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遺し遺され黄昏カデンツァ6

これはビーストバインドトリニティのリプレイ小説です。GM夏風が、あらかじめ提出されたキャラクターシートを元に作ったシナリオのため、再演は無いのでネタバレを気にせずに読んでいただけます。

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紗絵
「ダメです! こんな結末、私は嫌です!」

紗絵の体が輝きだす。

紗絵
「みんなが笑顔でいてほしい!」

あやしび
「こ、こら幽霊! お前の脆弱なエゴで稲荷殿の力を使っては無事では済まぬ!!」

紗絵
「それでも! 私は! 救いたい!」

帳は葵の死体の前で呆然と立ち尽くしている。
刹那は死神としての力を使い尽くし、脆弱な人の体となった。
唇を噛み、血を流す。


「なにも……できなかった。なにも、変わらなかった。俺は……」

稲荷
(人の子の出会いと別れ。愛してやまない摂理)
「……紗絵や」

紗絵
「なんですか!? 止めても私は止まりませんからね!」

稲荷
「カッカッカ……生死を操ることは可能じゃ。だがそれは不可侵の領域。お主自身の存在が消し飛ぶ。永遠に。それだけでは済まないかもしれない。それでも、紗絵。お主はやるというんじゃな」

紗絵
「もちろんです!」

輝く紗絵の体から一枚の白い羽根が浮き上がる。

稲荷
(人の子はこうでなくては)

稲荷
「その願い、このわらわが聞き届けた。構わんな? アヤ」

あやしび
「稲荷殿……こんな人の子のことなど……」

反対意見を言おうとするが、その言葉は後半が小さくなり消える。

稲荷
「カッカッカ!! 人の子なくては!! 我にあらず!」

紗絵の中の神性が内なる輝きを増す。
おそらく、紗絵が自分だけの意思で力を行使していれば消し飛んでいただろう。
あるいは、宙に浮く羽根が力を貸したかもしれない。
だが、今この時、人の願いに神が応えた。

