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傀儡人形相克エレジー5

これはビーストバインドトリニティのリプレイ小説です。GM夏風が、あらかじめ提出されたキャラクターシートを元に作ったシナリオのため、再演は無いのでネタバレを気にせずに読んでいただけます。

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庭に侵入してきたのは予想通りウーナとドゥアエだった。
他に戦力は無さそうだ。
ドゥアエが開口一番モルスに親しげに声をかける。

ドゥアエ
「トリア、今度こそ一緒に帰ろう」

ウーナ
「ドゥアエ、気持ちはわかるけど任務はそっちじゃないわ。……この前邪魔をしたアイツはいないようね。とはいえ、頭数は増えてる、油断しないように」

ドゥアエ
「また邪魔が入っても、今度は対策してるから、同じ相手に二度やられるあたしたちじゃないよ」

モルス
「……お姉ちゃん。はは、ドゥアエお姉ちゃんは、逃げてた俺にまだ帰ろうって言ってくれるのか。ウーナお姉ちゃんも少しはそう思ってくれてるのか?」

ウーナ
「少し? 元からあなたも連れて帰る予定だけど?」

モルス
「一緒にいたいと思ってくれてるから?」

ウーナ
「当然でしょう。……もしかして、トリアは私たちが嫌で逃げたわけ?」

モルス「ちげぇよ。そんなことない!! 俺お姉ちゃんたちだけは大好きだった!! あの俺たちを人間と扱わない場所で、俺にとってお姉ちゃんたちだけが唯一何より大切だった!!」

ウーナ
「人間として扱わない……そう。でも私は忘れない、誰かの助けなしでは生きることもできなかった過去の自分を。誰かの役に立てる。誰のお荷物でもない。それ以上に嬉しいことなんて無いわ。この体が兵器だというのなら、兵器として役に立つだけ。待遇に不満があるのなら私からも言っておくわ」

モルス
「待遇ね……。不満しかなかったし、何より俺は怖かった。役に立てる、正義の味方みたいに戦えるって言って楽しそうに俺の手を繋ごうとしてくれる人たちが、またいなくなるのが俺は何より怖かったんだ。ひとりぼっちになるのが怖くて、ただ逃げた。あんときの俺は死ぬほど意気地なしだったよ。でも、お姉ちゃんたちもきっと、なんか意味を見出したくて、そこで戦ってんだよな……」

モルス
「なぁ……ウーナお姉ちゃん、ドゥアエお姉ちゃん、聞いていい? 戦う場所はメルキセデクじゃなきゃだめなのかよ」

ドゥアエ
「……独りは怖いよね、トリア。あたしはいつもひとりぼっちだった。お姉と違って家族は優しかったけど、負担が掛かるから寝てなさい、とか。たくさん歩くからやめておいた方がいい、とか。……他のみんなが楽しく走り回ってた時、あたしはいつも部屋でひとりだった。そんな世界があの日、ひっくり返った。今のあたしは誰よりも速く走れて息も上がらない。車だって持ち上げられるし、ビルの壁だって簡単に登れる。それどころか、現実世界で武器を持って魔物と戦うことまでできる! サイコーの気分だよ! あたしは兵器。戦うことが生きてるということ。だからね、戦う意味をくれるメルキセデクはいい家だと思うよ」

モルス
「そっか、俺にはな、あそこはまた俺からもう一度家族を取り上げる場所にしか感じられなかったんだ! 今なら思う、お姉ちゃんたちのためなら戦えたかもしれない、笑い合って、大丈夫だよ、行こうって。俺にとっても独りじゃなくなった瞬間だった!」

モルス
「お姉ちゃんたちと違って体は動いてたけどそれだけだった。声がしないと、音がしないと、どこになにがあるかもわかんねぇ。お父さんとお母さんは優しかったけど……それでも、行ってきますって俺の手を離したら俺はもうそこでひとりぼっちだったんだ! 寂しかったに決まってんだろ! 少しも、ほんの少しも感謝しなかったかって聞かれたらそんな事ねぇって、そう答えるに決まってんだろ!」

