遺し遺され黄昏カデンツァ4
これはビーストバインドトリニティのリプレイ小説です。GM夏風が、あらかじめ提出されたキャラクターシートを元に作ったシナリオのため、再演は無いのでネタバレを気にせずに読んでいただけます。
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3人の半魔は【火之伊久佐比売】【目時 礼二】【日影館家】について調査した。
【火之伊久佐比売】
戦国時代に建立された與須賀神社(よすがじんじゃ)の祭神。必勝祈願と芸能の神社として知られており、現代でもアスリートや受験生、芸能人からの人気が高い。夜の住人たちからすれば、この神社は神格のいなくなった空き家でしかなく、ご利益など期待できないという。
火戦姫は戦場で歌い踊り、士気を高める勝利の女神だったという。古い神ではなく、戦国時代に人々の想念が集まり生まれた経緯を持つ。純粋な神格ではなくレジェンドに近い魔物ではないかと推測する者もいる。
ネイバーの長老たちは明確にこの神を嫌悪する。人間たちの争いを煽り、人ならざる者の住む山や森の開拓に駆り立てたためだ。人の文明の発展に貢献したと言えるが、夜の側にしてみれば迷惑な話だ。また、人間たちにとっても、見方を変えれば戦乱を長引かせるという悪影響をもたらしている。
稲荷
「……ふむ、アヤよ。彼奴の生まれは戦国時代、じゃったな」
あやしび
「はい、勝利を望む人の子らの祈りから生まれた存在ですゆえ」
稲荷さま
「人の子は分かりやすく力を求めてしまったからの……はぁ。彼奴は、人の子のみに肩入れをする。山の民と人の子の間に立たされるわらわの身にもなってほしいものじゃ」
【目時 礼二】
12年前に死神、久遠 刹那に死を与えられた日影館の吸血鬼、目時 健三の一人息子。16歳。純血の人間であるが、何かをきっかけにして戦いの才能が開花したと思われる。そのセンスは人間離れしており、独学で修得したクロスボウの技によって吸血鬼を即死させることすら可能。魔狩人の類いだろう。
礼二はアダージョこと稲葉 葵と知り合いである。夕方、ひとり戦闘訓練をしていた礼二に興味を持った葵が声を掛けたのが出会いらしい。これは浮遊霊の証言だ。礼二が恋心を抱いていることは傍目にも明らかだという。
夜の世界に憧れ、純粋に強くなりたいと願う礼二に葵は様々な助言をしたらしい。夜の側の、刹那が敢えて教えなかったことを知るにつれ、礼二は自分の両親が事故で死んだという話を疑い始めた。事件の詳細については葵に頼み込み、調べてもらったようだ。
刹那は調査を行おうと自身の影を使い魔として飛ばそうとするが、先程の精神的ショックが大きいのか、いまいち調子が悪い。
稲荷は笑いながら刹那の隣に座り、自分の影に手を入れた。
引き抜いた手にはいなり寿司があった。
稲荷さま
「守ってくれた礼じゃ、人の子よ」
刹那
「どこに仕込んでいるんだお前さんは……」
稲荷
「ここに来て集めた信仰心の結晶じゃ。食べるのじゃ。飛ぶぞ!」
刹那
「んなもん食うにはヤバ過ぎるわ!」
そう言いながら、刹那は受け取ったいなり寿司をすぐさま稲荷の口に詰め込む。
稲荷さま
「うまー!」
刹那
「まったく、なんでこっちでも面倒を見なきゃいけねえんだよ……」
ぶつくさ言ってはいるが、調子が戻り、改めて影で使い魔を作り、情報を集め始めた。
【日影館家】
12年前、日影館家の内部で諍いがあったらしい。陰湿な吸血鬼同士の争いはエスカレートしていき、遂には死者まで出たという。死んだ吸血鬼の名は目時 健三。吸血鬼たちはこの件について口をつぐんでいるため、他の夜の住人からは仲間内で内々に処理したのだろうと思われている。
日影館の内輪揉めは目時 健三が死神に殺害されたことで収束に向かった。死神に目を付けられるような、はしたない争いをしていたのだと冷静になったためだ。しかし、なぜ死神に介入されたのか、なぜ争いの中心にいた者ではなく、まだ洗礼を受けて間もない若い吸血鬼が標的になったのか、彼らには死神の意図が皆目見当もついていないようだ。
帳はスマホを駆使して、知り合いの電脳魔術師にアクセス、情報を表示させる。死神という単語に刹那を見て、もしや、と思うが口を噤んだ。
刹那はその視線には、何も答えない。
だが、まとう空気は目に見えて重くなった。
稲荷はというと、表示されたホログラムに目を輝かせる。
