星鎧騎装エルダーヘクス1
これはビーストバインドトリニティのリプレイ小説です。
GM夏風が、あらかじめ提出されたキャラクターシートを元に作ったシナリオのため、再演は無いのでネタバレを気にせずに読んでいただけます。BBTでの3回目のGMでのシナリオとなります。
***本リプレイは「F.E.A.R.」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『ビーストバインド トリニティ』の二次創作物です。***
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今回予告
サービス終了コンテンツ。
二度と日の目を見ない電子の墓場。
リメイク、リマスター、アーカイブ。
どんな形でもいい、あの栄光をもう一度。
たとえ邪神の力に縋ろうとも。
ビーストバインドトリニティ
『星鎧騎装エルダーヘクス』
心焦がすは魔の渇望、心つなぐは人の絆。
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PC1/PL:飴子さん
“真実の壁” ヘイト・トゥルー
古いローグライクネットRPG『True』のセキュリティソフト兼マスコットだった存在。Trueはすでにサービス終了しており、その際にマザーサーバーによって現実世界へと逃された。セキュリティソフトとしての仕事ができない現在の自分にコンプレックスを抱いていて、やるせない想いを抱えながらバイト暮らしをしている。
PC2/PL:ナツルさん
“インカーダー” 縁道 友志(えんどう ともし)
銀河連邦のとある星から地球ドミニオンの動向を探りに来た監察官、のはずだが、ホビーアニメ『激熱突信インカード』と運命的な出会いを果たしてしまい、メダルとカードを組み合わせた対戦ゲームの伝導者となっている。なお、インカードはあまり売れず、とっくに販売終了している。
PC3/PL:レイヴンさん
“地母神シュブ=グラス” 御山羊 陽雨(おやぎ ひさめ)
眷属であるクーロと共に探偵業を営む邪神。“夜の女王”リリスから聞かされた池袋の話に興味を惹かれ、地球ドミニオンに遊びに来た。ふたり揃って遊び暮らしているうちに供物の金品が尽き、潰れた探偵事務所を乗っ取ってそのまま居着いている。サバトと称して頻繁に宴に興じている。
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チクタク チクタク
チクタク チクタク
チクタク チクタク
チクタク チクタク
サーバーマシンの立ち並ぶ薄暗い部屋。
冷却ファンと空調の音が響く中に、異質な音が混じっている。
チクタク チクタク
チクタク チクタク
チクタク チクタク
チクタク チクタク
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ここは御山羊探偵事務所。
事務所の主は半魔。
正体は外宇宙の邪神だ。
類は友を呼ぶ、という言葉がある。
今、事務所内でホビーゲームに興じているふたりもまた邪神だ。
ヨグ=ソトホートの分霊、無門密鍵(なしかど みかぎ)。
密鍵
「今度こそ覚悟してよね灰人ち! レッツダイブ!」
力を封印されたクトゥグア、穂村灰人(ほむら かいと)。
灰人
「密鍵の作戦はもう見切った! レッツダイブ!」
剣を模した遊具にメダルとカードをスキャンし、召喚獣を戦わせて魔法で支援する、という設定のゲーム。
子供向けだが、二柱の邪神はノリノリで遊んでいる。
なお、傍目にもゲームバランスは良くなさそうだということが見て取れる。
陽雨
「クハハハ! そこにリバースカードオープン!邪悪なる防壁! これで貴様らの召喚獣は行動不能! これでアタシの勝ちだぁ!」
陽雨は勝ち誇った笑みを見せる。
灰人
「くっ、そんなメダルがあったとは!」
密鍵
「私が隠し玉にしようと除けてたやつが!!」
陽雨
「ようし、これでアタシの勝ち……あ、やっべ、攻撃コストが……」
手持ちのカードとメダルを見ながら呟く。
灰人
「ああ、確かにコストが足りないね。じゃあ、それは無効で僕のダイレクトアタックが通って、終わりかな?」
陽雨
「バ、馬鹿なぁぁぁぁぁ! こんな終わりがあるのかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
