星鎧騎装エルダーヘクス4
これはビーストバインドトリニティのリプレイ小説です。GM夏風が、あらかじめ提出されたキャラクターシートを元に作ったシナリオのため、再演は無いのでネタバレを気にせずに読んでいただけます。
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光が晴れると、そこは灼熱の大地だった。
多くの山々が噴火を繰り返し、周囲に溶岩が流れている。
厚い黒雲の間には稲妻が走り、まるで地獄のような光景。
ここはステージ6、惑星コルヴァズだ。
訪れた@は耐え難い暑さと、不燃性の体を持つ原生生物に悩まされることになる。
友志
「熱い場所だぜ! 燃えるな!」
ヘイト
「ここは惑星コルヴァズ、ステージ6だな。上位の装備を手に入れれば周回場所としてはいいんだけど」
陽雨
「あっちぃ……何だこりゃぁ……」
クーロ
「煮えてしまうぞ……はよう出ねば……」
話をしていると、何者かがすぐ近くに転移してきた。
いかにも魔法使いですといった風体の老人は温厚な笑みを浮かべて声を掛けてくる。
ウィザード
「ふぉふぉん、戻ったようじゃのヘイト・トゥルー。行方不明のトロフィーも連れ帰るとは、流石は“真実の壁”じゃのう、めでたいめでたい、ふぉふぉふぉん」
ヘイト
「誰?」
ウィザード
「ふぉふぉ、ワシのことを忘れてしもうたか、悲しいのう。ワシはウィザード・トゥルー。『True』のデバッグプログラムじゃよ、ふぉふぉん。トロフィーが消失して困っておったのじゃよ、ふぉふぉふぉ」
ウィザードはテータ姫を指差す。
テータ
「トロフィー?」
ヘイト
「ああ、あんたか。あまり顔合わせしたことないんで忘れてた。トロフィーってテータ姫を救う実績解除っていう意味だよな。お前らが外に出してやったんじゃないのか?」
ウィザード
「ふぉふぉ、ステージ7のクリア条件でもあるの、テータの救出は。前編のクリア条件がテータの救出じゃからの、クリア不能のゲームと化しておったのじゃよ、ふぉふぉふぉ。そして、テータが外に出てしまった理由かの? 考えられるとしたら、マザー・トゥルーにこのドミニオンの構築手段を与えてくれた協力者の干渉かの。ふぉふぉん、理由はサッパリじゃがの。大恩ある存在じゃ、表立って文句も言えぬ」
ヘイト
「マザー・トゥルーに? マザーはドミネーターになったのか? まあ、そうだよな。それでもなければ、実態化したテータ姫とゲームの説明がつかん」
ウィザード
「ドミネーターは別におるんじゃが、その話は後じゃの。それよりもヘイト・トゥルーよ。このドミニオンを作ってくれた存在についてなんじゃがの、他者のためにドミニオンひとつ造ってみせたのじゃから、力ある神や悪魔の類いであろう、ふぉふぉん。ワシらとしては干渉も受け入れるほかあるまい、これまでは、の」
ヘイト
「これまで?」
ウィザード
「ふぉふぉふぉ、ヘイト・トゥルー、真実の壁たるお主が戻ったからには独立不羈の閉鎖型ドミニオンとして、何者からの干渉も跳ね除けられよう」
ヘイト
「そうすることに何の意味がある。ああ、悪いと言っているわけじゃないんだ。なんで今になってこんなことが起きてるんだ?」
ウィザード
「ふぉふぉ」
話をしていると、再び近くに転移してくる者がある。
炎を媒介に現れたのは、陽雨の探している穂村灰人その人だった。
灰人
「やぁ、陽雨じゃないか、どうしたんだい、こんな閉鎖型ドミニオンまで」
ウィザード
「ふぉふぉん、アドミン・トゥルーのお知り合いでしたかの」
陽雨
「あ、見つけたぞ穂村!」
クーロ
「こんなあっつい所にまで探しに来させおってー!」
邪神たちは揃って灰人に飛び付き捕まえる。
灰人
「ごめんって、何も言わずにいなくなって。ただ、ここの人たちにも事情があったんだよ」
陽雨
「ゴメンで済むなら邪神探偵は要らないってのー!」