モルス
「……けど、そこにいたら、同じくらい取り上げられんだ! 強いから壊れないなんてのはマボロシなんだよ!! どんなに強くたって、直しやすいからって、壊れるときは壊れるんだよ!! お姉ちゃんたちが、またいなくなっちゃうのを、お姉ちゃんたちに処分されるかもしれない俺を想像するのが、いつか摩耗して壊れてしまうお姉ちゃんたちを見る勇気が……俺にはなかったんだ!」

ウーナ
「今の私たちの境遇に関係なく、どんなものでも壊れる時は壊れるのが自然。その目をしっかりと開いて現実を見て、トリア」

ドゥアエ
「トリアはもう目が見えるんだよ? 誰よりも遠くが見えるし、真っ暗闇だって関係ない。この力を活かしてこそ、生きてるって胸を張って言えると思わない?」

 ウーナ
「私たちは生まれ変わったの。望んでいないことだったかもしれない。大切な人を失ったかもしれない。でも、それを嘆いても元の日常は戻らないわ。帰りましょう、トリア。今は私たちが家族。血は繋がっていなくても、同じ日に生まれ変わった姉妹なのだから」

ドゥアエ
「大丈夫だって、新しい主任はペトルーシュカがなるんだし、トリアにとって悪い話なんてある?」

モルス
「ひとつだけ。俺も、ようやくこの生まれ変わった体で、胸を張ってやりたいことが決まったんだ。やれることが増えたなら、俺と家族になってくれた人を、もう1回俺なりの方法で大切にしようって」

モルス
「お姉ちゃんたちは、もう実戦には出たんだよね? 俺はその前に逃げたから……それでも、無理矢理捕まえられて冷たくなった生き物がさ、運ばれてくの見たことあるよ。あぁ痛かったろうな、苦しかったろうなって。俺たちの力は他の人を苦しませるためのものなのかって」

ウーナ
「変わらず優しいのね、トリアは。生き物は生きているだけで、他の何かを犠牲にしなければならない。私たちはただ、それが顕著に目に見えてわかる環境にいるというだけ。すぐに慣れるわ」

モルス
「慣れるかよってんだ。俺はな! ドゥアエが言ってくれるようなカッコイイ戦う人にあこがれてんだってんだ! 誰かから何かを奪うために戦うんじゃなくて、誰かから何かを守るために戦いたい!!」

モルス
「そんでっ!! 俺にはな、どーでもいい夢があったんだ。聞いてくれるか? お姉ちゃん」

ウーナ
「ええ」

ドゥアエ
「もちろん」

モルス
「お姉ちゃんたちと、食べ歩きして……ショッピングして遊園地にも行ってみたかった。カッコイイ映画とか、世界の面白い景色とか、そんなものを見て、なんでもない屋上に登ってさ。同じ景色見て、ただ笑って、今日何したとかそういう話をしたかった……いや、違う、するんだ。俺はこりずにまだそんなことを、お姉ちゃんたちとやりたいって思ってる」

ドゥアエ
「いいじゃん、それ」

ウーナ
「私たちが戦果を挙げていけば、ある程度の我儘は通るようになるでしょうね。せっかく人間らしい姿をしているんだもの、出かけるぐらいしたいわね」

モルス
「そうだろ?」

ふたりの答えにモルスはホッとして笑う。

モルス
「俺さ、やっぱり何かをぶっ壊したり、ぶっ殺したりする仕事、できねぇわ。んで、なんならお姉ちゃんたちにもそんな事させときたくない。知ってんだろ? 俺、死ぬほど欲張りなんだ。気に入らねぇ、心が飢える。兵器だってんなら俺は誰かを飢えさせる兵器になんかなりたくねぇよ。誰かの命を奪って生きてる? そりゃ実際はそうだけどさ。でもそんなの屁理屈だよ。俺はウーナお姉ちゃんが教えてくれた綺麗な景色を守りたい。俺はドゥアエお姉ちゃんが教えてくれたカッコイイ主人公たちみたいに誰かを守るために戦える兵器になりたい。結果も、感謝も、自分の納得する気持ちも、何ひとつ手放したくなんかないくらい、いつだって飢えてるんだ。俺が与えられるものを俺も感じられるような世界を。だから意地悪な誘いをする。俺と一緒にカッコイイ正義の味方の兵器しようよ。直してくれる人ならそれこそペトルーシュカがいるんだからさ」

