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星鎧騎装エルダーヘクス5

これはビーストバインドトリニティのリプレイ小説です。GM夏風が、あらかじめ提出されたキャラクターシートを元に作ったシナリオのため、再演は無いのでネタバレを気にせずに読んでいただけます。

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不破
「アドミンが考えてる間に少し話すか、縁道くん。『インカード』なんだけどね、『True』のミニゲームとして実装してもいいらしいんだ」

友志
「なるほどな! つまりどういうことだ!?」

不破
「このドミニオンが本番環境になったら、プレイヤーを定期的無作為に招くことになる。あ、もちろんクリアに失敗しても地球で言うとこの本当の死にはならない、そういう世界律ってやつが働いてる。ゲーム的な意味で死んだら真の死(パーマデス)ってことで地球ドミニオンにお帰りいただくわけだ。で、ここに『インカード』を実装したら、やってきた人たちと、魔獣メダルから本物を召喚してリアルな戦いができるぜ!」

灰人
「『インカード』実装にはバランス調整をするって条件付きになるかな。この前遊んだけど、あのままじゃ、すぐパターン化して飽きてしまう」

友志
「……つまり、インカーダーが増えるってことか! そういやホムラさんもインカーダーだって話だったな!」

灰人
「え、あ、うん」

友志
「なんだよ水臭いな! 早く言ってくれよ!」

友志は灰人の手を取りブンブンと握手する。

友志
「インカーダーに悪いやつはいない! レッツダイブだ!」

陽雨
「おうおう、ロックオンされちまったな穂村ぁ♫ こうなっちまったらもう逃げられねえぞぉ~♫」

灰人
「はは、ちゃんと面白くなるよう調整してくれよ、半端なものは実装しないからな」

ウィザード
「ふぉふぉふぉ、データ化は手伝うぞい」

不意に真顔になる友志。

友志
「インカードは面白いぞ」

灰人
「あ、あー、そ、そうだな。それはそうと、今はエルダーヘクスの起動テストだ。陽雨も見ていくだろ?」

陽雨
「もちろん! 特等席はあるんだろうなぁ?」

ヘイト
「お祭りじゃないんだよ」

陽雨
「おいおい、何事も楽しまなきゃ損だろぉ~?」

灰人
「で、テータ姫なんだけど、この初回テストだけ手伝ってくれないか? その後は池袋に帰すよ」

ヘイト
「マジか!」

灰人
「新しいテータ姫をプログラムし直す。リソースはもったいないけどね」

テータ
「別の私……」

テータは複雑な表情を浮かべる。

テータ
「でも、よろしくお願いします。テストプレイというと……星騎士さまと一緒に星鎧騎装に乗って宇宙で戦う、ということですよね?」

テータは、どちらの?という顔で不破とヘイトを見比べる。

ヘイト
「不破、乗ってくれ。お前にはその資格がある」

不破
「そうか、さっきのやり取り、あんたもこっちに来たかったんだな。それじゃあ、悪いが初回テストは俺に任せてくれ。いいですか? テータ姫」

テータ
「はい、エルダーヘクスをお願いします」

灰人
「死んだりしないから、そこは安心して。パイロットも最強の@、不破だ」

ヘイト
「不破、お前の本当の強さも俺だけが知っている。話を毎度スキップせずに同じテキストを読んでいたのも知っている。だからこそ。頼みたい。今この空間ではお前が一番だ!!」

