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遺し遺され黄昏カデンツァ1
これはビーストバインドトリニティのリプレイ小説です。
GM夏風が、あらかじめ提出されたキャラクターシートを元に作ったシナリオのため、再演は無いのでネタバレを気にせずに読んでいただけます。
記念すべきBBTでの初GMシナリオでもあります。
***本リプレイは「F.E.A.R.」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『ビーストバインド トリニティ』の二次創作物です。***
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今回予告
誰かの救いでありたかった。
みんなの笑顔が見たかった。
もう涙を見るのは嫌だった。
ビーストバインドトリニティ
『遺し遺され黄昏カデンツァ』
心焦がすは魔の渇望、心つなぐは人の絆。
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PC1/PL:飴子さん
“ライメイギフト” 雷音 帳 (れおん とばり)
魔物の存在を知り、着装者に志願した青年。暑苦しく、猪突猛進な地雷男だが『人を救いたい』という意志だけはブレない。逆に他がブレブレ。
本人も承知だが、自分の命を代償にした改造処置を受けているため、長くは生きられない。
PC2/PL:しょーちゃんさん
“大妖怪 不知火” 稲荷大明神
元・豊穣の神。戦国の世に人心は荒み、人々は敵を潰す神を求めるようになってしまった。人々に求められた邪神に対抗するため、稲荷は大妖怪をその身に宿し決戦を挑む。結果は相討ち。
時は流れ、稲荷は復活した。大妖怪の力の残滓たる妖し火と共に、都会に出てバイトをしながら、信仰を集めるため今日もSNSでバズりを狙う。
PC3/PL:レイヴンさん
“メメント・モリ” 久音 刹那 (くおん せつな)
虚無の尖兵であった頃は、どんな存在であっても躊躇いなく生命を奪い取る死神だった。しかし、ある魔物の生命を刈り取った時、彼の足を掴む幼い子供がいた。お父さんを返してという言葉を聞いて以来、命を奪えぬ死神となってしまう。
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これはひとつの言い伝え。
真実か否かは知る由もない。
昔、力こそが法であった時代。
戦国の世と呼ばれる時代。
人の心も大地の実りも荒れ果てた。
様々な者たちがそれぞれの手段で力を求め、大切なものを守ろうと努めた。
それは魔物とて例外ではない。
急速に広がる戦火は、同時に野山を文明の灯で照らしていく。
夜を生きる者たちの領域は日に日に狭められていく。
それを食い止める者が望まれた。
その結果生まれたのが大妖怪と呼ばれる強大な力を持つ不知火だ。
不知火は大いに暴れ、戦国大名たちの頭を悩ませた。
一方、戦乱に巻き込まれた人々は、自分たちの暮らしを守るため、敵を打ち破る力を求めた。
願いは力へと昇華し、新たなる神が生まれる。
火之伊久佐比売(ほのいくさびめ)、異なる表記では火戦姫。
文明の灯と勝利の女神。
同じ時代に異なる願いから生まれた火。
大妖怪たる不知火と戦女神たる火戦姫、ふたつの焔がぶつからぬ道理は無い。
戦いの果てに待っていたのは共倒れ。
結局のところ、世の趨勢は人の手に委ねられたのだ。
その結末は人間の歴史書にある通り。
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ライメイギフトこと雷音 帳。
人を救いたいというエゴにより、その身をなげうった彼に、今日も依頼が届けられる。
今どき珍しい古式ゆかしき一通の手紙。
和封筒を開けば、白檀の香による品の良い薫りが鼻をくすぐる。
差出人の名はアダージョ。
くつろぎを意味する音楽用語。
雅な和風の手紙とのギャップに、帳は面白みを感じたかもしれない。
ただし、書かれていた内容は、くつろぎとも雅さとも無縁だ。
「仕事の依頼があります。手に負えない異形を討ってほしいのです。○月✕日の22:00にルーナンで待っています」
いつも帳に仕事を斡旋する信頼できるフィクサーの仲介で手紙を送ってきたらしい。
しかし、敵や依頼人について詳しいことは書かれていない。
情報を得るには会いに行くしかないだろう。
帳
「アダージョ……昔流行った艶女って奴か? んー、ま、会ってみればわかるか!」
簡単な言い方とは裏腹に、手紙を折り畳む手は丁寧だ。
準備を済ませると、帳はバーへ向かった。
