星鎧騎装エルダーヘクス7
これはビーストバインドトリニティのリプレイ小説です。GM夏風が、あらかじめ提出されたキャラクターシートを元に作ったシナリオのため、再演は無いのでネタバレを気にせずに読んでいただけます。
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半魔たちはバイアクヘーに送られ池袋に降り立った。
虚構に侵蝕されていた世界がもとに戻っていく。
星空は夕空へ。
陥没した地面に倒れる巨大ロボットは光の粒子となって消滅していく。
その光の中にはテータが立っていた。
彼女が消える様子は無い。
不破は倒れ気を失ってているが、生きているように見える。
テータが振り返ってヘイトに語り掛ける。
テータ
「ヘイトさま……お見事、でした」
ヘイト
「ほら、負けても貴方は揺らがない。好きに生きていいんですよ」
テータ
「はい、今の私には、自分がどう生きるか、私自身が決めることができます。もちろん、マザーの元に帰って、あの世界と共に消えることも自由です」
ヘイト
「でも、それを貴方はしないでしょう? いや、しない方がいいです。なかなか面白いことであふれてますよ。ヤディスの外は」
テータ
「そうですね、私の前にはまだ見ぬ広大な世界が広がっています。ヘイトさまは戦う前にこう言ってくれましたね、オーバーライドをしても、私を閉じ込める檻が広がるだけだと。今の私は囚われの姫ではありません。なんにでもなれる……そうでしょう?」
ヘイト
「はい、どんな生き方をしても、何を求めても、どこへ行っても貴方は咎められることはない。貴方の生誕を祝福しますよ」
テータはくすっと笑う。
テータ
「あなたもですよ、ヘイト・トゥルー。ヘイトさま、あなたももう、あの世界に囚われる必要はないんです。私たちは自由です。……ごめんなさい、踏み入ったことを言って。でも、戦う前と今のあなたでは、何かが違う気がして」
ヘイト
「そうですね、ちょっとだけ、星騎士として生きた者たちの気持ちがわかった気がします。俺たちは自由だ。でも俺は、俺の意志で、テータ姫が決めたことを手伝いたいです。これはヘイト個人の願いです」
テータ
「……いいんですか? 私はただのテータ。生まれたての、右も左もわからない……洗濯機を泡だらけにするのが得意なただのテータですよ」
ヘイト
「知ってます? この世界には大切な人も姫って呼ぶんですよ。洗濯機も慣れればできますから。一緒に来てください、姫」
ヘイトは手を差し出す。
はにかんだ笑みを浮かべるテータ。
テータ
「はい、私の騎士さま」
テータは差し出された手を取った。
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テータとヘイトが去ると、友志は倒れる不破に近寄った。
ヘイトたちの会話を邪魔すまいと気絶したフリを続けていた不破が目を開く。
不破
「今度こそ、本当にサ終だな。でも、いい夢見れたさ」
友志
「不破のおっさん、起きてたんだな! まだまだ終わらないさ。星騎士の物語も、インカードも、オレたちの友情が続く限り終わらない。つまり永遠ってことだぜ!」
不破
「縁道くん、キミに確認したいことがある」
友志
「なんだぜ?」
不破
「『激熱突信インカード』、キミにとって、この“名前”は重要かい?」
友志
「ん? どういうことだぜ?」
不破
「質問の仕方を変えようか。俺と、新作ホビーゲームを作らないか? 別の名前の似たゲームだ」
友志
「それは……面白そうだな! でもやっぱりインカードも大事なんだぜ!」
友志は頭を抱える。
不破が倒れていた体を起こし、立ち上がった。
不破
「社畜続けて使う暇のなかった金が、投資で増えた分も含めて、小さな会社作れるぐらいはあるんだ。商標を買い取るってなると、予算が厳しいから相当遠回りにはなってしまう。それに、復活させたところで売れなくてすぐ倒産って可能性は高い。世に出すなら、製造会社に発注しないといけないし、宣伝広告の費用も馬鹿にならない。銀行に融資を頼むには、売れるっていうことを納得させる事業計画書が必要だ。なにもかも、やったことのない未知の世界だ」
友志
「ショウヒョウヲカイトル……」
不破の言葉をオウム返しして咀嚼する。
友志
「……いいさ! 逆境だって、困難だって、乗り越えて見せる! ユウシとかいうのも情熱と友情さえあればきっと何とかなる。そっちの方が燃えるだろ! 不破のおっさん!」
不破
「はははっ、確かにな! ハードモードスタートにびびってたが……ヘルモードで始めたっていいか。今回、世界を書き換えてやろうって大それたことに挑戦してみて改めて思い出したぜ。ゲームをクリアするには、まずスタートしないといけないってことをな!」
不破は友志に手を差し出す。
不破
「やってみようぜ」
友志は、がっしとその手を掴むんだ。
友志
「ああ! やってやろうぜ不破のおっさん!」
瞳に希望の炎を灯し、高らかに応える。
不破
「よーし、まずは今の会社に辞表叩きつけてくるか! しばらく無断欠勤してたし、さくっと辞められるだろ! んで、夜の側って呼ぶんだったか、そっちの知識をもうちょっと得た方がいいな。あのナイスバディの姉ちゃんたちに話を聞いてみるか」