陽雨はわざとらしく声を上げて悔しがって見せた。
クーロ
「……主よ、わかっててやるのはどうかと思うぞ? まあ楽しむ事は悪くないがのぉ……」
そう言いつつ、クーロは手持ちのカードとメダルでコンボを組もうとメモを取ってる。
その後、ひとしきり遊び、密鍵が飽きたと玩具をソファに放る。
密鍵
「なんか、コンセプトがとっ散らかってるんだよね、流行らなかったのもしょーがないね」
灰人
「確かに、僕はコンピューターゲームの方が好きだし、剣で斬る動作が必要なとことか、単純に面倒くさいね」
陽雨
「まーねー、でもそういうロマンが込められてるところはアタシとしては好みなんだけどなー。敢えてそういう動作を入れるってのは没入感?ってのがあってイイがなあ……」
クーロ
「うむ……とは言え、この現世は他にも多様な遊戯がある。その中で廃れるのは仕方のないことよ……」
クーロは変わらずコンボを構築中だ。
密鍵
「駅前で男の子が配ってたんだけど、よく見たら自作のメダルとカード混ざってるよね、うけるー」
灰人
「終わったコンテンツを復活させようって熱量が凄いのは好ましいけどね。陽雨はそういうのってどう思う?」
陽雨
「へえ……灰人から見てそうなのか、良いことじゃないか。たとえ誰からも忘れ去られたとしても、そのひとりが覚えているのなら、それは生きているってころになるだろう? それはアタシたち邪神も同じさ、誰にも恐れられなくなった時が死ぬ時だからね」
クーロ
「うむ、その通りだな主に友人たちよ。……では、人間共に恐れられ我らの存在を刻み込むために、再びサバトでも開こうかの?」
密鍵
「えー、私はパス、ポケ○ンカードのブースターでも買ってこよ。あ、灰人ち、明日また、あの男の子のとこに集合ね」
言うが早いか密鍵の体は、突如発生した数多の虹色の泡の中に消えていった。
灰人
「僕も帰ろうかな、ゲームのレベル上げしよう。じゃあね陽雨」
灰人も帰ろうとしている。
ソファには玩具が置きっぱなしだ。
陽雨
「おいおい、つれねえなあ……って、置きっぱなしにしてくんじゃねえよ」
陽雨は玩具を回収し、袋に入れて戸棚にしまい込んだ。
邪神友達のふたりが帰ってすぐ、ひとりの中年男性が事務所を尋ねてきた。
死霊課の火蜥蜴刑事(サラマンダーデカ)、半魔だ。
火蜥蜴刑事
「よう、御山羊、邪魔するぜ」
陽雨
「おう、邪魔するなら帰ってくれ」
クーロ
「まあそう言うな主よ、飲み物は蜂蜜酒で良いかの?」
火蜥蜴刑事
「おっと、そいつはご禁制だ、没収させてもらうぞ」
クーロ
「あー! 我のとっておきがー!」
陽雨
「そりゃそうだろクーロ……とまあ、ボケはこの辺りにしてだ。一体なんの用だ刑事さんよぉ、アタシたちはまだなーんにも悪い事はしてねえぜ?」
火蜥蜴刑事
「近くまで来たら、邪悪な気配がプンプンしてたんでな。またぞろ集まってサバトでも開いてるかと思ったんだが……まだ、か、そうか。半魔相手ならまだいいが、一般市民を精神崩壊させたらしょっ引くからな」
陽雨
「へいへい、分かってますよーだ。流石にアタシたちも昼と夜を分けるって事はわかってますよっと、面倒はゴメンだしな」
クーロ
「それに遊戯というのは、ルールという枠組みの中で遊ぶのが愉しいのであろう? その枠を破壊してまで遊ぶというのは無法者のやる事だ、我らの趣味には合わぬよ」
陽雨
「そうそう、とはいえ、その枠組みのギリッギリを攻めるのは愉しいからやめられねえけどなぁ」
火蜥蜴刑事
「釘は刺したからなぁ? んじゃ、次行くか」
どうやら本当に様子見に来ただけのようだ。
来て早々に帰り支度をする。
陽雨
「へいへい、いってらっしゃいっと」
クーロ
「暇が在れば我らのサバトで息抜きでもするとよいぞ~」
火蜥蜴刑事
「だから、それをだな……まぁいい、あばよ」
火蜥蜴刑事は嘆息して去っていった。
そして翌日。
密鍵
「ちょっとちょっと陽雨ち!」
声と共に唐突に虹色の泡から密鍵が現れる。
陽雨
「んぉ? どったの? そんなに慌てて何があったんだ、ミルクでも飲むかい?」
密鍵
「あ、飲むー。じゃなくって、なんか灰人ちの霊圧消えてない?? 連絡つかないんですけど!」
気配を探ってみると、密鍵の言うようにあれほど強かった“生ける炎”クトゥグアの霊圧が池袋から消えている。