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バー、ルーナン。
池袋の半魔が集う憩いの場所。
見知った顔も、見知らぬ顔も、昼と夜との狭間を生きる半魔ばかりだ。
さて、呼び出し人は日時と店しか指定していない。
誰がアダージョなのか、帳には心当たりが無かった。
帳
「マスター、ミルクを」
とりあえず席に座りながら注文しようとした時、ふっと甘い薫りが鼻をくすぐる。
覚えのある白檀の香。
匂いにつられて視線を向ければ、困り顔が魅力的な美女がすぐ傍らに。
葵
「すみません、マスター。ライメイギフトという方はここにいらっしゃるでしょうか」
バーテンダーは優しく微笑むと、帳に視線を投げ掛けた。
帳
「……俺っす」
毒気をやや抜かれて呟くように言う。
本当に艶やかな女性の容姿に、ちょっとした恥ずかしさすら帳は抱いた。
美女は口に手を当てて驚く。
仕草がいちいち色っぽい。
葵
「あなたが……ライメイギフト様。手紙に不備があり申し訳ありませんでした。無事にお会いすることができて良かったです。あ、申し遅れました。私がアダージョです。昼の名は稲葉 葵(いなば あおい)」
そう言って蠱惑的な微笑みを浮かべる。
尋常ではない色香。
おそらく夢蝕みだろう。
わざとなのか、無自覚なのか、魔性の魅力を漂わせている。
帳
「どこから俺を、とは聞きません。俺を何用で?」
マスターに、彼女にもミルクをと言いながら帳は確認を入れる。
葵
「ありがとうございます。さっそくですが、依頼の内容をお話ししてもよろしいでしょうか?」
帳は、いいですよと言ってカウンター席に座る。
葵も隣に座ると語り出した。
葵
「かつて……戦国時代に、とある戦いがありました。人同士のものではなく、力ある魔物同士の壮絶な戦いです。戦乱の中で信仰を集めた軍神と、戦禍の闇が生んだ大妖怪との決戦でした。結果は双方の消滅。人間の信仰も、魔物の願いも、共に葬られ、戦乱は英雄によって終結。後世から見れば、最良の結果だったのかもしれません。下手をすれば人間と魔物の戦いにも発展しかねなかったのですから」
帳
「……何故、その話を俺に?」
葵
「はい、ここからが本題となります。先程お話しした軍神が復活を果たしました。大妖怪もおそらくは……いえ、間違いなく。……羽根のせいです。ただ、色まではわかりません」
帳
「……白、なら、上位に昇華したとも取れますが、黒なら最悪ですね」
葵
「私は人間と魔物の混血……その人間の側が、件の軍神、ホノイクサビメを奉ずる神職の家系なのです。巫女としての素養があるのでしょう。時々、神の声が聞こえるようになりました。つい最近のことです。神は戦いを求めておいでです。宿敵である大妖怪シラヌイとの再戦を。神の声はか細く、まだ力を完全には取り戻していない様子が窺えます。被害が出たという噂は聞かないので、妖怪の方も完全な復活はしていないと思われます。……ですから、お願いです、大きな災いとなる前に、大妖怪シラヌイを討ってください。そして……もしも、神を黄泉返らせたのが黒い羽根だったなら……その時は神殺しもお願いすることになります」
帳
「……色々と、事情はわかりました。俺を頼るくらいだ。本当に困っているのでしょう。貴方を信じて、依頼を受けましょう。ただし、殺す云々の措置はこちらでなんとかできるならご留意頂くかもしれません。……生き残る命は、多い方がいいですから」
葵
「そうですね……使命感に駆られて大事なことを忘れるところでした。あと、申し訳ありませんが、報酬は多くは出せません。その代わり、私にできることであれば何でもいたします。どうかよろしくお願いいたします」
帳
「はは、女性がなんでもなんて気軽に使うものではないですよ。つつしんで、お請けします」
帳はにこりと笑う。
葵
「ありがとうございます……。現時点でわかっていることですが……今お話した以上のことは……申し訳ありません。強いて言えば、吸血鬼……日影館家は日本の守護者を気取っていますから、何か知っているかもしれません」
帳
「……あー、あいつらかー。まあ、行きますか」
ふたりの前にミルクが差し出される。
帳
「まあ、しばし、難しいことは忘れて、普段おおっぴらに話せないことを話して、帰って、寝ましょうや。俺はちゃんと動くんで」
そう言ってグラスを差し出す。
葵
「ふふ、ミルクで乾杯というのは初めてです」
葵はどこか嬉しそうに微笑みながら、グラスを優しく当てた。
こうして帳は、火戦姫と不知火の戦いを阻止するという重大な任務を得たのだった。
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深夜2:00。
死神、久音 刹那は自宅で、ある心配をしていた。