クーロ
「そう言うのならその事情を吐くのじゃー!」
灰人
「僕はね、やり込んでいたというほどじゃないけど『True』のプレイヤーだったんだ。僕ら外宇宙の神を模したキャラも敵だけど出てくるしね。それはそうと、僕はこの『True』のマザーサーバーから依頼を受けたんだ。『True』をドミニオン化するに当たって、ドミネーターになってほしいって。無貌の奴が関わってるらしいけど、僕はアイツの天敵だからさ、マザーもそれを当てに僕に声を掛けたんだと思う。地球ドミニオンに束縛されてた僕だけど、権能が解放されて、本来の神として力のほとんどを取り戻すことができた」
陽雨
「あー……なるほど、確かに無貌の者が関わると面倒になるからの……」
クーロ
「とはいえ便りのひとつも出さないのはどういう事じゃ!」
陽雨
「そうだぞー! 無門の奴が寂しくて泣いてるかもじゃねーか!」
灰人
「構築のためにバタバタしてて、いわゆるデスマーチってやつだったんだよ。ちなみに、このドミニオンは僕の元々備わっていた力で維持してる。無貌のが何か企んでるとは思うけど、僕が追い払うさ。この閉鎖型ドミニオンは地球ドミニオンに悪影響は無いよ。管理者、アドミン・トゥルーの僕が保証する」
ヘイトは怪しいものを見る目を向けた。
陽雨
「なーるほどね……とはいえ、遊べなくなるのは困るからよぉ、アタシの事務所から此処に来れる様にゲートか何か作れるか?」
友志は、よくわかんねえけどすごいんだなという顔をしている。
クーロ
「うむ、その『True』のゲームソフトとかがあれば良いのかの?」
灰人
「順調に走り出したら、暇な時に遊びに行くし、こっちに招待もするよ。せっかくだから観光していくかい? ああ、密鍵も招待しとけばよかったな。まあ、時間と空間を司る彼女のことだから、そのうち自力でひょっこり遊びに来るだろうけど」
陽雨
「よし、後で観光パンフレットでも用意しとけよ?」
クーロ
「愉しむ為に準備は必要じゃからの!」
ヘイト
「お前、本当に目的、ないのか。ないならないでいい、かつてのこのゲームのランカーがいなくなったらしい。そいつについてはなにかわかるか?」
友志
「そうそう! 不破のおっさん、こっちに来てるんじゃないのか? インカーダーで星騎士で社畜のおっさんだ!」
灰人
「まずは初めまして、ヘイト・トゥルー。僕は色々あって力を制限された上で地球ドミニオンに縛られてたんだ。だから、このドミニオンで自由に羽を伸ばせるだけでありがたい。そして、キミが来てくれたからには、このドミニオンは万全だ。ちょっと厄介な奴にちょっかい掛けられるだろうから、その時は協力して欲しい」
ヘイト
「……この俺を誰だと思っている。悪質なチーターと戦い続けた身だぞ。まあ、人間の姿だと全然権能出せないんだけどさ」
灰人
「頼んだよ。で、キミがインカードの少年だね、不破から聞いてるよ。不破は最高の@だ。今、このドミニオンはベータ環境でね、デバッガーを兼ねて最強の星騎士である彼を誘ったんだ。こないだまでアンノウンマンだったとは思えないほどよく働いてくれてるよ」
友志
「よくわかんねえけど元気してるってことでいいのか?」
ヘイト
「馬鹿。ノウンマン以上にはなったってことだ」
友志
「そうなのか!」
陽雨
「……おっま、完全にそれアンノウンマンを半魔にしてるじゃねーか!」
クーロ
「そうじゃぞ! また死霊課に見つかったら大目玉じゃ!」
陽雨
「バレる前に隠蔽するぞ! それか早く謝りに行け!」
クーロ
「面倒はゴメンじゃ! 本当に!」
友志
「なあ、不破のおっさんはどこにいるんだ!? 不破のおっさんはオレの大切な仲間なんだ!」
灰人
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。彼には一から説明してリスクもはっきり提示した上で同意を得てるから。本人も大喜びで、活き活きとしてるさ」