陽雨 : 「……何ぃ!? ちょっと待て、一体何があったんだ!? クーロ! 何か知らない!?」
クーロ
「知らん! それよりも何か知ってそうなのがそこにおるじゃろうが!」
密鍵
「インカードの男の子に会いに行く約束してたのに、どこにもいないって事件だよこれ! お金ならあるから探偵として灰人ち探すの手伝ってよ!」
いくら権能が制限された分霊とはいえ、時間と空間を司るヨグ=ソトホートが行方不明だと言うのだから、実際どこにもいないのだろう。
陽雨
「OK! その依頼受けるよ! とっとと探し出して灰人とそのインカードの男の子と一緒にサバト(見つかった記念パーティ)でもするよ!」
密鍵
「うんうん、ぱーっとやろう! じゃあ頼んだよ陽雨ち! 私も私で探すから! じゃ!」
密鍵は虹色の泡に消えていく。
陽雨
「おっけー! って事で探すよクーロ」
クーロ
「うむ、ゆくぞ主。手始めにそのインカードの少年とやらを探すかの? となれば……遊戯であるし、学校か?」
陽雨
「そうだね、探してみてついでにロリショタの味見もグヘヘ」
クーロ
「ボケとる場合か! その時は我も混ぜんかまったく!」
それから、穂村灰人こと“生ける炎”クトゥグアを探して1週間あまり。
陽雨はようやく有力な情報を得る。
昨日、つまり灰人の失踪より後に彼の目撃情報があった。
もっとも、昨日のその時間帯にクトゥグアの霊圧は感じられなかったのだが。
いずれにせよ、池袋駅前の雑踏で灰人と思われる半魔がサラリーマン風の男と会話していたところが目撃されている。
まずは、そのサラリーマンを特定しなければならないだろう。
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『激熱突信インカード』
それは、数多の特殊カードと魔獣コインを組み合わせライバルと競い、高めあい、勝利を目指す、まったく新しいホビーバトルだ!
スキャンソードにカードとメダルを読み込ませ、アイテム、召喚獣、魔法を駆使してバトル!
カードとメダル、そしてライバルと言う名の友は必ずやキミの信じる想いに応えてくれるだろう!
無数の名勝負の果てに目指すは一流のインカーダー!
覚悟はいいな! レッツダイブ!
そんな売り文句と共に発売されたが、売上が振るわず早々に生産中止、追加グッズも出なくなったホビーゲームがある。
しかし、銀河連邦の監視官であるはずの縁道友志は、このゲームの虜となった。
バランスの悪いインカードに自作のメダルとカードを追加して、まだ遊ぶに耐えられる状況を作り、布教活動に勤しんでいる。
孤独な活動だったが、しばらく前に理解者を得ることができた。
社畜のおじさん、不破狩蔵(ふわ かるぞう)。
アンノウンマンである彼は、愛するコンテンツのサ終に共感し、それでもなお布教を続ける友志を応援してくれている。
今日も今日とて、外回り中の不破は友志と共に池袋駅前で路上バトルを行っていた。
不破
「いくぞ縁道くん! レッツダイブ!」
友志
「ああ、行くぜ不破のおっさん! ぜってぇ負けねえからな! レッツダイブ!」
不破
「俺のターン! ドロー! カトブレパスをスキャンして召喚! チュパカブラの守りをセットしてターンエンドだ!」
友志
「なるほど。攻防一体のいい手だな! ……だが! オレも負けてねえ! ドロー! ……来たぜ! オレはディスペンパックを通常召喚! 更にパンクロージャ―をリンク召喚! ふたつの力がひとつになる時! 新たな光が道を照らす! いっけえ!!!! ボンテン・アタック!!!」
不破
「なにぃ!? それでは俺のカトブレパスの邪眼が無効化されてしまう! だが、チュパカブラの守りで、なんとかしのいだぜ」
不破は何かのゲームのトップランカーだったらしいが、インカードの才能は中の下、とてもじゃないが、友志の求める好敵手とは言えない。
最初こそ良かったが、友志が甘めに組んだコンボを前に成すすべもなく敗北した。
物珍しげに立ち止まってバトルを眺める人もそれなりにいたが、興味を持って声を掛けてくるような人物はいなかった。
不破
「今日も、新たなインカーダーは見つけられなかったね。それにしても、やっぱり俺はこういうゲームは苦手だな……はぁ、『True』が恋しいぜ」
友志
「まあ千里の道も一歩からってな。不破のおっさんとも出会えたんだ。まだ見ぬインカーダーにもきっと巡り合えるさ! トゥルー……ああ、なんだっけローグ……RPGだよな。インカードはこうして遊べるけどオッサンのゲームはもう一緒に遊んでやれねえしな……」