ドゥアエがボソっと呟く。

ドゥアエ
「あたしとお姉よりも、よっぽど戦いに向いた性格だと思うんだけどね」

ウーナ
「それがあなたのしたいこと、なのねトリア。私はそんな不確かなものより、確固たる力が欲しい」

ドゥアエ
「あたしは、明確な戦う理由が欲しい。正義だ悪だなんて、見方次第でしょ、メルキセデクにいたって、あいつらの言う正義のために戦えるよ」

ウーナ
「長い目で見るなら、帰ることをお勧めするわ」

モルス
「ウーナお姉ちゃんなんか頭いいし頑張り屋だし、それ自体強えようなもんじゃん。あとドゥアエお姉ちゃんにだけは言い返すぞ。ドゥアエお姉ちゃんが教えてくれた漫画の主人公は、そんなどっちつかずな正義、かざしてなかったからな。だから俺はそれにカッコイイって思えたんだしよ」

モルス
「……ここにいて知ったんだ。俺の力は俺がそうありたいと強く想うこと。満たされたい、手に入れたいという渇望が衝動へと変わるほど強く。牙を突き立てるのにためらいがあっても、飢えが酷ければもっともっとそうなりてぇって、酷くなるだけなんだよ。そして、俺の力の源ってなんだって言われたらさ。蘭と……翔と……なんてない、おはようを言ってられた日々で……。んで! これからお姉ちゃんたちとも一緒に笑って行きていたいって! たったそれだけだ」

モルス
「帰ろうって? やだよ。俺と一緒にいろよ。力は蘭だってくれるし、理由は姉妹のために戦うで十分なんだ、俺なんか。納得できねぇ?」

ドゥアエ
「トリア、あんたの欲望は、そんな小さな箱には納まらなくなるよ、絶対に」

リンは空に向けて愛銃を放ち、銃声を周囲に響き渡らせた。

リン
「……今はこれ以上の話をしても無駄だと思うよ、モルス。それでも、キミがその願いを望むのなら……力で語り合うしかないよ、違う?」

ウーナ
「いいわ、兵器らしく実力行使といきましょう。ペトルーシュカもトリアも連れて研究所に帰るわよ」

モルス
「あっはっはっはっは!! 欲望が小さく終わらねぇ? 結構じゃねぇか!! 話し合いで決着つかねぇ? 意地を貫きたい時のやり方は、お前のほうがよく知ってたみたいだな、リン。……もういいや、大丈夫。壊れるのも怖い。死ぬのも怖い。当たり前でいい」
(なぜなら俺は、モルス・トリア=フェイムス。その名はひとりの人に歩むように死をもたらすもの、飢餓)

モルス
「さぁ、喧嘩しようかお姉ちゃん。わがままを通し合うためのよぉ!!」

「もっと、もっと力を! 全部ほしいままに!! CODE:Spes//Activate―」

ドゥアエ
「もっと早く素直になればよかったのに」


「んに? 終わったにゃか? ニンゲンは話が長いにゃね。吾輩は偉いからちゃんと話ちょっと聞いてたにゃ! 子分が戦うなら親分も応援してやるにゃ!」

モルス
「素直に、ははっ、抜かしやがる。こちとらその素直になるのに怖くて怖くて仕方なかったのに! 吹っ切れさせてくれたんだから、俺が勝ったときは文句言うんじゃねぇぞ!!」

リン
「……さて、と。それだけ熱い思いがあるのなら、もうキミは機械でも何でもない。モルス、キミはれっきとした人間だ。だからこそ……その意志を、ここで貫き通せ! それがキミがキミである、証だ!」

