【読書マップ】歴史と人のミステリー
2021年11月の読書マップです。
ひとつ前の読書マップは以下の記事をどうぞ。
歴史と人のミステリー
スタートは山田正紀・恩田陸「SF読書会」(徳間文庫)。
こちらで取り上げられていたうちの一冊が、小松左京「果しなき流れの果に」(ハヤカワ文庫JA)です。
早川書房の国内SFレーベル「ハヤカワ文庫JA」、その輝かしき1番目。ちょうど今年(2021年)、ハヤカワ文庫JA1500番台到達記念で復刊されました。
白亜紀の太古、ティラノサウルスが跋扈する中、電話機のベルが鳴り響く…そんな魅力的なプロローグから、さまざまな時代で起こる不思議な事件を描く、タイトル通り重厚な作品でした。
歴史と人のミステリーを、まったく違う観点から描くのが北村薫「中野のお父さんは謎を解くか」(文春文庫)。
北村さんは日常の小さな出来事から意外な真相に導かれる〈日常の謎〉小説の第一人者であり、その博識を活かした評論も数知れず。
この〈中野のお父さん〉シリーズは、高校教師で本に関することなら知らないことはないという(著者自身を思わせる)父親と、出版社に勤めるその娘を中心にした短篇集。松本清張、太宰治、泉鏡花といった文豪の実際にあったエピソードをもとにした謎解きは、超絶技巧としか言いようがありません。
清涼院流水「どろどろの聖書」(朝日新書)では、破格のミステリー「コズミック」でメフィスト賞を受賞しデビューした著者により、謎と愛憎に満ちた旧約聖書・新約聖書のエピソードが次々に紹介されます。
日本人にはなかなかなじみのない聖書ですが、これほど奔放で、強烈な世界が描かれているとは思いませんでした。
岡井隆「詩歌の岸辺で 新しい詩を読むために」(思潮社)は、歌人の岡井隆さんによる、2000年代の詩や短歌を中心にした評論集。
詠まれる短歌と同じく、旧仮名遣いで書かれていますが、読みすすめるほど自然な印象を受けます。
聖書の日本語訳についても、戦前の文語訳と戦後の口語訳とから受けるイメージの違いについて論考されています。
コンラート・ローレンツ「ソロモンの指環」(ハヤカワ文庫)は名著として版を重ね、2021年の「ハヤカワ文庫の100冊」にも選ばれています。
タイトルは、旧約聖書に登場するダビデの子・ソロモン王が、さまざまな動物の言葉を聞きわけられたという伝説がもとになっています。
日高敏隆さんの訳で、ご自身の著作と同じように動物たちの意外な習性がユーモラスに描かれます。
日本全国の名産品
続いて小泉武夫「発酵 ミクロの巨人たちの神秘」(中公新書)。こちらもロングセラーで、近年再注目されている〈発酵〉の驚くべき仕組みと、それをたくみに利用してきた古今東西の人類の歴史が解説されます。
とりわけ日本列島において、その風土を活かした酒、味噌、醤油などの発酵文化を作り上げてきた先人たちの工夫には頭が下がります。
甲斐みのり「にっぽん全国おみやげおやつ」(MOE BOOKS)は伝統的な郷土菓子から最新のかわいいおみやげまでを取りそろえ、読むだけでまた旅に出たくなる一冊。
先月紹介した「ミュージアムグッズのチカラ」とあわせて旅好き必携です。
プロフェッショナルの仕事ガイド
「鯖江の眼鏡」は一般社団法人・福井県眼鏡協会の公式ガイドブックと銘打たれ、福井県鯖江市の名産であるメガネ作りを解剖していきます。
何故この地にメガネ作りが根付き、天皇陛下に献上される技術の粋をこらしたメガネを作るまでにいたったのか。メガネをかける人もそうでない人も、色眼鏡なく読んでほしい一冊。
ここから、プロフェッショナルの仕事を感じられる本へとつなげていきます。
柴田久編「土木の仕事ガイドブック」は、行政から民間企業、NPOまで、さまざまな土木・まちづくりにかかわる仕事を解説。実際に現場で働く30〜40代の人々による寄稿も豊富、日々の仕事への向き合い方が伝わってきます。
藤島淳「木村一基 折れない心の育て方」(講談社)は、棋士・木村一基九段の言葉をもとに構成された本です。
タイトル(棋戦優勝)獲得を何度も逃しながら、40代で史上最年長の王位タイトル獲得。一年後、その位を藤井聡太さんに奪取されながらも、今年また王座戦に挑戦するなど、けっして折れない心をもって闘いに臨む木村さんの姿勢には、胸が熱くなります。
木村さんは他の棋士の対局解説もとても面白いので、一見の価値ありです。それも本人の強さ、不断の努力あってのことと、本書で再認識します。
目指すべきプロの姿が、そこにあります。
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