不破
「ああ、『True』はローグライクゲームだ。国内だと不思議のダンジョン系って呼ばれることが多いな。ターン制でダンジョンをキャラひとりで探索するんだが、ハックアンドスラッシュで食料とかの概念もある。『True』はオンラインゲームだったから、どの階層まで進めたかとか、どれだけ敵を倒したかとか、毎日ランキングが出てたんだ。俺はトップランカーでな……あの頃は毎日が楽しかったよ」
友志
「なるほどな!」
よくわかっていないが相槌を打つ。
友志
「そんなに熱中してたゲームがなくなっちまうなんて悔しいよな。だけど諦めなけりゃあきっとまた道は開けるぜ! 何かできることがあればオレも協力するぜ!」
不破
「道か……どうだかな。サ終、サービス終了が発表された時は心臓が止まるかと思ったぜ。思い返してみれば、他のランカーもどんどん引退してたからな、最終的には連日俺が1位総なめだった。サーバーシャットダウンの直前にタイミングを合わせてラスボス倒したのも、今となっては虚しい……俺の情熱はあの瞬間『True』と共に消え失せた。以来、ただの社畜だよ」
友志
「不破のおっさん……。いいや、不破のおっさんと『True』の間には確かに友情と絆があったんだ! 友情は不滅だ! 不破のおっさんが気付いてないだけであんたの心には、まだ情熱は灯ってるはずだぜ! だから、悲しいことを言うなよ!」
不破
「ありがとうな縁道くん。そうだった、今は縁道くんを応援するって目標があった。ただ、俺とだけバトルしてたんじゃ、インカードの魅力は周りに伝えきれないだろう。この前の不思議な髪の色した女の子、友達と遊ぶって言ってたけど、あれから一度も来ないな……しょうに合わなかったか」
友志
「う~ん、興味は持ってくれたと思うんだが……。いいや、何か事情があるのかもしれない! オレが諦めたら、あの子がまた来てくれた時に申し訳ないぜ! これからもオレはやるぜ!」
不破
「ははは、残念だが、まだしばらくは、このサ終おじさんとのバトルの日々だろうな。……とっとと、もうこんな時間だ、会社に戻るわ、またな」
そう言って雑踏へ歩き出した不破は、ギョッとしたように足を止め、何かを凝視している。
友志がその視線の先を追うと、SF風のコスプレをした人物がチラリと見えた。
不破
「悪い、縁道くん。俺は、俺の同志を見つけちまったかもしれん」
友志
「……よくわかんねーけど分かったぜ! いいぜ不破のおっさん! オレにかまわずあんたの情熱を追いかけてこい!」
不破
「ありがとよ! またな!」
不破は雑踏へと駆け出した。
その後しばらく、毎日顔を出していた不破は姿を見せなかった。
1週間ほど経って。
いつものように池袋駅前で布教活動に勤しむ友志の前に、見違えるほど自信に満ちた表情の不破が現れた。
不破
「よう、縁道くん、元気だったか?」
友志
「久しぶりだな、不破のおっさん! おう、オレはいつも元気だぜ! 不破のおっさんはどうしてたんだ?」
不破
「それなんだが、聞いてくれ、俺の魂の故郷『True』が復活したんだ。ちょっと思いもよらない形だったけどな」
嬉しそうに語る不破に友志は違和感を覚える。
そこにいるのにいない、そんな印象だ。
魔物の匂いもする。
友志
「……? 不破のおっさん、あんた……」
同志である不破の愛するコンテンツが復活したというならそれは友として喜ぶべきところだ。
だが……。
友志
「復活ってどういうことだ?」
不破
「まぁ、語ると長くなるんだ。今はまだ、不安定だからこっちに戻っていられる時間も短い。今日は必要なことだけ伝える。星騎士@不破として、キミを『True』に招待したい。インカード復活の協力もできるかもしれない。その気があったら、明日以降にこの場所に来てくれ」
そう言って、池袋のどこかの住所が書かれたメモ用紙を差し出す。
メモ用紙を受け取った友志。
違和感は膨らむ一方だ。
友志
「ああ、せっかくの招待だ。お招きにあずかるぜ!」
だが、不破を放っておくわけにはいかない。
ならば、まずは違和感の招待を調べるために飛び込んでやるまでだ。
不破
「おっと、時間切れだ。またな!」
不破の体は透けていき、忽然と消え去った。
友志の手には住所の書かれたメモが残されたのだった。