星鎧騎装エルダーヘクス2
これはビーストバインドトリニティのリプレイ小説です。GM夏風が、あらかじめ提出されたキャラクターシートを元に作ったシナリオのため、再演は無いのでネタバレを気にせずに読んでいただけます。
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ローグライクオンラインRPG『True』
それは、ゲームアワードにも選出され人気を誇った1人用オンラインゲーム。
しかし、それもかつての栄光。
数年前にサービス終了している。
銀河帝国の帝都、宇宙要塞ヤディスに囚われたテータ姫を救い出すというたてつけのSF世界観のそのゲームには、優れたセキュリティプログラムが存在した。
オンラインゲームにチートは付きものだが、『True』でチーターがランキングを荒らしたという話は無かった。
難攻不落で鉄壁の守り。
“真実の壁”こと『True』のセキュリティプログラム、ヘイト・トゥルーがいたからだ。
サービス終了直前に、マザーサーバーから現実世界へと逃されたことで半魔として生を受けたヘイトだが、不可解な点がいくつかある。
マザーはどうやって、プログラムだった自分を現実世界に実体化させたのだろうか?
マザーはどうして、数あるプログラムの中からセキュリティである自分を選んだのだろうか?
ヘイトに魔物としての生まれたての頃の記憶は無い。
ただのプログラムが、他者の意志で電脳魔術師と呼ばれる魔物に成ったのだ、記憶が曖昧なことに関しては不思議は無い。
しかし、生まれたての頃の記憶さえあれば、もう少しましな人生、いや、半魔生を送れていたかもしれない。
なんせ無目的にただ生きているのが今のヘイトなのだから。
バ先の店長
「トゥルーくんお疲れ様、今日はもう上がっていいよ」
ヘイト
「うす」
店を出ようとしたヘイトに、ヒソヒソ声が聞こえてしまう。
バ先の先輩
「店長、トゥルーくん今日もミスしまくりでしたよ、尻拭いするこっちの身にもなってください」
バ先の店長
「そうは言うけど、トゥルーくん外国人だし、日本文化に慣れるのに精一杯なんじゃないかな、温かい目で見てあげようよ。人手不足で代わりも入れられないし……」
ヘイトは溜息を吐く。
ヘイト
「人間なんて、俺以外にもどこにでもいんだろ……はー。本当不便だわ。……あの頃が懐かしい」
ヘイトは『True』を守るために生み出された存在だ。
自分本来の仕事ができていない。
それは、人間の姿へのコンプレックスとして自分自身を蝕み続けている。
暗い気持ちを引きずりながら雑踏を歩いていると、思わぬものが目に飛び込んできた。
コスプレだろうか、池袋なら時折レイヤーを見掛ける。
だが、異様なほどに完成度が高い。
そして、サブカルに寛容なこの街ですら完全に浮いていた。
SF風の服装の少女は、怯えた様子で危なっかしく人混みを右往左往している。
ヘイトは、思わず彼女の、コスプレの役柄の名前を呼んでしまうかもしれない。
なにせ、その姿はヘイトとは不可分の『True』、そのヒロインなのだから。
ヘイト
「テータ姫!?」
名前を呼ばれた少女はビクリと体を震わせる。
しかし、ヘイトの目を見ると、安堵の表情を浮かべて駆け寄ってきた。
テータ
「星騎士さま! ようやく、私を助けにきてくださったのですね!」
ヘイトにひしと抱き着くテータ。
テータは銀河帝国に捕らえられた姫として、『True』のプレイヤーキャラクターである“星騎士”の助けを待つ存在だ。
ヘイト
「あ、えええ!? 本当にテータ姫なんですか!? 貴方も飛ばされていたんですか!?」
突然過ぎて何故こうなっているのかまで頭が回らない。
テータ
「あ、抱き着くなんて、はしたないまね、申し訳ありません」
テータは体を離すと威儀を正して凛とした声で言う。
テータ
「星騎士よ、よくぞ私の元へと辿り着きました。さあ、この宇宙要塞ヤディスから、脱出しましょう! あと、お名前を……教えてください。すみません、星騎士さま全員はさすがに把握できてなくって……助けにきてくださったのに、失礼ですよね」
ヘイト
「え、いや……助けに? 本物? ……俺が星騎士?」
コスプレ少女が寸劇を始めたことに、周囲の奇異の目が向けられる。
ハッとしたテータがヘイトの手を取る。
テータ
「敵国の首都のど真ん中で、目立つようなまね、迂闊でした。どこか、隠れられる場所をみつけないと……!」
ヘイトは確信する。
目の前のテータ姫は頭のおかしいコスプレイヤーなどではない。
御伽噺の住人と呼ばれる種類の魔物だろうか。
架空の物語から実体化した本物の登場人物に違いない。
しかし、何故サービス終了してから時間の経った今頃?
