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傀儡人形相克エレジー1

これはビーストバインドトリニティのリプレイ小説です。

GM夏風が、あらかじめ提出されたキャラクターシートを元に作ったシナリオのため、再演は無いのでネタバレを気にせずに読んでいただけます。
BBTでの2回目のGMでのシナリオとなります。

***本リプレイは「F.E.A.R.」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『ビーストバインド トリニティ』の二次創作物です。***

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今回予告
兵器として生かされた者がいる。
死を覆さんと奔走する者がいる。

魂賭けし遊戯に耽る者たち。
駒として盤面で踊る者たち。

過去への扉を開いた猫が見届けるのは生か死か。

ビーストバインド トリニティ
『傀儡人形相克エレジー』
心焦がすは魔の渇望、心つなぐは人の絆。

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PC1/PL:リエルさん
“モルス・トリア=フェイムス” モルス・アルカディア
元・視覚障害者のスポーツ選手。メルキセデクによって起こされた事故で拉致されサイボーグ、モルティスシリーズの3番機に改造された。自分が機械の体にされたことが受け入れられず暴走して研究所を脱出、死にかけていたところをペトルーシュカと呼ばれる天才少女に拾われ居候となる。

PC2/PL:ナツルさん
“陽招きの鍵尾” 麦(むぎ)
「可愛い」という名前の猫又。ニンゲンはみんな可愛いと呼ぶからそれが自分の名前のはず。しかし、ニンゲンは頭が悪いので人によって違う名前で呼ぶことがある。一番のお気に入りのニンゲンが呼ぶ麦という名前は広い度量で受け入れている。そのニンゲンが泣きながら頼むのでタイムマシンとやらに乗ってニンゲンを助けてやりに行くことにした。親分が子分を助けてやるのは当然のことだから。

PC3/PL:レイヴンさん
“ガーネット” リン・フレット
メルキセデクの仕組んだ事故により緊急手術を受け、心臓を心魂機関に置き換えられた少女。恐怖と混乱のままに魔銃を手に暴れ、研究所を脱出してからは池袋の裏社会に適応していった。ハンターズブラッド所属の傭兵。願いは自分のような存在がこれ以上増えないこと。

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雨の降りしきる路地裏。
力尽き、動けなくなった壊れかけのサイボーグ。
それは通り掛かる少女に気がつくと朦朧とした意識で呟いた。
死にたくない、と。

それから2ヶ月。

天才少女科学者、“ペトルーシュカ” 経ヶ辻蘭(きょうがつじ らん)の家。
サイボーグのモルスが夕飯を作り、蘭とその弟の翔と3人で食卓を囲んでいた。


「モルスさん、味覚センサーの調子はどう?」

モルス
「ん、あぁ、大丈夫。へーきへーき、ちゃんとしてる」

機械の体でありながら、夕飯を口に運びニコニコと答える。

モルス「お前の仕事、疑ってねぇもん。ありがとな、蘭」

味がする。
それはモルスがここに来て手に入れた、ささやかで本当に大切な事。

モルス
「本当に感謝してんだぜ? 料理もまた作れるようになったしさ」


「そう、順調に馴染んできているようで良かったわ」


「モルスのご飯もマシになったよね」


「翔、作ってもらって、そういうこと言うのは失礼よ」

翔は叱られたというのにどこか嬉しそうにしている。

モルス
「おう、言いやがったな翔。次、美味しくお菓子作れてもわけねーぞ?」

少し頬を膨らませて怒った表情を作ることもできる。
姉弟の仲の良いやり取りを見て、ふと思い出されるふたりの義姉の顔。

モルス
「仲がいいっていいよなぁ……」

そんな団欒を邪魔するように突然、警告音が鳴る。
敷地に設置されたセキュリティのアラームだ。

高度な研究を行っている関係で一般家庭用とは異なるそれが侵入者を感知した。


「庭に侵入者……? モルスさん、申し訳ないのだけど、様子を見てきてもらえるかしら。もちろん、無理はしないで。私たちは研究室の扉を非常施錠して籠もるから、いざという時は逃げて助けを呼んできて」