稲荷
「なんじゃこれはー! これが現世! なんじゃー!」
帳
「電脳魔術師の情報提供サービスだよ。現代はすごいだろ」
稲荷
「ははーん……凄く美味しいいなり寿司屋を検索すれば、あるいは……」
刹那
「とりあえず、こっちも情報を集めてきた。礼二はアダージョ……稲葉 葵って奴に接触され、そこから俺が隠していた事を知ったらしい。で、それ以外にも色々と夜について教えてもらったようでな……魔狩人としてはそれなりに戦える様になっている」
刹那
「で、これが厄介なんだが、礼二の奴、そのアダージョってのに惚れているらしい……」
そう言って頭を抱えた。
今起きている吸血鬼殺害事件は礼二の仕業で間違いないが、妖怪不知火の濡衣の原因がわからない。
礼二と葵が知り合いだという点、彼女が巫女だというホノイクサビメ、更にはこのタイミングで現れた紗絵。
この辺りが新たに気になるだろう。
3人は続いて【稲葉 葵】【紗絵】【火戦姫の正体】について調査した。
【稲葉 葵】
人間と夢蝕みの混血の女性。27歳、製薬会社勤務。人間の父は與須賀神社の神職であり、妻が魔物だと知らずにいるアンノウンマン。夢蝕みの母は資産家の娘で、夫を深く愛している。昼と夜の狭間に立たされながらも両親が夫婦円満なため屈折せずに育った。弟がいた。
葵の弟、稲葉 和明は6年前に事故死している。実際には日影館の吸血鬼に襲われての死亡であり、葵は吸血鬼を激しく憎んでいる。礼二に対して恋愛感情は無いが、弟を思い出させる愛おしい存在だと思っているようだ。礼二に両親の仇は日影館の吸血鬼だと教えたことについては、日影館憎しのバイアスこそ掛かっていたものの嘘をついたわけではない。12年前の内輪揉めのことを彼女なりに調べ、伝えた結果だ。
日影館の吸血鬼たちに同族殺害の犯人が大妖怪 不知火だと伝えたのは彼女だ。礼二を守りたい気持ちと不知火を討つ使命にとって一石二鳥の策だった。なお、葵は巫女としての素養が非常に高い。火戦姫が神格として本当に復活したのであれば、その声を聞くことができても不思議はないだろう。依代にもなり得るため注意が必要だ。
【紗絵】
古い時代の無名な巫女のため情報を得ることが困難だった。遠く離れた地との連絡を得意とする情報屋に当たったところ、五木村の墓地に五木 紗絵の名前が残っているそうだ。つまり、素性に偽りは無いだろう。
紗絵が幽霊として彷徨っていたのは自分の代で五木稲荷の神職の血が絶えた無念のため。とはいえ、大したエゴは持っていなかったので、長らく一般浮遊霊だった。どうやら稲荷が目覚めたことに引っ張られて、スピリットの魔物として覚醒したようだ。
現在の稲荷は神格こそ残しているが、本質は妖怪である。ただし、本来の神性は消失したわけではない。稲荷が白い羽根によって目覚める際、その大部分が絆で繫がる紗絵に流入したのだ。つまり現在の紗絵は稲荷の分霊のようなもので、強い神性を有している。ルーツは神格/幽霊だ。稲荷にとっては馴染み過ぎた気配のため気付けなかった。死神の刹那はふたりが一緒にいるところしか見ていないため、はっきりと区別できていなかった。着装者の帳にその辺りの機微は分からない。
【火戦姫の正体】
火戦姫は当時非常に稀であった都市伝説の魔物が神格を得た存在である。出雲阿国との関連は不明だが、かぶき踊りのような舞を披露しながら各地の軍を鼓舞していたという。
数奇な運命を経て宿敵となった火戦姫と不知火は、現代において守護者の羽根の力で甦った。不知火は白い羽根により稲荷、あやしび、紗絵の三者の絆の力で復活した。火戦姫は黒い羽根によって、闘争を応援したいというエゴが暴走した状態で復活しかけている。まだ復活は不完全だが、それでも礼二に恩寵を授け、彼をイレギュラーとして覚醒させると共にエゴを暴走させている。なお、復活に際しては葵を依代にするだろう。
帳
「葵さん……」
帳は葵について調べた内容を苦しげに共有した。
刹那
「……そう、か。こちらは火戦姫の件について探ったが……どうやら面倒な事になっている。黒い羽根が関わっているな」
帳
「殺す、しか、ねぇのかよ……」
刹那
「……悪いが、その時になったら俺は手を緩めんぞ。俺の息子に力を与え、人のまま夜の世界に導きやがった。それだけは、絶対に許せん」
帳「……エゴって悲しいな。……いなりんはなんかわかったの?」
