【ゆ虐SS】はげれいむの“きもち”
男なら一部を除いて誰しも『ハゲ』の恐怖に慄くものだ。若いうちはどうにかなるさとおどけてみせるが、年を取るにつれていかにハゲ治療が大きな市場かに気がつき、いつの間にかその市場に足を絡め取られているのだ。
ここに1匹のゆっくりれいむがいる。よく手入れがなされた美しいリボンにはキラキラとした金バッチが輝いている。多少加齢はしているが肌はスベスベモチモチとして健康的だ。どこをとっても非の打ちどころがない美ゆっくりだ。ある一点を除いては...
「おにいさん!!れいむのかつらさんはどこなのおお!?ちゃんとよういできてないなんてむのうすぎるよ!!れいむにはげのままでおそとにいけっていうのおおおお!?」
れいむはハゲていた。頭頂部周辺の髪は綺麗に抜け落ち、側頭部と前髪の一部分しか残っていない。整った目鼻立ちやリボンがハゲのみすぼらしさを強調させている。
このれいむと飼い主は5年前にゆっくりショップで出会った。飼い主は初めてのゆっくり飼育だったので、なるべく初期投資は少ない様に1個200円の激安ゆっくりから飼うことにした。当然超ゲスか足りないゆっくりが99.99%のガシャポンゆっくりを飼うのは悪手だったが、飼い主は強運の持ち主だった。
れいむはとても賢いゆっくりだった。飼い主が教えたところ、ひらがな50音を正確に記憶して使いこなせたし、2桁までの足し算引き算と3の段までのかけ算を難なく解くなど、ゆん知を超えた天才饅頭だった。メディアはれいむを持て囃した。飼い主もまたゆっくり教育家として有名になり、ゆっくり知育ブームに合わさって本が売れたり講演会が人気を博してお金持ちになった。
れいむは優しい飼い主が大好きだった。教えたことを覚えると褒めてくれるし、ご褒美に食べるオレンジゼリーが大好きだった。飼い主もれいむのことが大好きだった。
しかし、有名になるにつれ二人(?)の心の距離は離れていった。
れいむは鏡を見ながらぷきゅーとまではいかないがぷりぷりと怒ってイラついていた。
「はやくれいむのからだをきれいにしてかつらさんをよういしてね!!れいむをわらいものにしたいの!?」
最近れいむのハゲが更に進行しており、遂に前髪すら抜け始めている。ハゲてからというもののれいむは確実に短気になったし飼い主に対して口答えをすることが多くなった。飼い主はそこが気に入らなかった。
「ゆううううっ!!はやくしてね!むのうなおにいさんはきらいだよっ!!」
飼い主はれいむの偉そうな言動にイラつきつつ、ゆうゆうと喚くれいむの体を掴みクルクル回して拭いて、リボンを軽くドライヤーで温めて綺麗に伸ばす。そして、ハゲ頭に水飴を塗り特注のカツラを被せた。
今日は日曜日だったが飼い主は講演会の資料をまとめるのに時間がかかりすぎてしまい、正午までに作業を終えるはずだったのだが2時間も長引いてしまった。焦ったのか水飴を少し多めに塗ってしまった。
“しゃこうかい”とは、これから公園で行われるゆっくりの社交クラブ(ゆっくりの癖に洒落た言い回しである)のことだ。
れいむと飼い主は“しゃこうかい”の人気者だ。れいむは周りのゆっくりから天才と呼ばれるのが好きだし、飼い主も他の飼い主やブリーダーから羨望の眼差しを受けておりとても鼻が高かった。
その公園はタワーマンションから車で10分ほど行った桃花台という住宅地の端っこにある。山際にある広い公園だ。そこには野良ゆっくりたちが人間との“きょうてい”、“じょうやく”を守って園内の掃除をしたり、害虫の駆除をしたりして生きている。ゆっくりは群れを好む生き物なので、野良といえどもゆっくりが沢山住んでいるこの公園は“しゃこうかい”の定番スポットなのだ。
時刻は午後3時前。先に着いた飼い主たちがベンチに腰を据えて雑談をしていた。ゆっくりたちはその周りで遊んでいる。ハゲのれいむたちも遅れて合流した。
「あられいむおそかったじゃないの」
「まってたんだぜれいむ!」
「しゅやくはおくれてくるんだよねーわかるよー」
「むっきゅん!てんさいにしてはおそいわよっ」
「ちーんぽ!ちーんぽ!」