いずれにせよ、生まれたての魔物なら、おかしな事をしてしまう前に保護した方がいいだろう。
死霊課を頼るのもいいが、ヘイトの根幹と関わる相手だ、家に招いて話を聞くのがいいかもしれない。
ヘイト
「……あんまりガラじゃないんですけど、仕方ないか」
「天にまで輝き放つテータ姫よ、星騎士が貴方を全てしがらみから解き放ちましょう」
ゲームの中の台詞だ。
こうして、ヘイトは自分と無関係とは思えない幼い魔物を保護した。
ヘイトの、自分本来の在り方に戻る鍵となる存在かもしれないのだから。
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陽雨は密鍵から聞いたサラリーマンの風体を頼りに聞き込みを重ね、有力な情報を得た。
その男は池袋駅前でよく高校生ぐらいの男の子とホビーゲームで遊んでいたという。
陽雨
「さーて、一体どこにいるんだろうねえ……」
駅前に行くと、見覚えのある剣型の玩具を持った少年が道行く人に『インカード』を勧めようと声を掛けては無視されているのが見えた。
陽雨
「ねえそこの少年、ちょーっといいかい?」
視線を合わせる様に片膝を付いて、胸を強調しながら声を掛ける陽雨。
友志
「……? ん、なんだ、インカードに興味があるのか!?」
友志は、ぱっと目を輝かせ、手にしたソードを掲げる。
友志
「説明しよう! 激熱突信インカードとは!」
陽雨
「え、インカード? 先週友人と遊んだばかりだけど……」
友志
「なんだって! すでにインカーダーだったってのか!? 水臭いな、早く言ってくれよ! オレは縁道 友志! あんたの名前は!?」
陽雨
「ああ、アタシは御山羊 陽雨だけど……ちょっと話をいいかい?」
友志
「なるほど、御山羊 陽雨……陽雨サンだな! よし、じゃあダイブだな! インカーダーに言葉はいらない! ダイブですべてわかり合える! そうだろ!?」
クーロ
「これこれ少年、同志を見つけた悦びはわかるが、そのように一方的なのはよろしくないぞ? ああ、我はクーロという、ちょいと少年に聞きたい事があっての……主の知り合いのインカーダーが行方不明になっての、どこかに行く前にここによく来るサラリーマンと会っていたようなのじゃが、何か知らんかの?」
友志
「クーロさん、インカーダーが二人も……! って、更にもうひとり!? 不破のおっさん! この感動をあんたにも伝えたいぜ!!」
感動に打ち震えている。
友志
「……だが、もうひとりは行方不明。これは大ごとだぜ!」
陽雨
「っとすまねえなクーロ、助かったよ……。そうだな、その行方不明になった人を探すために話を聞きたいんだ。とりあえずアタシらで探した感じ、ここでサラリーマンっぽい人と話したまではわかってるんだがその後がなあ……ってことで、何か知らないかい?」
よくよく考えてみれば、友志も不破のことをよく知っているとは言い難い。
彼のことをふたりで調べてみることにした。
【不破狩蔵について】【星騎士@について】
友志
「サラリーマン……不破のおっさんはよく自分のことを社畜だって言っていたぜ!」
陽雨
「不破のおっさん……あ、多分その人がアタシたちの探してる人ね」
クーロ
「うむ、インカーダーの事を熱く語っている少年と共にいたと聞いている。その者を探せば我らの望む事を知れるだろう、ならばやることはひとつ」
陽雨
「だーな、ってことで探してみるか」
【不破狩蔵について】
不破狩蔵は35歳の日本人男性。経済学部卒。未婚。不動産会社の営業職。出身地は東京、両親は健在で別居。妹が名古屋で結婚している。学生時代は可もなく不可もなく平凡。新卒で現在の職場に入社し、13年間特に目立った功績も失態も無い。夜の世界との接点は見当たらない。
不破は数年前までローグライクオンラインRPG『True』に非常に入れ込んでいた。本名そのまま不破のハンドルネームで常にランキング上位にあり続けたトップランカーだ。そんな彼が『True』をやめた理由はサービス終了。続けたくともゲーム自体が無くなってしまったのだ。以来、厭世気味になり、会社でも評価が下がっている。近頃は外回りの際に人目も気にせず高校生とホビーゲームで遊んでいるようだ。
