そして読者の皆様に厚く御礼申し上げます!