銀バッチのありすは待たされたので少しムッとしている。金バッチのまりさはれいむの一番のなかよしで“しゃこうかい”の中でれいむにつぐ賢さだ。ちぇんは銅バッチの新入りでキョロ充に徹している。ぱちゅりーはれいむより先に金バッチを取得しておりとてつも無いライバル意識を持っている(金バッチに関しては単にぱちゅりーのほうが生まれるのも試験を受けさせるのも早かっただけだが)。他にも色々いるが割愛。
ゆっくりと同じく飼い主同士でも挨拶が始まった。主婦が多く当然のようにマウント合戦が始まっていたがそれも割愛する。
「ゆぅ〜ん!れいむはきょうももびゆんなのぜ!」
「ゆふふ、ありがとうまりさ!」
「てんさいだねーわかるよー」
「もうっ!ちぇんはいいすぎだよぉ〜」
「「「てんさい!てんさい!てんさい!てんさい!」」」
いつものようにれいむ賛美が始まった。他でもなく自分の確たる実績と才能によってヒエラルキー最上位に立つという至福は計り知れない快感だ。れいむはハゲのことを忘れてまるで最高級のオレンジジュースに酔うような気分でいた。
「ねえれいむ、なんだかあついとおもわない?」
ぱちゅりーが声を発した。今は春先に比べて少し蒸し暑い。確かにゆっくりは暑さ寒さ両方にたいして敏感だが、言うほどの蒸し暑さでもなかった。
「そんなにあつくないとおもうのらけろ」
「わからないよー」
れいむは不思議そうに答えた。
「ぱちゅりー、なんでっ...」
れいむの言葉が途切れた。れいむは目に違和感を覚えてパシパシと瞬きした。もみあげで目を擦るとヌルヌルとした液状の何かで髪が濡れた。水飴だ。
「そういえばれいむ、すっごくあせかいてるのぜ!」
「ねっちゅーしょーさんみょん?」
「れいむどうしたんだぜ?」
飼い主が水飴を塗りすぎたのだ。ゆっくりの持つ体温と蒸し暑い熱気が水飴を溶かし始めていたのだ。
れいむは焦った。このままカツラがずり落ちてハゲがバレでもしたら自分は“しゃこうかい”での権威を失ってしまうと思ったからだ。
「ゆっ...ゆふぅ〜!たたっ...たしかにちょっとあついとおもってたんだよ!お...おおにいさんにおみずもらいにいこうっとぉ〜」
引き攣った様な話し方のれいむはゆっくりとカツラがずり落ちないように進んだ。既に水飴の大部分は溶けていて、カツラが微妙にずれて摩擦する感覚が頭皮を撫でていた。バランスを崩せば簡単にカツラは取れてしまう。焦るれいむのあんこは急速に饅頭の中を循環している。
ぱちゅりーはニヤリと笑った。このぱちゅりーはれいむに比べて頭は良くないものの洞察力や直感に優れており、ずっと前かられいむのカツラに気がついていたのだ。
常にそのことを暴露するタイミングを窺っていたぱちゅりーは遂に王手を打った。
「みて!おそらからあまあまがふってきたわ!」
「「「「ゆ!」」」」
ゆっくりたちは一斉に上を向いた。
“あまあま”という究極の甘言を聞いて反応しないゆっくりはいない。これは本能のようなもので抗えないのだ。
れいむもうっかり空を見上げてしまった。
「あ...あああ...」
特注のカツラがぬるりとズレてべチャリと落ちた。
終わった。
ゆっくりたちから悲鳴にも似た笑い声が上がった。
「「「「ゆああああああああああああああああああああ!!!」」」
「れっれっれれいむがあああ!ゆひゃひゃひゃひゃ!!」
「はげなんだねーーわかるよー!!」
「とっとかいはじゃないわああゆひひひ!!!」
「むっきゃっきゃっきゃっきゃ!!!はげれいむ!はげれいむ!」
「ゆああああ!!れいむのかつらさんがじめんをねりあるいている!!」
「「「「はげれーいむ!!!はげれーいむ!!!はげれーいむ!!!」」」」
飼い主も何事かとゆっくりの方を見たが、ハゲれいむの惨めなハゲ頭を見て察したのか何も言わなかった。
360度の嘲笑を受けてれいむは心の中の何かが壊れた気がした。自分よりバカでゲスな有象無象のゆっくりたちの嘲笑に対して言い返す気力もなく、ハゲれいむは駐車場に走り去った。飼い主も慌てて走り去った。
金バッチのまりさはハゲれいむに同情して決して笑うことはなかったが、周りの反応が怖かったので特にれいむへの嘲笑を止めるようなことは何も言わなかった。
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家に帰ってからのれいむは台風の様に怒り、激流の如く罵詈雑言を飼い主に浴びせた。