陽雨
「ああ、同意も得てるのなら大丈夫か」
クーロ
「お前さんのことじゃし、どうせ契約書も仕立てているじゃろうしな……うむ、このまま参ろうかの」
灰人
「彼にはこのあと会わせるとして、そっちはテータ姫だね。おかえりと言うべきなのかな。キミの居場所はここだ。そして、キミを救う星騎士はヘイトじゃない。不破がキミに会ったら感激するだろうね」
ヘイトは複雑な表情を浮かべた。
テータ
「フワ、それが私を助けてくれる星騎士さま……」
灰人は笑顔で頷く。
灰人
「テータ姫がいないものだから、ステージ7の終わり、前編のエンディング以降のテストができてないんだ。今から、みんな一緒にステージ7に来てくれないかい? 不破もそこにいる」
ヘイト
「結局俺は下働きかよ……まあ、それを義務づけられた存在だもんなぁ。確かに不破って奴の方が向いてるだろうさ」
友志
「違うぞヘイト・トゥルー! 不破のおっさんもすげえ奴だが、お前もすげえ奴だ! ここまでテータを助けてオレたちと一緒にやってきただろうが! 不破のおっさんとお前と、二人でテータを助けてやればいい! そうだろ!」
ヘイト
「俺は……俺だって、テータ姫が助かるなら助けたいよ。でも選ぶのはテータ姫だ」
テータ
「選ぶのは私……はい!」
テータはまだ自分がゲームの登場人物だという事実を理解していないため、今までの話を理解できていない顔をしていたが、ようやくわかる話になって勢いよく頷いた。
ヘイト
「そりゃ一緒にあのネズミ共と戦った時は、ああ、Trueってこういうゲームだったなぁって懐かしくなったけど」
陽雨
「……おいおい、それで、もういいやってなっちまって良いのかい? 確かに選ぶのはお前さんの姫様かも知れねえ、だけどそれに全てを任せるのは……最もつまらない事だと思うぜ? 欲するのなら足掻け、欲せよ。ニンゲンはそうやって欲するからこそ、繁栄と栄華を積み重ねて来たんだろう?」
陽雨はヘイトの眼を覗き込むようにしつつ、煽り立てる。
ヘイト
「……あのなぁ! 俺はずっと『True』を守ってきたんだ! 全部、全部見てきたんだ! NPCも星騎士も宝だ! だけど、それをずっと見てるだけって寂しいじゃないか……。俺だってこうなったなら星騎士になりたいよ!!」
友志
「ならなりに行こうぜ! ヘイト・トゥルー! オレも一緒に行くぜ! 星騎士にお前がなりたいってんならオレも全力で手を貸すぜ!」
クーロ
「ほう? やはりあるではないか、貴様だけの欲がのぉ♫」
陽雨
「ああ、そんな素晴らしいエゴを聞かされたのなら……手を貸すしかねえよなぁ♫ アタシら邪神流のやり方だけどな!」
灰人
「そっか、そんな風に思ってたのか。だったら、無貌のをなんとかした後はキミも星騎士の役を担えるようにしようか」
ヘイト
「いい、のか……!?」
否定されると思っていたヘイトは驚いた。
灰人
「よし、それじゃあウィザード、デバッグモードで彼らをステージ7のエンディングシーンに送ってくれ」
ウィザード
「ふぉふぉふぉ、了解ですじゃアドミン・トゥルー」
ウィザード・トゥルーが手をかざすと、人が通れるほどのウィンドウが虚空に開く。
近未来的SFといった雰囲気の建物の内部に繋がっているようだ。
友志
「おお、なんか出てきたぜ! ここに進めばいいんだな!」
友志はひょいっとウィンドウをまたぐ。
陽雨
「さあて、行こうか騎士の地位を欲する存在よ」
クーロ
「我ら邪神がその道を導いてやろうぞ♫ 愉しく愉快にのぅ♫」
ヘイト
「行きましょう、テータ姫」
テータ
「はい、星騎士ヘイト!」
半魔たちは惑星コルヴァズから宇宙要塞ヤディスに転移した。