モルスは緊急事態に体を強張らせていた。
動転して、見えないようにしていた視界が開けて、もう一度慌てる。
こめかみを押さえて軽く頭を振り、自分の手を見て深く深呼吸する。

モルス
(確かに……こういうのは俺が最適だ……理論上)
「わぁったよ、どこまでやれるかはしんねーけど」

少し沈む声色と共に立ち上がった。

モルスが庭に出ると、聞き覚えのある声が驚きの言葉を口にする。

ドゥアエ
「トリアじゃん!」

ウーナ
「なぜ、ここに……いえ、ここだから無事でいられたということね」

姿を現したのはモルスの同型姉妹機。
モルス・ウーナとモルス・ドゥアエだ。

人間だった頃のフリをするために持っている白杖から、モルス・トリアは思わず手を離す。

モルス
「なん……で……」

義姉たちとのあまりに突然の再会に、その先の言葉が上手に続かない。
辛うじて絞り出したのは、あまりにも陳腐な質問。

モルス
「……俺をどうにかしに来やがったのか?」

ウーナ
「どうにか? それは――」

ドゥアエ
「トリア、あたしたちペトルーシュカを連れて行く任務中なんだけどさ、一緒に帰ろうよ」

ウーナ
「ドゥアエ、任務の内容を軽々しく言わないで」

ドゥアエ
「トリアは妹なんだからいいじゃん」

ウーナ
「そうね……トリアの脱走は全身義体換装による混乱をきちんと予測できなかった主任の責任だものね。その様子だと落ち着いたのでしょう? トリア、私たちと帰りましょう。ペトルーシュカを連れてきて」

モルス
「は…? え……蘭を……?」

予想外のウーナとドゥアエの言葉に素っ頓狂な声が出る。

モルス
「……あそこが。メルキセデクが蘭になんの用があるっていうんだ?」

ウーナ
「直してもらったのでしょう? なら、彼女がどれだけメルキセデクに貢献できるかわかるでしょう」

ドゥアエ
「よく知らないけど、連れてこいってさ」

モルスは少し考える。
このふたりと、さっきの姉弟のように仲良くできるかもしれない未来を。
しかし――

モルス
「嫌だ。お姉ちゃんたちにわかってくれって言えねぇけど……難しいけど。あそこには家族があるんだ。メルキセデクで俺には無かった何かがあるんだ。だから……それを壊したくない」

声が震える。
また、わかってもらえないかもしれない。
わかってもらえないんじゃないかという気持ちのほうが強い。
嫌われたくないという気持ちに、訴える声も自然と震える。