「ゆっっっがあああああああああああ!!!&おにいさんがれいむのあたまをだいじにおもってないからこうなったんだよ!あたまからみずあめさんがたれてきたよ!あのばかげすあほたりないゆっくりどもにれいむのはげがばれちゃったんだよおおおお!おにいさんがてきとうなことしたからこうなったんだよおおお!!!」
『いやあ、別にハゲくらいどうってことないぞ。そりゃゆっくりにしては珍しいけど、ハゲなら他にいっぱいいるだろ。女だってハゲる時はハゲるしな。それに勝手に公園から逃げ出したりして俺は恥ずかしかったんだが』
飼い主は若く髪の毛はフサフサだった。
「むのうなぐそじじいのぐぜにがいぬじをぎどるなあああ!!!あほあほあほあほあほ!!むのう!!ゆがあああああああああ!!!!じねっ!じねっ!じねっ!じねっ!どうていぺにぺにせんせい!!」
れいむは飼い主の脛に精一杯の恨みを込めた体当たりを繰り返した。
『ゴチャゴチャうるせェんだよッえーっ!!??』
遂に飼い主の堪忍袋の尾が切れた。
ドゴオッ
飼い主はハゲれいむの下腹部(?)を蹴り上げ、鈍い音がした。れいむに暴力を奮ったのは初めてだ。ハゲれいむは蹴り飛ばされて壁に思いっきりハゲ頭を打ち付け、あんこを吐いた。
「ゆべっぐべえっ...おっ...おにいざん...ごべんなざい...れいむがいいずぎまじだ...ゆるじでぐだざい」
ハゲれいむは歯の混じったあんこを吐きながら床に頭を擦り付け、涙をポタポタと流しながら謝罪した。
が、飼い主の怒りは治らなかった。昔買って今まで一度も使わなかったゆ叩き棒を取り出してれいむの体を何度も打ちつけた。
『てめェよお、お前だけの都合で世の中回ってねーんだよカス饅頭がよお!!オラッ!何回も何回も散々人を無能扱いしやがってコラァッ!!』
「ゆびいっ...ゆぶっ...ゆべっ」
ゆ叩き棒は決して致命傷は与えないがその痛みは中枢餡にまで響く。人間でいえば脊髄に直接響く様な痛みを与えることができる。強烈な痛みによってゲスゆの矯正やゆっくりの心理的去勢(詳しくは民明書房刊『ゆっくりトラウマ教育学』にて)に使われるものだ。
飼い主が激情をれいむに叩きつけるたびに饅頭の薄皮が剥がれ小さな亀裂が走った。出来るだけゆっくりの体を傷つけない様にしているゆ叩き棒でここまでのダメージが出るのは珍しいことだ。
れいむは打擲から逃げるわけでもなくうずくまり、ひたすら飼い主からの制裁を受け続けた。さすが金バッチである。
ひたすら打ち据えた後、疲れた飼い主は棒をれいむに向かって投げ捨て、自分の部屋に戻った。れいむは痛む体を弱々しく動かしてナメクジの様に自分のハウスに帰った。
次の日、流石に言いすぎたと思い飼い主はれいむに謝罪したが「ゆ」以外の返答はなかった。ゆっくりフードを食べることもなくなり、れいむは日増しに衰弱していった。
ある日、飼い主が少しは機嫌が治るだろうとれいむの大好物のオレンジゼリーを買って家に帰った。しかし、ハウスの中に声をかけても返事がない。れいむは以前の容姿からは考えられないほど萎んでしまい、乾燥途中の干し柿みたいな体になっていた。
遂に飼い主の謝罪を受け入れることなくハゲれいむは死んだのだった。
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丁度れいむが死んだ頃からゆっくりの知育ブームは落ち着きはじめ、飼い主の仕事は激減していった。一度上げた生活レベルを下げるのは難しいもので、成金ゆえの散財癖を持っていた飼い主はあっという間に一文なしになった。
それから十数年が経ち二重三重に重なっていた借金をようやく返し終えた頃には苦労が祟って飼い主の頭はすっかりハゲてしまっていた。
飼い主はれいむほどハゲに対してコンプレックスはなかったので、そこまで苦しいとか恥ずかしいとかは思わなかった。しかし、ハゲ治療や育毛剤のCMが何故かよく目に付く様になったのを感じていた。
きっとれいむの気持ちに少しでも近づけたのだろう。ハゲ頭をポリポリと掻いてれいむとの楽しかった思い出や幸せだった思い出を懐かしみ、れいむの哀れな最期を偲んで涙を流したのだった。
〜完〜
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