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遺し遺され黄昏カデンツァ3

これはビーストバインドトリニティのリプレイ小説です。GM夏風が、あらかじめ提出されたキャラクターシートを元に作ったシナリオのため、再演は無いのでネタバレを気にせずに読んでいただけます。

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稲荷
「久しいのぅアヤや、実戦は」

あやしび
「お任せください、わたくしの炎、お役に立てましょう」

稲荷
「……良かろう!」

稲荷は右手を天に翳しーー

稲荷
「招来! 炎刀、天羽々斬!」

武器を手にする稲荷の横で帳のギアが動き、加速する。
すかさず、手元のハンドガンを抜き、吸血鬼へとビームを浴びせる。


「届くか!?」

吸血鬼B
「ちぃっ、妖怪一体相手の予定だったものを!」

吸血鬼C
「人数が心もとない、退くか?」

稲荷
「カァーカッカッカ!! そうは問屋が卸さぬぞ?」

稲荷が身にまとう赤々とした神炎が吸血鬼の周囲の地面に這い寄る。

稲荷
「黒焦げになるか、撃たれるか 時間の問題であろう?」


「サポートありがとうよ、嬢ちゃん!!」

帳は動きの制限された吸血鬼に向けて、遠慮なく光線銃を連射する。

吸血鬼
「ええい、目的は果たすぞ! 妖怪さえ仕留めればそれでいい!」

吸血鬼の手から呪弾が放たれた。
血の色をしたそれは稲荷へと一直線に向かう。

稲荷
「カッカッカ! 袋のネズミとはこの事! アヤ! 酷使してすまんのぅ!」

稲荷のかざしたその手から神炎がーー

あやしび
「え!? そんなすぐに行ったり来たりできませぬ!」

あやしびは吸血鬼の動きを阻む炎壁となっているため、稲荷の攻撃は不発に終わる。

稲荷
「えー!? 致し方な――」 

刹那
「おいおい、何をやってるんだよこのお嬢ちゃんは」

刹那は自身の影を身体にまとわせ、それを防壁として迫る呪弾をその身体で受けた。

稲荷
「窮鼠猫を嚙む。ヒトの子の歴史とは、かくも奥ゆかしい。感謝するぞ、人の子よ」

刹那
「……ッハ、人の子ねえ。死神にそんな事を言うとは、あんた中々酔狂だな!」

呪弾を受けた刹那はわずかに血を流しながらも、再び吸血鬼と相対する。

吸血鬼B
「ダメだ! 先に、着装者をどうにかするぞ!」

血をまとった爪がライメイギフトに振り下ろされ――


「……吸血鬼って、古くからいるんだよな。じゃあ、最新型のギアがお気に召すか、やってみようか!!」

出力を上げる。
何よりも、速く。
誰よりも、速く、攻撃を避ける。

吸血鬼B
「速い!?」

刹那
「さて、相手もなかなかやるようだし……ちょっと力を使いますかね」

刹那は瞬時に吸血鬼の群れに飛び込み、その手に握る死神の刃を振るう。
それは肉を割く事は無い、だが……その魂を切り裂き、実際に身体が切られたのと同じ痛み、そして死を目前にするという恐怖を与えた。

吸血鬼A
「馬鹿な……!? まさかあの時の死神なのか!?」

吸血鬼たちは永遠に近い命を持つがゆえに、死を目前にして恐怖に打ち震えた。
そこにすかさず稲荷が飛び込む。

稲荷
「カッカッカ! いけるかアヤ!」 

あやしび
「おそばに!」

稲荷さま
「紗絵や! これがお主が信仰する神! とくと見よ!」

稲荷は神炎を刀にまとわせると大上段から振り下ろした。
炎が吸血鬼に襲いかかる。

稲荷
「燃えよ! 炎皇!!」

吸血鬼C
「そんな炎がな――な、なんだこの神聖な気は!?」

稲荷を単なる妖怪だと思っていた吸血鬼は地に倒れる。

吸血鬼A
「貴様……ただの妖怪ではないな? 何者だ?」

稲荷
「稲荷大明神じゃぁ! と、言うところじゃがーーそうじゃな、冥界の手土産とせよ、我が名は! 大妖怪! 不知火じゃぁ!!」

吸血鬼A
「神格だと!? 話が違うぞ!」


「え……ええ!?」

稲荷
「今からでも遅くはないぞ? 我への信仰の証、稲荷ずしを持っておろう! よこせ! 今すぐに!!」

吸血鬼B
「持っているわけあるか!」


「それは……そう」
(大妖怪 不知火って言ったな……しかし、今は目の前だ)