―――――――――――――――――――

ウーナ
「我が名は疫病、モルス・ウーナ・エピデミア。死を蔓延させる者! CODE:Dedication//Activate―」

リン
「――させないよ」

リンはウーナの双銃が味方に向く直前、前に踏み込み心魂機関の出力を増加、エネルギーフィールドを張って弾丸を受け止めた。

ドゥアエ
「我が名は戦争、モルス・ドゥアエ・ベルム。死を振り下ろす者! CODE:Victoriam//Activate―」

ドゥアエ
「脆そうなところから叩く!」


「にゃ! ニンゲンはノロいにゃねえ」

なんてことないとでも言うように、ひらりと身をかわしケラケラと麦は笑う。

ドゥアエ
「ははっ! すっげぇ!!」

リン
「……さて、と。削るよ、追撃よろしく」

リンはモルスに視線を送り、愛銃を眼前の敵に向ける。

モルス
「ははっ!! 一撃で刈り取る! お返しだ!」

全力で走り抜けた拳を打ち込む。
青い光が走った。

モルス
「……よそ見してんな?」

ニヤリと獰猛に笑って火花が散る勢いで駆け出す。

モルス
「俺のわがまま!! 心いくまでその身で受け止めてくれよな! 大切な! 姉妹としてさぁ!!」

そのままの勢いで肩を蹴りぬく。

ウーナ
「これは……出直し……ね……」

ウーナはバチバチと関節から火花を散らしている。

ウーナ
「ドゥアエ……退くわよ……!」

ドゥアエ
「嫌だ」

きしんだ音と共にドゥアエが立ち上がる。

ドゥアエ
「あたしはまだ、負けてない……! お姉、回収よろしく!」

ドゥアエの体を青い光が包み込む。

ウーナ
「無茶よ!」

ドゥアエ
「これが機械の体の利点、サイコーに冴えたやり方ってこと……!」

ドゥアエの体に収まりきらぬほどのエネルギーが凝縮していき臨界を迎える。
眩い光を放つ斧槍を構え、高圧エネルギーによる爆炎を撒き散らしながらの吶喊。

リン
(見ただけで解る、このままではボクたち3人……いや、あの2人も巻き込まれかねない!)
「……そういう事か、大公殿、あの時言っていた瞬間ってのは……!」

リンはドゥアエに肉迫する。

リン
「させるかぁ!」

振り下ろされる斧槍をリンは手で掴んだ。
抑え込んだことによって、爆発の衝撃はすべてリンに収束、ドゥアエの武器の先端は深々とリンの胸に刺さった。

ドゥアエはというと、自らの発したエネルギーに焼かれ、半壊している。

リン
「っぐぅ……!?」

リンは胸に痛みと衝撃を受け、その場に倒れこむ。
意識を失いゆく中で最後に見たのは怪我ひとつ無いモルスと麦の姿だった。

リン
(ああ、良かった。ボクは……さいご、まで、まも……れ……)


「ニンゲン!?」

モルス
「嫌だ、リン!! ドゥアエお姉ちゃんっ!!」

モルスは火花を散らすドゥアエの体を支える。

モルス
「お姉ちゃんっ! リンっ! いなくなっちゃ嫌だ……やだっ、やだよ……! 俺はっ、ただお姉ちゃんたちにそばにいてほしかったのに!!」

ウーナ
「今のを受け止めたって……いうの……? くっ……ドゥアエ……必ず……迎えに来る……から!」

ウーナは残されたエネルギーを使い、全力で逃走していった。

意識を失ったリンと、かろうじて人型を維持しているドゥアエの残骸。

戦いが終わったのを察して蘭が庭に出てきた。


「はやくリンさんと、そのサイボーグを研究室に運んで。まだ間に合うから」

モルス
「おねがいっ、お願い蘭っ……! 助けてっ! リンを………お姉ちゃんを助けてっ!!」

ドゥアエの体を抱き上げ、モルスは声を震わせてすがる。

モルス
「ごめんな……ごめんなさいっ、ひとりにしないでっ!」

モルスは壊れたように、ごめんなさいを繰り返してペトルーシュカの後ろをついていった。

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