長姉ウーナは理解できないという表情で首を傾げ、やや間を置いて口を開いた。

ウーナ
「手の焼ける妹ね……いいわ、今は任務を優先する。力ずくで連れて帰るわよ」

人間には不可能な速度でウーナの手に二挺拳銃が握られた。

ドゥアエ
「せっかく再会できたばっかりなのに……でも、同じ力を持つ姉妹と戦うのって、絶対に楽しいよね! 二対一だから全力で来てよ!」

重い音を立ててドゥアエがハルバードを一振り。
モルスに向けて構えた。

モルスは知っている。
彼女たちの力なら、研究室の扉をこじ開け蘭をさらっていくことが可能だろう。

モルス
「俺は嫌だ……! 俺は嫌だぞ!! なんでお姉ちゃんたちがこんなことしてるかも! なんでメルキセデクが蘭を拉致ろうとしてんのかもわかってねぇのに!!」

そう言って食い下がろうとしたモルスの胸がずきりと痛む。
自分が壊されるかもしれないという予感が暴れる。
敵を刈り取れと何かが、がなり立てる。

その衝動を否定しようと必死に声を上げた。

モルス
「や……めてくれっ! お姉ちゃんっ!!」

苦しさの中から絞り出した懇願は、無慈悲にも即座に打ち砕かれてしまう。

ウーナ
「CODE:Dedication//Activate―」

ウーナの体に青い光があふれ、両手に持つ拳銃に集まっていく。
モルブス&ヴェネヌム。
病と毒の名を持つ武器にエネルギー弾が装填された。

ドゥアエ
「CODE:Victoriam//Activate―」

ドゥアエの体に青い光があふれ、手にした斧槍に集まっていく。
ヴィオレンティアム。
暴力の名を持つ武器にエネルギー刃が形成された。

その言葉に呼応してモルスの中で何かがばちりと爆ぜた。
言葉にならないぐらい苦しいというのに、口元が勝手に動き出す。

モルス
「C∆#Ε::sρΕs//A<τi∠aτΕ……!!」
(……ノイズだ。ノイズしかない。こんなのっ、俺のやりたいことじゃねぇ!! やめてくれ! お姉ちゃんっ!!)

モルスの意志を無視してバチリと胸の奥で光が弾ける。
その、衝動としか言えないものは青く輝いて、見た目だけはとても綺麗だった。

体の表面を這う青い電流が四肢の先端までに染み込んだ時、モルスを突き動かしていたのは「もっと疾く、もっと強く、思うままに、すべてをほしいままに」という衝動。

満たされないものを追いかけるように、相対する姉たちに向かって、モルスは徒手空拳の構えをとった。

モルス
(違う、嫌だ、俺はそんなこと望んでない! なんで……どうして俺の顔は笑っているんだ!! いやだ……いやだ、いやだっ!! やめてくれよっ!!)

心の内の悲鳴は何ひとつ声にならない。
姉たちの言葉に突き動かされるように、心を置いてけぼりにして足は地を蹴った。

モルス・ウーナ=エピデミア、その名は広範囲に素早く死をもたらすもの《疫病》。
動き出したモルスを牽制するように二挺の拳銃から非実体の弾丸が掃射される。

モルスは掃射をかいくぐって必要なものだけを手で弾いた。
青い火花が散る。

モルス・ドゥアエ=ベルム、その名は人々に理不尽な死をもたらすもの《戦争》。
ウーナへと意識の向いたモルスに死神の鎌のごとく斧が迫る。

モルスには、しっかりと動きが見えていた。
機械の体の仕組みのどこかが、これなら隙を突いて出し抜けると笑う。

目標をウーナからドゥアエに切り替えてスピードを更に上げ、背後に回り込むが――

モルス
「嫌だやめてくれえぇええぇぇ!!!!」

モルスは自分で自分の手を押し留める。
繰り出そうとした拳をもう一方の手で掴んでいた。

機構内のどこかが空回るような音を立て、急速に衝動が消えていく。
そうやって立ち止まったその時間、たった数瞬が致命的だった。

刹那の隙を見逃す敵ではない。
ウーナの連射を側面に受ける。
素早く振り返ったドゥアエの武器により弾き飛ばされる。
塀にぶつかり、モルスは体の自由を失った。

ドゥアエ
「ちょっとトリア〜、やる気あるぅ?」

ウーナ
「帰ったら修理だけでなく調整が必要ね」

動けなくなったモルスは次第に意識を失っていく。
その失いゆく意識の中で、妙にハッキリと声だけが聞こえていた。

ドゥアエ
「うん? 誰だよあんた」

ウーナ
「構えてドゥアエ」

男の声
「あんま面白くねーな、機械同士の戦いってやつは。血が流れないなら、せめて悲鳴ぐらい聞かせてくれよ。まぁ、そんなことはどうでもいい。悪いけどよ、ペトルーシュカがメルキセデクに行っちまうと都合が悪い方々がいるんだ、帰って上司に諦めるよう伝えな」

ウーナ
「面白くない冗談ね」

銃声。

モルスの意識はそこで完全に途切れた。

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