背が高く顔も悪くなくコミュ障でもない不破だが、子供の頃から1人用ゲームばかりしていて友達付き合いが悪く、出会いが無かったために女性とお付き合いしたことが無い。ゲームをするために早く帰ることから、飲み会や夜のお店とも無縁。現実の女性よりゲームのキャラクターの方が好き。そして、色々なゲームで推しができても、最終的には『True』のヒロインであるテータ姫が最推しということに落ち着くようだ。
【星騎士@について】
ローグライクゲームにおいて「@」とはプレイヤーの操作するキャラクターを示す記号である。昔のローグライクゲームはアルファベットと記号だけで画面が構成されていた。これは敵キャラクターも同じで「G」ならゴブリン、「D」ならドラゴンといった具合だ。グラフィックが進化した近年でもプレイヤーキャラクターを@と呼ぶ習慣が残っている。
『True』の主人公は星騎士と呼ばれる宇宙の戦士だ。ステージ毎に別の惑星を探索するという設定になっており、ステージ7では敵の本拠地、宇宙要塞ヤディスに乗り込む。ラスボスである不死皇帝を倒し、囚われのテータ姫を救ってエンディングだ。『True』がリリースされてから2年後、後編としてステージ8以降が実装された。テータ姫と共に星鎧騎装エルダーヘクスというロボットに乗り込み、銀河規模のダンジョンを進んで故郷に帰還するというものになっている。
なお、メモの住所にはオフィスビルがあり、『True』の運営会社がサービス終了から少し後までテナントとして入っていたようだ。
現在その階は使われていない。
友志
「そういや不破のおっさんは星騎士@とかなんとか言ってたな……。ここに来いとかなんとか……このあと行ってみるつもりだったんだぜ」
友志は不破から渡されたメモを陽雨に見せる。
陽雨
「へえ……なら他に手掛かりも無いし、アタシたちもイイかい?」
クーロ
「うむ、たとえ空振りだとしても……何か刺激的な出会いがあるかもじゃしの♫」
陽雨
「だーな、物事は愉しく愉快に刺激的にやるのが一番さ。それは仕事だろうが恋愛だろうが遊びもぜーんぶな! ってことで、早速行ってみようぜ少年!」
友志
「ああ、よろしく頼むぜ! 陽雨さん、クーロさん!」
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ヘイトがテータを自宅に招き1週間あまりが経過した。
現実世界での常識が無い少女に、どう真実を伝えたものかと迷っているうちに、時間だけが過ぎてしまったのだ。
テータはヘイトがバイトに行っている間に洗濯機を泡だらけにしたり、料理を焦がしたり、姫らしく常識以前に生活力が無い。
今日はバイトが休み。
今日こそ詳しい事情を聞こうとヘイトは話を切り出した。
ヘイト
「えっとですね。本題なんですけど、自分がどうしてあそこにいたか、思い出せます?」
テータ
「はい、私は牢獄に捕らえられていたのですが、チクタクチクタクという音が聞こえてきたんです。そしたら牢獄の鍵が開いて、千載一遇と思い抜け出しました。途中、我が国から盗まれた星鎧騎装を見掛けたのですが、私ひとりでは動かせないのでどうしようかと思っていると……またチクタクと聞こえてきたのです。気付けば建物の外に出ていました。きっと、あの音が導いてくれたのでしょう」
ヘイト
「チクタク? 時計の音ですかね?」
テータ
「時計……ああ、アナログの、そういえば聞いたことがある音と似ています。それより星騎士さま! 建物の場所は覚えています。星鎧騎装エルダーヘクスを奪還して、ふたりでヤディスを脱出しましょう!」
やはり、テータはまだ自分がゲームの登場人物で、ここはゲームの外、現実世界であることを理解していないようだ。
ただ、事情に関わらず彼女の言う場所に行けば『True』についての何かが見つけられそうだ。
ヘイト
「じゃあ、そこ行きましょうか。何かわかるかもしれないし。……できれば協力者が欲しいな。俺、守ることしかできないし。こういう時『True』のトップランカーはすごかったんだなって思うぜ」
テータは『True』という言葉もトップランカーという言葉もピンときていないようだ。
テータ
「聖騎士様はおひとりでヤディスまで辿り着かれたのですね……」
ヘイト
「うーん、認知の誤差は話していけば埋まるかなぁ。……ひとりです。とりあえずテータ姫が望むなら、お供をさせて頂きますが、ご案内願えますか?」
テータ
「はい! 道は覚えております! 一緒に帰りましょう、我らの惑星(こきょう)へ!」
その言葉はヘイトの心にぐっとくるものがあった。
ヘイト
「はい、行きましょう」
「……会えてよかった」
真実の言葉だ。