稲荷
「濡れ衣なのじゃ~!! わらわは良き神ぞ! わかったといえば、そうじゃの。紗絵の事じゃ。まじまじとその力の根源を辿ってみたのじゃが」
稲荷は紗絵と神性を共有していることを伝えた。
刹那
「……なるほど、そう言われてみれば違和感があるな」
帳
「神格って、よくわかんねぇよなぁ……」
刹那
「こうして出会えたのも何かの縁だ……大事にしてやれよ?」
稲荷
「うむ、信仰を力となすわらわには、無下にする選択はない」
稲荷
「して、ひとつ確認しておこう。わらわと火戦姫の関係についてじゃ」
稲荷
「わらわ、稲荷大明神の身体であった時、人の子の安寧を願っていた。しかし、人の子の生の輪に入りすぎると良くないことが起きる。神としての立場ゆえ、片方に入れ込むと必ず嫉妬が起きるのじゃ。上手いことバランスを取っていたのじゃが……人の子は、手っ取り早く富を求め、相対する敵を征服する事を望んだ」
稲荷
「結果、わらわの手が及ばず、人の子は邪神を呼び起こし、力を手にし、世は大荒れになった。わらわは自身の力だけでは足りず、アヤを取り込み大妖怪不知火となり邪神である彼奴を打倒し……いや、相討ちとなったわけじゃ」
稲荷
「わらわを大妖怪と評するのか神と評するのか。それは立場によって異なる。信じるか信じないか。それはそなたに任せるほか無い」
帳
「……そうだなぁ、さすがに、直情では出せない問題だわな。でも、礼二くんも葵さんも、苦しんでる。それだとな、この理論は抜けられるんだ」
帳
「火戦姫を倒す協力をしてくれるか? 結論はその時に出る。大妖怪だとしても、殺していいわけないからな」
稲荷
「もちろんじゃ。大妖怪ってのはかっこいいから名乗っておるだけじゃ。その実、神である事をゆめゆめ忘れるでないぞ! 考えるまでもなかろう」
帳
「そ、そうか……機械でできてるとその辺疎くてな……」
刹那
「……おいおい、ふたりだけで何、勝手に盛り上がってやがる。俺を置いていくんじゃねえよ」
あやしび
「わたくしもおりますよ」
紗絵
「よくわかりませんが、私もお力になります!」
稲荷
「よきにはからえ! カーッカッカッカ!」
刹那
「俺も息子を面倒な目に遭わせられているんだ。取り戻して一発怒らなきゃならねえ……そのためにも協力させろ」
帳
「刹那も、礼二くんを取り戻さなきゃいけないもんな。俺も葵さんこのままじゃやばいって思うよ。目的は合致したな!」
刹那
「……帳、ひとつだけ言っておく。先程調べた情報の中に、火戦姫の寄り代足りえん存在に付いてもあった。それは……葵だ」
帳
「そっか……いよいよ腹をくくるしかないってことかよ」
刹那
「……ああ。だからこそ、死神である俺がお前に問おう。お前のその手は、なんのために存在する?」
これまで数多の生命を奪い、その果てに何も奪えなくなった哀れな死神の意地悪な問いかけ。
帳
「……人を護る、あったかい手。それが俺の憧れだった。でもその果てに俺が得たのは、冷たい機械の手と長くない命と怪物性だった」
帳
「でもそれって……人を助けるのに、あんまり関係なくて、人の命を奪わなくちゃいけない時もあったけど、確かに俺は満たされていたんだよ。だから、せっちゃん、いなりん。行こうぜ!!」
刹那 : 「……ああ、行こう。それぞれの願いを、そして……日常に戻るために」
刹那
「……だが、その前に一つだけ言わせろ。お前の手は確かに機械のように冷たい、だが……その魂は、この場に居る誰よりも暖かいだろうが」
笑みを見せる刹那に帳は照れる。
人の子を見守る立場で一歩引いて見ていた稲荷もニッコリと微笑んだ。
紗絵
「ところで、どうします? その葵さんって人を探します? 礼二さんを探します?」
稲荷
「火戦姫に再びこの世に顕現されては困る。依り代になりうるというのであれば、わらわはその葵という娘っ子が急所じゃと思うぞ?」
帳
「俺も葵さんは探したいけど、せっちゃんはいいの?」
刹那
「ああ、構わねえ。ここまで調べが付いたということは……向こうの計画もかなり進んでいる可能性が高い、なら全員一ヶ所に固まっているかもしれねえ。下手に別れて探すより一塊になって動いた方が良いだろう」
紗絵
「人探しでしたら、私が稲荷様のお宅を探す時に道を聞いた方が向こうの墓地にいますよ」
帳
「なら、改めて、行こうぜッ!!」
刹那
「応!」
稲荷もこくりと頷いた。