奇跡は起きる。
白い羽根はそれを見届け地面に落ちる。


「ん……」

礼二
「葵さん……?」


「葵!!」

帳がそっと、葵を抱き起こす。

奪うことでしか生きられない存在だった刹那は目の前で起きた奇跡に目を見開いて驚いた。


「ライメイギフト様……私はどうして……?」


「帳でいいですよ。奇跡が起きたんだ。俺じゃ、できない、奇跡が」

呆然と見つめていた礼二は、意を決した表情で刹那に向き直る。

礼二
「兄貴、父さんを殺したアンタを俺は殺さなくちゃいけない。葵さんの分はおまけしてやる」

そう言って、なおもクロスボウを構える礼二。

礼二
「手加減はいらない、死神の力、見せてみろよ」

刹那
「……見せられたら、良かったんだけどな」

手にした死神の刃が、まるで塵の様に風に吹かれ消えていく。

刹那
「……あの神を殺すために、この体に残っていた力のほとんどを使っちまった。今の俺は……ほんの少しだけ頑丈な人間に過ぎない」

刹那
「……さあ、礼二。復讐を果たす時だ」

そう言って、刹那は目を閉じた。

礼二
「ほんの少しだけ頑丈な人間……?」

礼二の視線が泳ぐ。

礼二
「俺が……俺が望んだ力は魔物を殺す力だ。父さんの仇を、魔物を殺す力。この殺戮衝動は……ただの人間には向けられない」

刹那
「……なら、その力はどうするつもりだ? ただの人間になった者同士……今なら、その問題に答えられるはずだ!」

礼二
「俺は……もう、魔物を殺すのはやめられない。俺は、そういう存在になっちまったんだ。そういう意味では兄貴と逆で、俺はもう人間じゃないんだ」

刹那
「……だが、人間で在ろうとする事はできる。たとえ姿形がバケモノであろうとも、たとえその心がニンゲンではなくなろうとも……誰かと共に生きる事はできるはずだ」

刹那は礼二の手を取った。

礼二
「そっか……兄貴は、死神なのに人間の俺を育てて、人間として生きてきたんだもんな。魔物と人間がどう共に生きるのか……改めて教えてくれ」

手を強く握る。

刹那
「ああ、俺に出来る事であるならなんでもだ。そして、お前に隠してた事を……全部、話す。今更かもしれないが、な」

そんな家族の会話の裏で、稲荷は狐の姿に変貌していた。

紗絵
「稲荷様……そのお姿は……もしかして、力を使い果たしてしまったのですか……?」

稲荷
「カァーッ! もしかしても何も、それしかあるまい? また徳の積みなおしじゃ」


「狐に戻ったってことは……半魔としての、死……? なら俺がなんとかできるかもしれない」

帳の引き出した奈落の力が、稲荷の体に世界を取り巻く人々の想いを集める。
神としての力が戻っていく。

稲荷
「お? ん?? むむむ!!」

稲荷
「わらわ! 復活! 一度ある事は二度ある! 二度ある事はぁ! 三度あったということじゃああ!!」

紗絵
「稲荷様、よかった……」

あやしび
「あやうく、また眠るところでしたよ……」

稲荷
「カッカッカ! 帳や!! 我がもとに来い! 永続舎弟にしてやろう!!」

高らかに笑った。


「……問いの答えは、今更要らないよな。ありがとう。いなりん」

稲荷
「是非もなし!」


「そ、それと……葵、ごめん……」


「どうして謝るんですか……? ライメイ――帳さん」


「なにもできなかったし、傷つけたから。手は、きっと他にもあったはずなのに。仲間たちがいなきゃ、みんな失ってた」


「火戦姫に操られている間に見えたんです。戦いの中で共に励まし合い、信じあう仲間たちの姿を。仲間との絆を育むのも、あなたの力なのではないでしょうか」


「……うん。うん、ありがとう……」


「……稲荷様、ご迷惑をかけた身で厚かましいとは思いますが、ひとつ、よろしいでしょうか」

稲荷
「なんじゃ? 人の子よ」


「火戦姫は、あなた様にとっては邪神だったかもしれません。ですが、本来は人の望みを繋ぎ、一歩を踏み出す勇気を与えてくれる、女神様なんです。滅んでしまった今は……どうか認めて差し上げてください」


「願われたから、産まれたんだもんな。今の世に合わなかっただけで……」

稲荷
「神とは人の子が生み出した存在。この尋常ならざる力は本来、人の子であるお主たちに起因する。で、あればじゃ。巫女、稲葉 葵や。お主が 火戦姫がそのような神であると願い続ければ良かろう。存在を認めるかどうかは わらわの領分ではない」


「機械の体の俺にも是非はわからないや」


「そうですか……」


「でも俺は葵さんの在り方を肯定してる。信じてれば、いいんじゃないかな」


「重ね重ねありがとうございます。依頼は達成ですね。二柱の神の戦いで人の世が乱れるのを防いでくれたのですから」


「おう……はい!」

一瞬ためらった後、帳は笑った。

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誰かの救いでありたかった。
みんなの笑顔が見たかった。
もう涙を見るのは嫌だった。

ビーストバインドトリニティ
『遺し遺され黄昏カデンツァ』
終幕

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あとがき

BBTプレイ経験3回でGMをしたくなり、自分がシナリオをすべて把握していて遊びやすいように最初は自作のシナリオでセッションを行おうと考えました。

BBTに慣れたレイヴンさんと飴子さんがいれば大丈夫だろうと見切り発車気味に準備を始め、3枚のキャラクターシートを前にわくわくしながら物語を組み立てました。

もちろんPLの御三方の活躍により多くの軌道修正はありましたが、楽しいセッションとなりました。

続編を作るつもりで刹那の記憶に忘却が掛かっている設定などを伏線として残しましたが、それよりも新しい物語を遊ぼうという気になって、ここでおしまいです。

なお、刹那はリビルドして死神からハーミットになりました。また、稲荷の舎弟となった帳は神力によって寿命が伸びました。もしかすると、気が向いた時に物語の続きが始まるかもしれません。

最後に、このリプレイはログを読みやすくするために小説形式としてデータ上のやり取りを省いています。それでいて、なるべく加筆修正をしたくなかったので、ところどころ描写の足りない部分がある小説としては半端なものです。どこでどんなアーツが使われていたのか、想像しながら読んでいただくのもいいかもしれません。

BBTのプレイ経験が少なかったので、今思うと気になる箇所もありますが、過去の軌跡としてそのまま公開します。

ちなみに、タイトルの『遺し遺され黄昏カデンツァ』は語呂とイメージでシナリオができる前に決めたので、ほとんど意味はありません。私はわりと、そういうタイトルの付け方をします。

というよしなしごとを書いたところで、二作目の『傀儡人形相克エレジー』のリプレイもお楽しみに!と言って〆ます。

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