同居人であり弟分。
義理の息子のような存在でもある16歳の少年が帰宅していないのだ。
少年の名は目時 礼二(めとき れいじ)。
死神である刹那が12年前に死を与えた吸血鬼の息子だ。
吸血鬼の息子と言っても、洗礼を受ける前に産まれたため礼二は純粋な人間である。
4歳の幼児の目の前でその父を殺した。
「おとうさんをかえして!」
それ以来、刹那は――
誰も殺すことができなくなった。
死神だというのに。
贖罪の意識があったのだろう。
刹那は施設に入れられていた幼児を引き取り育ててきた。
そんな大事な少年が帰らない。
16歳というお年頃とはいえ、連絡も無しに午前様では事件に巻き込まれた可能性もある。
刹那
「どこで何をしているんだ、礼二……」
刹那以外、誰もいないリビングで礼二の帰りを待つ。
誰も殺せない死神になったとはいえ……自身がバケモノである事実は変わらない。
睡眠の欲求も空腹も何も感じない。
いつまでも待つ事は出来る。
だが………心にぽっかりと空いた穴だけは感じずには居られなかった。
不意に玄関の扉を開ける音。
死神である刹那は敏感に嗅ぎ取った。
家の中に入ってきた人物は死の臭いをまとっている。
少年の声
「兄貴……」
玄関から聞こえてきたそれは待ち侘びた少年の声。
刹那は音を立てて椅子から立ち上がり言葉を発する。
刹那
「礼二、こんな時間まで何を……!」
そこまで言って、気が付いた。
礼二がまとっている濃密な死の匂い。
かつて自身が振りまいていたというのに、気が付くのが遅れていた。
玄関に向かえば礼二が立っている。
死臭をまとっているのは彼だ。
特に怪我をした様子は無いし、付着している血も返り血だ。
礼二
「父さんの仇のひとりを殺してきた」
漂う死臭は吸血鬼のものだ。
それにしても、おかしなことが多すぎる。
彼が夜の世界の戦いに憧れ、密かに特訓をしていたことは刹那も知っている。
だが、単なるノウンマンの少年が吸血鬼を殺せるとは思えない。
そして何より、礼二の父は刹那がひとりで殺した。
仇のひとりとは……?
礼二には両親は事故で死んだと、そう嘘をついていたはずだ。
立ち込める死臭と血の匂いにたじろぎながらも、刹那は礼二の肩を掴む。
刹那
「お前は……自分が何をしたのかを分かっているのか! 相手がニンゲンじゃなかったとしても……他人の生命を奪っているんだぞ! たとえ、自身の親の仇だとしても……!」
言葉が溢れるように出てくるが、その言葉は意味を成さない。
何故なら、礼二の父親の生命を奪ったのは……他でもない、刹那自身なのだから。
礼二
「兄貴は死神だろ? なんで動揺してるんだよ。沢山殺してきたんだろ?」
魔物であることは明かしているが、死神であるとまでは言っていない。
その言葉に、刹那は息を飲んでしまう。
手を払われ、思考が一瞬、止まってしまう。
礼二
「兄貴はずっと隠しておけると本当に思ってたのか? 父さんを殺したのは日影館の連中だ。俺は奴らを……全員殺す」
礼二の父は日影館の血脈だった。
刹那はそこまで思い出して鋭い頭痛を感じる。
それ以上、思い出せない。
どうして自分は、吸血鬼になって間もないあの男を標的に選んだのだろう?
いや、死はいつも唐突だ。
選定理由はあまり重要ではない。
ただ、あの日の前後の記憶が曖昧、その事実に今まで気付かなかったこと、それが問題だ。
頭を思いっきり殴りつけられたような衝撃が走った。
過去を思い出そうと努めるが、それは余りにもおぼろげで、はっきりと思い出せない。
だが、このままでは礼二は日影館の拠点に向かい、取り返しの付かない事になってしまう。
刹那
「いかせる、かぁ!」
刹那は再度、礼二に向けて手を伸ばす。
その手には、かつて振るっていた死神としての証、生命ヲ奪ウ刃。……しかし、その刃は誰かの生命を奪う事などできぬよう、自らの意思で潰されている。
礼二は刹那の知る少年とは思えぬ動きでそれを躱した。
礼二
「ありがとな、兄貴。これまで育ててくれて。でも俺はもう自力で生きていける。魔物を殺す力を手に入れたんだ。時々は顔を見せに来るよ。じゃあな」
礼二は身を翻すと足早に去っていった。
年頃の少年の反抗期なんてものではない。
一刻も早く事態を把握しなくては。
まずはペルソナネットワークの動向だ。
同胞を殺されて黙っているわけがない。
刹那は自身の無力を感じ、思いのままに壁を殴り付けた。
壁は一撃で粉砕され、大穴が空き、自身の手からも血が流れる。
しかし、そんな痛みは心に刻まれた痛みに比べれば些細な事だ。
刹那 :
「……礼二。これ以上のあやまちは繰り返させない。たとえ、お前から家族として認められなくなったとしても、俺は、お前を止める」
そう決意した刹那は闇の中へと消えていった。