第27回「日本初(たぶん)!オンライン全国移住相談会に出展してみた」
GWが明けてすぐのこと、友人のフェイスブックページで、オンライン全国移住相談会が開催されることを知った。
費用は、出展者が無料、相談者1000円と有料である。たぶん、冷やかし客を防ぐために有料にしたのだと思った。それにしても、普段なら、財政難の地方が無理やりお金を捻出し、都会まで出張って移住相談会に出展するものだが、今回ばかりは様相が異なる。
いよいよ本格的に、地方移住ブームの時代がやってくるのか?
出展者は徐々に増え、最終的には、37都道府県の145団体が出展し、参加者は169名である。一団体あたり一人の相談者が来てくれそうな確率だ。
さて、本当に、下田にやってきたいという人はいるのだろうか。なにしろ、北海道から沖縄まで津々浦々にライバルとなる出展者がいる。
僕はパソコンを前に、若干緊張していた。でかい顔が、これ以上でかく映らないようにノートパソコンとやや離れて座る。テストは良好。テストでは、どうにもキーボードの方を見がちで、目線が下になる。画面の上に、黄色いアヒルのおもちゃを置いて目線が高くなるようにした。
5月31日(日)午前10時、いよいよオンライン相談会のスタートである。システムには、テキストとビデオとがあって、文章と映像で、同時にやり取りができるようになっている。
スタート直前になって、テキストページにおかしなイラストが投稿されてきた。お会いするのが恥ずかしいと、クネクネする動画が送られてきたのだ。
「どうぞ、遊びにいらしてください!」
ところが、そのイラストを送ってきた人は、訪問してこず、調べてみると、違う団体の人話し込んでいるようだった。
誰からも音沙汰がないので、オンラインシステム画面が、一体どんな動きを見せるのかが、気になって、色々と調べる。
左側には、各団体の名前が書かれ、相談者が来ると、相談者の参加者ハンドルネームが記載される。だから件のクネクネさんが、どこに行ったのかわかったのである。
どうやら、テキストでご挨拶をいくつもの団体に送り、回答が早いところ、フィーリングが合うところを選んでいるらしい。
長い相談者だと一時間もおしゃべりしている。僕の方は、一人二十分程度と予定していたのだが、誰も来ないでは、話にもならない。
するとあることに気がついた。
パソコン画面左の上の方に「#アピールの部屋」がある。主催者の呼びかけによれば、ここでアピールしている人に対して、相談者が近寄っているらしい。
昼飯を食べてから、僕も遅ればせながらに#アピール部屋で、続けざまメッセージを書き込む。
「下田では格安の空き家バンクを利用して、簡単に住む家が見つかりますよ」、「そんな空き家を利用して、民泊や居酒屋、シェアハウスを始めようとしている人たちもいます」、「下田は年間100万人を誇る観光地ですが、近年は、民宿の廃業による宿不足で困っています」、「下田なら、観光関連ビジネスの企業も少ない投資で可能です」
そして四時過ぎ、残り一時間となって、突然相談者Aさんの声が聞こえた。
「もしもし、今から大丈夫でしょうか?」
「もちろんです!」
相手はビデオを搭載していないパソコンを使用しているようで、顔は映らないが、声は聞こえる。しかし相手に僕の顔を見えているはずだ。
「下田のことはよくわからないのですが、実は海外のリゾートにおりまして、7月に本格帰国を考えているのです」
Aさんは言って、テキストでエントリーシートを送ってくれる。長らく海外で暮らしてきたが、そろそろ潮時と思ったようである。僕より五歳くらい年下だった。
「ご存知のように、日本の観光業は遅れています。よかったら下田に来て、これまで培ったスキルで、観光ビジネスを立ち上げていただけませんか。あなたのような人を、下田は求めているのです」
会話時間は30分以上に及んだ。
空き家バンク制度や移住者たちの暮らしぶり、就職先、有望な観光ビジネスの話など。新しい人生をどうやって切り拓いていったらいいのか。親身になって提案したつもりである。
「最後の最後で、下田のブースへ来てよかったです」
「ぜひ移住してきてください」
たった一人の相談者だったが、僕にとっては胸が踊るようだった。まさか海外から移住者を呼び込むことになるとは。
現在日本人の海外居住者は、140万人ほどである。うち100万人が中長期の居住者で、その他が永住者となっている。
オンライン移住相談は、首都圏方面からが中心になるだろうと、考えていたが、まさかの海外。しかも友人のベテラン相談者の話では、この日の移住相談者は、海外からの人が目立ったそうである。
オンライン移住相談会は、全国どころか、はるか日本を飛び越えて、オンラインの特性を生かし、世界に広がっていた。
これから日本の地方は、世界から人材を呼び込む時代に突入したのかもしれない。
なんか、思いもよらない時代になったものである。