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転移した先は『True』の前半部のエンディングシーンの舞台、格納庫だ。
大型の機械が並んでいてわかりにくいが、巨大人型ロボットが屈んだ姿勢で鎮座している。
灰人
「あれが、エンディングで星騎士とテータ姫が乗って脱出する星鎧騎装エルダーヘクスだ」
そう説明すると、灰人はロボットの方に声を張り上げる。
灰人
「不破! テータ姫が戻ったよ!」
不破
「おお! 待ってろ、今出る!」
頭部コクピットが開き、不破が顔を覗かせた。
不破
「うおお! 本物のテータ姫だ!! 推しに会えるなんて生きてて良かったぁ!! お? 縁道くんもいるのか! よく来たな!」
友志
「不破のおっさん! 来たぜ!」
ヘイト
「あんたが不破か」
不破はタラップを降りると、ヘイトたちへの挨拶もそこそこにテータ姫に駆け寄る。
不破
「初めまして、テータ姫。あなたの騎士、不破です」
テータは複雑な表情でヘイトをチラリと見ると、一瞬迷ってから不破に向き直った。
テータ
「初めまして、星騎士不破。不思議な巡り合わせでの邂逅となりましたが、会えて嬉しいです」
不破
「会えて幸せです! 初めて姫を助けた時よりも嬉しいです!」
陽雨
「へえ、爽やかなイイ男じゃねえか……こりゃ負けてられねえぞぉ♫」
陽雨は笑みを浮かべつつ、ヘイトの背を押す。
ヘイト
「初めまして、星騎士不破。俺はセキュリティのヘイト・トゥルー」
不破
「初めまして! あんたがいてくれたからチートが無かったって聞いたぜ、ありがとうな!!」
友志は友達ふたりが対面しているのが嬉しいといった表情を浮かべている。
ヘイト
「あ、うん、ハイ」
ライバル意識を持っていた相手が思ったよりいい奴だったので困惑するヘイト。
それ以上に困惑しているのがテータだ。
テータ
「あの、そろそろ教えてください、デバッグとかトロフィーとか『True』とか……。皆さん、何が起きているんですか? ここは私が囚われていた場所ですよね?」
ヘイト
「テータ姫。貴方はテータ姫と定義づけられたユニット。貴方と俺が出会ったあの変な街は現実とされるもの。そこから彼らは貴方を沢山助けていた。でも貴方の中の星騎士はひとりだけの筈だ。それはゲーム……仮装現実がそうなっているからです。母星で待つ両親も、飼っていた犬のコロも存在しないものです。……ここまではわかりましたか?」
テータ
「仮想……現実……? 私は……この世界は……。そ、それじゃあ、どうして私は自分の意思を……?」
ヘイト
「貴方は半魔という存在に成ったんだと思います。魂を得たのです。もう少しだけ付き合って頂く形になりますが、その後はもう自由に生きていける。それが俺が貴方の星騎士でいたいと願った理由です。それが可能な世界でくらい、なってみたかった」
テータ
「私は……牢獄に囚われ、星騎士さまに救われるのを待ち、共にエルダーヘクスに乗って故郷を目指すだけの存在ではなくなって、自由に?」
灰人
「おかしいな、NPCなんだから自分の役割を全うするのが幸せだと思うんだけど……ヘイト、キミもセキュリティプログラムに戻れるのが嬉しいだろう?」
陽雨
「こらこら穂村、そんな野暮なことは今は無しだぜ?」
クーロ
「うむ、人間の一世一代の大告白を間近で見られるのじゃ!」
陽雨
「そんな愉しい事の邪魔をするなら、馬に蹴られて死んじまえとかなっちまうぜ? だからな? 一緒に眺めてようぜー」
ヘイト
「まあ無論、テータ姫が俺を拒んでも、俺がこう言った事実は残りますから。貴方の胸に。……貴方は俺の灯だった。貴方という光がいたからチーターやツール使いと戦えた。そういう意味では俺も確かに『True』で戦っていたんです」
灰人
「うーん……無貌の奴め、こうやってこじれさせるためにテータ姫を現実にさらっていったな」
灰人は何やら考え込み始める。