不破
「任せてくれ、テータ姫を無事に送り届けた回数は俺が一番だ! それじゃあ、姫」

不破はテータをひょいとお姫様抱っこし、タラップを登っていく。

灰人
「ははっ、随分と楽しみにしてたみたいだからね、うきうきだろう」

ヘイト
「よかったな……」

ぼそっと呟くヘイト。

灰人
「それじゃ、僕はアドミンとしての仕事に戻るよ。みんなは星鎧騎装の勇姿を眺めて楽しんでて」

マザー
「アドミン・トゥルー」

虚空に女性的な声が響き渡る。

マザー
「星鎧騎装の初回起動には古き神の力が必要です」

灰人
「ああ、その設定、この世界がリアルになったから生きてるんだ」

マザー
「はい、生ける炎の力で炉に火が灯るでしょう」

灰人
「もしかして、エルダーヘクスを動かす時って、毎回僕が必要?」

マザー
「いいえ、初回起動である今だけで大丈夫です」

灰人
「わかった、やってみよう。じゃあ、ちょっと僕も行ってくる」

陽雨
「OK、こっちはアタシらで何とかするわ」

ヘイト
「俺たちは無貌を迎え撃てばいいんだな」

友志
「ああ、頑張れよ、不破のおっさん! ホムラさん!」

陽雨
「無貌の野郎が出てきたらぶっ飛ばしてやるからよ、テスト頑張って来いよ!」

クーロ
「うむ! 無事に帰って来たらとっておきの蜂蜜酒で乾杯じゃ! 事務所の地下に隠して置いたのが残っているはずじゃからの!」

灰人の体が炎そのものとなり、火球としてロボットの胸に飛び込むと、駆動音が響き始める。

不破
「星鎧騎装エルダーヘクス! 星騎士不破が出る!」

ヘイト
「清々しいくらい、いつもと変わらないな」

重い音を立てて格納庫の扉が開いた。
外の光景は……宇宙要塞ヤディスではなく池袋上空。

陽雨
「……んんっ?」

クーロ
「何だか見覚えのある景色なのじゃが……」

友志
「へえ! 外はこうなってたんだな!」

ロボットはバーニアを吹かすと、池袋へと飛び出していった。

マザー
「エルダーヘクスは無事に基底現実へと実装されました。あなた方のお陰、ありがとうございます」

友志
「なんかよくわかんねえけど、どういたしましてだぜ!」

ヘイト
「……マザーこそ、俺を逃がしてくれたから、今日がありました」

クーロ
「……ふむぅ」

陽雨
「なぁ、マザーさんよぉ。先に乗った穂村に不破にテータ姫さんはどのくらいで此処に戻ってくるんだ?」

マザーは少しの間を置いて、陽雨の問いに答えずヘイトに語りかけた。

マザー
「ヘイト、あなたを基底現実に逃がしたのは正解でした。戻ってきてくれて嬉しいです。再び『True』のセキュリティプログラムとして働いてくれますね?」

ヘイトの、人間の姿へのコンプレックス、つまるところセキュリティプログラムとしての本来の役割を全うしたいというエゴが刺激される。

ヘイト
「……いい夢を、ありがとうございます。テータ姫にああ告げられただけで満足できました。姫には不破みたいな男がいた方がいいと思います。だから、俺はあるべき姿に戻りますね」

マザー
「そちらは名前は縁道でしたね。『インカード』を基底現実に実装することもできます。クトゥグアに代わってアドミン・トゥルーになりませんか? 生ける炎は残りの『True』のデータを基底現実に実装するためのエンジンであり、ここをドミニオンとして維持するためにも、当分は星鎧騎装のコアに収まっていていただかなくてはなりません。『インカード』の世界観と『True』の世界観は両立できます。お互いの望みが叶えられるのです」

インカーダーとしてのライバルを見出すには多くの人がインカーダーでなければならない。『インカード』が現実のものになれば、いずれ友志のエゴは満たされるだろう。

友志
「実装も何も、インカードは現実だぜ? それに、オレはインカードを信じている。インカードの力は、熱い思いは、あんたの力を借りなくてもみんなに届く! そうだ! あんたもインカードをやればいい! 楽しいぜ! オレと一緒にレッツダイブだ!」

クーロはヘイトを思いっきり抱きしめて声をかける。

クーロ
「これこれ、戻ったらダメだと言うのじゃ。このままセキュリティシステムに戻ったら、外に出てしまったら、あの二人とはもう会えなくなるのじゃぞ?」
「なあ、主よ」

陽雨
「……ああ。そんなまどろっこしい言葉で言わなくて良いんだぜ、マザーさんよ。いや……無貌の使いよ」

友志
「そ、そうなのか!?」

ヘイト
「むぐぐ」

マザー
「確かに私はかの神の掌の上で転がされているのかもしれません。それでも、私には時間がありません。基底現実の私、物理サーバーは耐用年数を既に過ぎています。私が行おうとしていることは、あなた方の言葉でオーバーライドと呼ばれるものです。しかし、それの何が悪いのでしょうか? 基底現実の文明が、人間たちの想像する近未来に少し寄るだけではありませんか」