稲荷
「しからば仕方あるまい、天を恨め!」

刹那
「……とりあえずこの戦闘が終わったら寿司屋にでもなんにでも連れて行ってやる。今は目の前に集中しろ!」


(面倒見いいなこの兄ちゃん)

稲荷
「かかれー!!」


「応!!」

帳は銃を構え直し、敵を見据える。


「寝てな! 悪鬼!!」

吸血鬼A
「くっ、この街で我らに逆らって――」

言い切る前に気を失う吸血鬼。
その同胞が、やぶれかぶれとなって稲荷に猛進する。

刹那
「だから、通さねえって言ってんだろ!」

刹那は突撃してくる吸血鬼と稲荷の間に割って入り、その突撃を止め弾き飛ばす。

刹那
「さて、決めてやりな嬢ちゃん!」

稲荷
「あい分かった」

稲荷が、返還と呟き刀を宙に投げると、それはかき消えた。

稲荷
「アヤ! 我が手に集え!」

あやしび
「かしこまり!」

拳へと炎が集う。

稲荷
「カァーカッカッカ! 歯を食いしばれ!!  吸血鬼ぃ! 神炎拳!!」

下から正中線目がけて拳を振り抜いた。
吸血鬼が無様な声をあげて倒れる。

稲荷
「ま、死んではおらんじゃろ」

―――――――――――――――――――

吸血鬼
「貴様ら……! 日影館に、いや、ペルソナネットワークに逆らって、この池袋にいられると思うなよ!」

倒された吸血鬼たちは瀕死の重傷を負いながらも再び立ち上がる。


「お、胆力あるじゃん。でもな、それだとお前たちが返り討ちにあったことも広まっちまうなぁ?」

刹那
「だな、俺たちに物理的に殺されるか、それとも社会的に死ぬのが良いか……好きな方を選んでもらって構わねえ。だが、俺としてはそうだな……ちょいと聞きたい事がある。それをしゃべってくれるなら、俺たちはこの場で出会わなかったって事にできるがどうする?」

稲荷さま
「脅されているのはどちらか、今一度、考えると良いのじゃ。わらわの要求……カッカッカ! いなり寿司、100年分で手を打ってやろう!!」

稲荷はひょっこりと顔を出し、追加要求をする。
それを帳は訝しむような目で見た。
刹那はというと、稲荷にゲンコツをひとつ。

刹那
「話を面倒にするんじゃねえ!」

稲荷
「いで!! 何を!!」


「痛そう」

吸血鬼たちはプライドをずたずたに傷付けられ怒気に顔を染める。

その真っ赤な顔に突如何かが生えた。
頭を貫かれたのだ。
再生力の高い吸血鬼が即死して崩れ落ちる。

よく見ればクロスボウの矢が頭蓋骨を貫いていた。

刹那が、とっさに稲荷を抱えて後ろに跳ぶ。

吸血鬼B
「他にも仲間が!?」

帳が矢の飛んできた先を見ると、路地から人影が飛び出し、手にしたクロスボウで次々と吸血鬼の頭を貫いていく。

それはひとりの少年だった。

礼二
「日影館の吸血鬼は皆殺しだ!」


「……誰だ!? 何も殺すこたぁねぇじゃねぇか!!」

刹那
「礼二……お前は、今何をしているのかわかっているのか! 殺す事で解決する事なんてほぼ無い! ただ悲しみを増やすだけだ! そうさせたくないと俺は願って、お前をここまで育てたんじゃないか!」

礼二
「兄貴! 俺はいつまでも兄貴に守られる子供じゃない! 俺には俺の考えと目的があるんだ!」

礼二が刹那に気を取られた隙を突いて、吸血鬼のひとりがコウモリに化けて逃亡する。

礼二
「逃がすものか!! 兄貴! 邪魔はしないでくれよ!」

少年は懐から小瓶を取り出し地面に叩きつけた。

刹那
「邪魔をするに決まっている!」

特殊な薬品による煙幕で追走を防ぐと、少年はコウモリを追って走り出す。

刹那
「お前は俺の家族なんだから!」

そう叫ぶも、煙幕によって道を阻まれ礼二を見失ってしまう。

刹那
「クソぉ!」


「でかい兄弟喧嘩だな。反抗期?」

稲荷
「ぐあぁあああ!!! この煙! くちゃいぞ!! くちゃい!!!」

バタつく稲荷を尻目に帳が吸血鬼を調べると、いずれも即死している。


「死んじゃってるなー、可哀想に」

クロスボウの矢には神聖な力の残滓が感じられる。
帳は死体の目を閉じさせて回る。

刹那
「礼二は……俺の家族だ。俺が……この手で奪ってしまった存在の息子。その息子を育て上げ、あそこまでデカくなってくれたんだが……こうなるとは、な」


「……それは、辛いわな。でも、半魔の諍いなんて、起こるもんだ。決定的なことが起こる前に止めてやるのも愛情なんじゃねぇか? 兄貴。悔やんでばかりでも変わらないし、調べようぜ」