友志
「陽雨サンたちはいい人たちだぜ! そうだ、ヘイト・トゥルーたちにも声を掛けようぜ! きっと力になってくれるさ!」
空気を読まずテータたちを追って走り出す。
不破
「お、いいな、会社作るなら従業員が必要だし、姫さんも勧誘するか! ソロゲー専だったが、これからはマルチプレイでいくぜ! よろしく頼んだぜ相棒!」
友志
「ああ、よろしくだぜ相棒!」
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陽雨は少し離れた場所に落下した灰人の元へと急ぐ。
生ける炎クトゥグアの周囲は火災で騒然としていた。
辺りには消火活動に尽力する消防隊と、死霊課の刑事たち。
火蜥蜴刑事
「おう、御山羊、お疲れさん。ありがとうな、地球を救ってくれて」
陽雨
「いんや、それよりもわりぃな身内が面倒をかけちまってよぉ……」
クーロ
「うむ、同じ邪神の連れとしてすまぬの」
見れば灰人は倒れているが炎に包まれている。
それを死霊課の刑事たちが囲み、アンノウンマンに見られないよう対処しているところだ。
火蜥蜴刑事
「こりゃあ完全に封印解けてるっぽいな、クトゥグア。宇宙のどっかにお帰り願いたいとこだが……」
陽雨
「いんや、そんな事をしたらまた遊べなくなるだろうがよ!」
クーロ
「それに友を封印する事などさせぬ! 主よ!」
陽雨
「おう! 本人には悪いが力だけ再封印させて貰うぞ!」
陽雨は残っている魔力を使って炎ごと灰人を包み込む様に魔法陣を引き、封印術を施す。
火蜥蜴刑事
「まぁ……それはそれで構わないんだが、お前とヨグ=ソトホートもハスター見習って帰ったらどうだ」
陽雨
「絶対にNOぉ!」
クーロ
「この魔都、池袋がどれだけの娯楽に満ちているのかわからぬというのかぁ!」
そこへ虹色の泡が現れ、密鍵が飛び出してくる。
密鍵
「いやあ、いい機会なんだからさー、みんなで無貌のとっちめようよ」
陽雨
「その考えはナイスだ! アタシらで無貌ぶっ倒しチームでも作ってやるか! イイ暇潰しにもなるしな!」
火蜥蜴刑事
「邪神同士の抗争なら宇宙でやってくれって言ってんだろ。ただでさえ地球は守護者の問題でひぃひぃ言ってんだ」
そんな会話の中、うるさそうに灰人が目を覚まし体を起こす。
灰人
「いいよ、ほっとけよあんなヤツ。それこそ、大規模な戦いでも始めたら、一番喜ぶのアイツなんじゃないのか」
陽雨
「……あー」
クーロ
「それもそうじゃのぅ……」
陽雨
「……よっし、この話は終了! 早いところ後始末をして帰ってサバト(慰労会)でもやろうぜー」
密鍵
「いいね、みんなでパーッとやろ、私もさすがに疲れたよ」
火蜥蜴刑事
「お前ら、やるならあそこの事務所じゃなく、もっとセキュリティの効いた場所でやりやがれ!」
陽雨
「えー」
クーロ
「いやじゃ、そっちに金を回したら飲み食いする物に回る金が減るのじゃ!」
陽雨
「それによそでやって事故が起きた方がもっと面倒になるだろー?」
火蜥蜴刑事
「チッ、おい! 邪神の集会があるぞ! 警戒態勢!」
火蜥蜴は他の死霊課刑事たちに声を掛けに走り出す。
灰人
「あー、とりあえず、お咎めは後日かな? さっさとこっから消えようか」
陽雨
「だな、とっととズラかろうか!」
クーロ
「ふむ……せっかくだ、無門殿よ、あの4人もサバト(飲み会)に誘おうかの? 愉しい事は多くの者で共有した方が愉しいであろう?」
密鍵
「いいねクロち、任されたー!」
いい雰囲気で歩き出したヘイトとテータ、それを追っていた友志と不破。
みんな虹色の泡の幻影を見るや否や、サバトの会場へと連行されていたのだった。
陽雨
「ヒャッハー! サバト(酒宴)の開幕じゃー!」
クーロ
「杯を持てぇい! 友と飲む最高の美酒を飲むためのなぁ!」
邪神たちは揃って触手を伸ばし、瞬く間に事務所のあらゆる所に仕込んで置いた酒やジュース、グラスにつまみやお菓子をテーブルの上に準備していった。
友志
「……ん? どこだここ? ……って、ヘイト・トゥルーにテータに陽雨サン、クーロさんもいるじゃないか!」
友志
「そっちはホムラサンと……さっきちらっと会った奴だな! オレは縁道 友志! インカーダーだ!」
奇縁と言うべきか、半魔たちの道は交差した。
一度矛を交えた間柄だからこそ、腹を割って話すことができる。
まさに、無数の名勝負の果てに目指すは一流のインカーダー!
覚悟はいいな!? レッツダイブ!!
ビーストバインドトリニティ
『星鎧騎装エルダーヘクス』
終幕
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キャラクターシートを出してもらってからシナリオを書く第3弾にしてBBT3回目のGMのセッションリプレイでした。
相変わらずルール処理部分を省いているので戦闘シーンが少し描写不足ですが、お楽しみいただけたでしょうか。
第4弾を企画中ですが、ひとまず今あるログはここまでです。
またリプレイ公開するはずなので、よろしくお願いいたします。