第44回「真鶴でめぐる縁と、熱海伊豆山のまぼろしの家」
湯河原で漁師&遊漁船の船長&民泊事業をやっている佐々木さんのところに行った(第38回「漁師になったビジネスマンは、漁師だけにとどまらなかった」参照)。
佐々木さんの住む福浦は、真鶴半島の付け根にあり、歴史的にも真鶴とのつながりが深く、真鶴駅もすぐそばである。
そこで佐々木さんは、湯河原だけなく、真鶴の行政とも親しく、移住政策などを手伝ってきた。民泊をやっているので、自然と移住相談を受けることになり、そうなると、どうしても行政が絡んでくるからだ。
民泊事業では、ハウスキーピングの仕事が不可欠で、佐々木さんは、湯河原や真鶴のママたちに手伝ってもらうことで、運営している。しかし、このママたちが、実は只者ではない。
経歴もあり、かつ家事をしながら、できるだけ自分の力を社会で発揮しようという意欲に満ちていた。そんな女性たち三人とお会いでき、話ができたのは、とても大きな刺激になった。
実は佐々木さんが、こんな意欲的なママたちと一緒に、真鶴でNPO法人を立ち上げ、真鶴空き家バンクを始めたいと考えている。その後方支援を、わがNPO法人伊豆in賀茂6で行うことで、伊豆の入り口とも言える、真鶴半島から下田まで、空き家情報を一元化しようと、僕は考えている。
移住したいと思う人たちにとって、必ずしも「どこ」という定めが無いのが普通だ。縁があったところに移住する。すなわち家が見つかったところに移住するのが多くのケースで、あるいは導いてくれる人がいるところに移住する。
その選択肢は、ある程度広範な地域の中で、行われることが多い。
下田でいい家が見つからなくても、真鶴で見つかり、そちらに移住してもいい。最近も、下田で気に入る家が見つからず、隣の河津町に見つかって、移住した人もいる。
NPOの活動は、行政のように区画に縛られる必要はない。そのために、利用者にニーズに答えることができるのである。
下田で培った経験が、真鶴町で生かされればそれに越したことはない。そこでまた下田にフィードバックして、下田の空き家バンクも成長できれば、相互にいい影響が生まれるというものである。
真鶴町は、僕にとって、思い出深い場所がある。それが中川一政美術館である。こってりとした彼の絵や書を楽しめる。そしてもう一つ、かすかな縁がある。
僕と妻のキューピット役をしたTさんの依頼で、『AJ(Adventure Japan)』という、日本の地方を多言語で世界に売り込む雑誌に携わったことがあり、AJでは、真鶴も特集していた。その頃、真鶴と、島根県隠岐の島のアドバイザーを務めていたのが、元国会議員秘書のMさんで、このMさんの案内で、隠岐の島の世界ジオ特集を制作したことがあった。
そんなことを頭に浮かべつつ、佐々木さんに連れられて、真鶴町の担当者卜部さんと合う。話をしているうちに、この人がキレキレにキレまくっているなと感じた。そういえば、Mさんが、真鶴町にはスーパー公務員がいるよと話してくれたことがあり、もしや…と思った。
僕の話は2時間にも及び、その前に佐々木さんやママさんとも話した時間を含めて、4時間も話したことになる。
さすがの僕も、頭がボーッとし始めていた。
午後四時過ぎ、真鶴町役場を辞去して向かった先が、熱海の東部に位置する伊豆山である。
細い道をクネクネと下った。
壊れかけの家があるかと思えば、要塞のような超高級別荘もある。そんな地域のどん詰まりに位置していたのが、写真の家である。
隣に所有者の方が住んでいるが、この家自体は、佐々木さんが管理、宿泊施設として運用している。https://www.airbnb.jp/rooms/44197113?_set_bev_on_new_domain=1601688400_OWUyOTg0MDk3NmE5&source_impression_id=p3_1601689434_zDkA3sf40mi%2F3BnX
広い庭の先には相模湾が広がり、初島が手の届きそうなところに見えた。芝生の敷かれた庭は広く、どこからともなく猫がやってきて、僕の足で体をこすり、まとわりついて離れない。
木造の平屋は、かつての学校のようでもある。中に入ると、石積みの壁に面して、暖炉があった。イタリアのドロミテ渓谷でよく見た山小屋の作りとそっくりである。海側に部屋や風呂、トイレがあって、山側が廊下だ。
面白いなあと思ったら、前川國男設計の家だということが最近わかった。築80年である。ル・コルビジェの弟子にして、日本近代建築の大立者だ。かの丹下健三も彼の弟子筋である。
しかもこの民泊、一泊一人6,000円とかなりお安い。gotoを使えば、さらにお安い。
僕はなんだかクラクラしてきた。
喋りすぎて、酸素不足も重なったようである。
真鶴行きは、思いがけず、新しい出会いと展開を、僕に授けてくれたようだった。
そして今日、AJのTさんにメールすると、件のMさんが、なんと今では、真鶴町役場で働いているという。
人生は、縁がめぐるものである。
次回はMさんに再会したい。
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