刹那
「……ああ、そうだな。だが、一つだけ言わせてくれ。……俺は、兄貴なんてガラじゃねえ。自らの手で起こしてしまった過去を引きずり、その結果自らの振るう刃の意味を持てなくなり……死神としては死んだ存在だから、な」

紗絵
「ふぅ、ひとまず、真犯人っぽい人が現れたから、稲荷様の冤罪は晴れたんじゃないでしょうか?」

稲荷
「カッカッカ、殴られたゆえ、こちらもやり返した。今さら冤罪といっても、じゃのう」

あやしび
「それにしても先ほどの少年、ヒトのあの年頃にしては見事な腕、惚れ惚れしますね。あれはもしや……」

稲荷
「人の子の一生は短い。が、あの腕前。何か心当りでもあるのかの?」

あやしび
「確証の持てないことを言うのはあまり……」

稲荷
「それはそうと、奴らにも事情があろう。情報収集じゃ。判断は、聞いてからでも遅くはあるまいて」

稲荷は帳と刹那にツカツカと歩み寄ると、あえて気楽に声をかけた。

稲荷
「やっ! お疲れ様じゃの!」


「アア、ハイ……別に疲れては居ないさ」

刹那
「それより、怪我は無いか?」

稲荷
「カカ、お主が守ってくれたろう? 無傷じゃ。 感謝するぞ、人の子よ」


「不知火ってさー……いや、偶然かも……ううん、さっきはありがとう」

稲荷
「お主も良き動きじゃった。かっこいいの! あの外装は!」


「……うん」
(見極めるのは後として、この子が普通に半魔やってるのは安心したな)

紗絵
「私は紗絵です! 稲荷様の巫女です! 危ない所を助けていただいてありがとうございます!」

刹那
「……久音 刹那、今は一人で勝手に突っ走ってる家族を追いかけている死神さ」

稲荷
「ほれ、アヤ。お主も自己紹介じゃ」

あやしび
「ああ、オホン。わたくしは妖し火。稲荷殿の影にして闇夜を優しく照らす者」


「れ、雷音帳。レオンでもトバリでもいいよ」

稲荷
「して、アヤ。さっきの懸念はなんじゃ? 我々が出会ったのも偶然ではない。共に行動する身として知っておいた方が良い情報は、ひとつでも多い方が良いと思うのじゃが?」

あやしび
「むぅ、では憶測を述べますよ? あくまで憶測ですからね? 吸血鬼を一撃で仕留めたあの手際、神の加護を受けているとすれば説明がつく……と思うのです。稲荷殿とわたくしとで打ち倒した、あの邪神、ホノイクサビメめの」

帳「それ、憶測で済まないかもしれない」

あやしび
「やや?」

稲荷
「……ぬ、まことか、トバリや?」


「その神様かは、わからないけど、俺はそいつをどうにかしろっていう任務を受けてるんだよ」

帳は事情を説明した。

刹那
「……なるほど」


「ええと、狐ちゃん。それに相対する大妖怪って、君だよね……?」

稲荷
「邪神に対する、ということであれば、そうじゃな」

稲荷は苦い顔をした。

稲荷
「それにしても、加護を、受けている……か」

稲荷は腕組んで考え込む。


「なんでセツナの弟なんだ?」

刹那
「……それは、解らない。だが、礼二は親の仇を討つと行って家を飛び出した。日影館の吸血鬼を皆殺しにすると宣言して、な。……その時に濃密な死の匂い……それも吸血鬼の血の匂いさせていた」

刹那
「……だが、謎も多い。あいつの親である吸血鬼……正確には礼二を血袋に仕立て上げ、自身の餌にしようとしていた吸血鬼は俺が殺した。その事は礼二には知らせてはいないんだが……」


「……可能性があるとしたら、葵さんの話だと、色はわからないけど邪神は羽根を持ってるらしい」

刹那
「……なんだと?」


「遠隔的に操られてる可能性は、あるかもしれない」

稲荷さま
「……奴なら、まぁ、やりかねんな」

刹那
「……それで礼二が操られているとしたら、俺は、そいつを許せない」

刹那は、ぎしりと拳に力を込める。

互いの情報を突き合わせたことで、何が起こっているのか、おぼろげながら見えてきた。

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