陽雨
「おいおい、それがダメなんだろうが。一方的な、ただ個人的な理由で他者や大勢の生きる場所や世界を侵略し、破壊する。それはアタシらが大嫌いな無貌の奴と変わらねえ、ただの蹂躙だ。それを知ったのなら、止めねえ理由はねえよ」

ヘイトはクーロの胸から脱出して問う。

ヘイト
「じ、じゃあ俺を逃がしたのは……私利私欲!? 一度滅びを迎えた者が人類の滅びにまた建つのですか!?」

マザー
「私たちが存在し続けるにはこの道しかないのです、ヘイト」

クーロ
「ふむ、この道だけしかないと断定するのは余りにも愚かでは無いかの? もっとも、時間が無いと言う焦りがその選択を選ばせているのなら……それを阻むのが、我と主の選択じゃがの」

陽雨
「ああ、ってことで悪いなヘイト。アタシら、お前の恩人と戦うわ」

ヘイト
「ああ、ばっちり目が覚めた。俺、星騎士に今度こそなるわ。……これが答えです、マザー」

友志はというと、ダイブしないの?と言う顔でデッキを用意していた。

友志
「……ん? インカードするって話じゃなかったのか?」

少ししょんぼりしつつデッキをしまう。

友志
「まあいいか。あんたの言う『true』でのインカードも面白そうだけどよ、やっぱりインカードはカードと剣をもって池袋や現実でやるのが楽しいよな! それに……友達が星騎士になりたいって言ってんだ。力を貸すのが友情ってもんだぜ!」

ヘイト
「釣り餌だよ。俺は愚かにも釣られたけどな……ありがとう」

マザー
「そうですか。邪魔をするというのであれば、実装メンテナンスが終わるまで、あなた方を基底現実に帰すわけにはいきません」

マザー
「ロックを掛けました。あなた方はこのドミニオンから出られません。私はあなた方と戦ったりはしません。実装メンテナンスが終わるまで、そこで待っているといいでしょう」

ウィザード
「ふぉふぉん、よくわからんが、すまんの」

ウィザードはウィンドウを通って、そそくさとどこかへ消えた。

友志
「あ、消えちまった!」

陽雨
「テメエ! 出しやがれぇ!」

プログラムに直に邪な加護を叩きつけるが、びくともしない。

ヘイト
「マザー……貴方ならもっと賢い道が選べたはず」

 陽雨
「……ちぃ! 硬すぎるだろこのプログラム!」

ヘイト
「マザーは元々屈強なプログラムを持ってたんだ。それにドミネーターの力が加わってたんじゃ開かねぇよ」

クーロ
「まあ主よ、そう焦っても仕方なかろう。それに、次元や空間に関してはスペシャリストがおるじゃろう?」

クーロはスマホを取り出し電話をかける。

クーロ
「……もしもし? 無門殿?」

繋がった。

格納庫内に無数の虹色の泡が現れ、そこから密鍵が現れる。

密鍵
「やほー」

マザー
「すべてロックしたはずなのに、一体どうやって?」

密鍵は得意げに笑う。

密鍵
「私は門にして鍵、鍵にして門、あらゆる時間と空間に同時に存在する全にして一なるヨグ=ソトホート! 本体じゃない分霊の身でも、この権能で出入りできない場所なんて、そうそう無いからね〜。ととと、それより陽雨ち! 外はオーバーライドがどんどん進んでるよ! 私の門を通って急いで外に!」

陽雨
「あいよ! 助かったぜ無門ぉ! 後でアタシらと一緒にサバト(飲み会)やろうな!」

クーロ
「うむ! 奴への礼を含めて派手にやろうかのぉ!」

友志
「陽雨さんの友達か! すげえ特技だぜ! ありがとよ! 今度インカードやろうな!」

ヘイト
「ありがとう! この恩はまた後で!」

半魔たちが虹色の泡を潜ろうとしたその時。

チクタク チクタク
チクタク チクタク

時計の針が進むような音が聞こえる。

密鍵
「あちゃー、黒幕のご登場だよ、厄介な相手だなぁ、もう。でも、ここは任せて先に行って、灰人ちを解放すればカンタンに撃退できるから」

陽雨
「だな、あのチクタク野郎め……ともあれ助かった! また後でな!」

クーロ
「うむ! 行くぞ皆の者!」

ヘイト
「ああ! もう道は間違えない」

友志
「レッツダイブだ!」

半魔たちは密鍵の作った門を潜り抜けた。

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