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傀儡人形相克エレジー4

これはビーストバインドトリニティのリプレイ小説です。GM夏風が、あらかじめ提出されたキャラクターシートを元に作ったシナリオのため、再演は無いのでネタバレを気にせずに読んでいただけます。

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半魔たちは【モルティスシリーズ】【ペトルーシュカ】【2年前の事故】について調べを進めた。

【ペトルーシュカ】
#インターネットから情報を取得
経ヶ辻蘭(14)。
2年前のデパート崩落事故によって両親が死亡。
平凡な少女だったが、事故の2ヶ月後から多くの論文を発表し、天才少女として一躍注目を集めるようになった。
彼女の発表した生物学、化学、物理学、電子工学の論文は革新的なもので、科学の発展に大きく寄与している。

#ブルカ社へのハッキングにより情報を取得
“ペトルーシュカ”経ヶ辻蘭はここ2年弱の間にブルカ社やメルキセデク社と提携し、自動人形やサイボーグの開発に寄与してきた。
このことから必然的に夜の世界を知ることになり魔物の存在も受け入れている。
叔父の貴文も、まだ子供の蘭のために企業との仲介を担ううちにノウンマンとなった。
なお、蘭も叔父も蘭の両親の命を奪った事故がメルキセデクの仕込みであったことを知り、現在は同社から距離を置いている。

#半魔の事情通から購入した情報
ペトルーシュカは異能者などのイレギュラーではなく、他ドミニオン出身のストレンジャーでもない。両親共に純粋な人間であり、弟の翔共々平凡な子供として育った。
しかし、少なくとも現在は単なるノウンマンではなく強いエゴを持つ半魔であることは疑いようもない。
なお、叔父の貴文は肉親の情から姪甥の面倒を見ることに決めたが、夜の世界にある程度深入りしてしまってからというもの、完全に及び腰になっている。
だが、同時に姪の研究が生み出す莫大な富に魅入られてもいるため、金の卵を生むガチョウを手放すものかとばかりに護衛を雇うことにした。

【2年前の事故】
#新聞のバックナンバーより情報を取得
ペンギン百貨店デパートで起きたビル崩落事故。
多くの死者を出し、遺体の見つからなかった犠牲者もいる。
原因究明は途中で切り上げられたためいくつかの仮説しかないが、まるで多くの爆弾が仕掛けられていて連鎖的に爆発したかのようだったと生存者は語っている。
当時12歳の蘭と10歳の翔は両親が献身的に庇った甲斐があり生存者として保護された。

#死霊課の協力による情報提供
ペンギン百貨店デパートビル崩落事件は度々行われているメルキセデク社による実験体確保を目的とした破壊活動のひとつである。
警察は同社の圧力に屈して捜査を打ち切り、行方不明者も死亡扱いとした。
死霊課のみ秘密裏に捜査を続けているがメルキセデク社を起訴することはできずにいる。
後にモルスが家族と共に巻き込まれた事故も防ぐことができなかった。

#経ヶ辻邸に住み着く無害な妖怪から情報を取得
経ヶ辻蘭は事故の直後からおよそ年齢に相応しくない学術書や論文を読み漁るようになった。
2ヶ月の間ほとんど不眠不休で学習を続け、一気にいくつかの論文を書き上げている。
事故による両親の死に固執していることは明らかであり、様々なアプローチで不死や死者蘇生の研究を行い、現在は機械の体による不死を追求している。
また、サイボーグに味覚など人間らしい日常を送るために必要な機能を加えることに拘泥しているようだ。

【モルティスシリーズ】
#メルキセデク社へのハッキングにより情報を取得
メルキセデク社の最新サイボーグであるモルティスシリーズはラテン語で死を意味する「モルス」の複数形をその名に冠する戦闘用サイボーグ。
事故を装い一度に確保した多くの被検体にサイボーグ化処置が施された。
しかし、生体的に適合したのは強いエゴを持つウーナ、ドゥアエ、トリアの三機のみだった。
彼女たちは精神的な適合を容易にするため、生前とほぼ同じ容姿に造られている。

#メルキセデク社へのハッキングにより情報を取得
トリアは精神的な適合に失敗。
暴走し逃亡した。
開発主任は責任逃れのためにこの事実を秘匿し、トリアは廃棄処分したと上司に報告している。
メルキセデク上層部はこの嘘を見抜いており、現在の開発主任の代わりに“ペトルーシュカ”経ヶ辻蘭を招聘しようといくつもの魅力的な条件を提示してきた。
しかし、ペトルーシュカは拒否し続け、ついには拉致計画が持ち上がった。
任務に当たったウーナとドゥアエは何者かに撃退され、現在修理中。
調整が完了すれば任務を再開するだろう。

#メルキセデク社へのハッキングにより情報を取得
※モルス・ウーナ=エピデミア
素体:佐原茉莉花(17)
交通事故によって半身不随となり、両親から見放されるような形で病院に入れられていた。
両親も妹もほとんど見舞いに来たことがない。
自力でなんでもできるようにとリハビリに努め、ようやくひとりで外出できるようになった矢先にメルキセデク社の仕組んだ事故に遭遇。
サイボーグ化処置を受けた。
事故の経緯は知っているが、自由に動く体をくれたことに感謝している。

※モルス・ドゥアエ=ベルム
素体:榊原あやめ(20)
生まれついての心臓病により通学も就職もままならず自宅療養を続けていた。
姉と妹がおり家族仲も良かったが、両親姉妹とも仕事と勉学に忙しく、独り自室でゲームばかりして過ごしていた。
珍しく家族全員で出掛けたその日にメルキセデク社の仕組んだ事故に遭遇。
サイボーグ化処置を受けた。
ゲームの主人公のように強い体を得て戦える日々に喜びを感じているため、事故の経緯を知ってもメルキセデク社をあまり恨んではいない。

※モル▓・トリア=▓▓▓▓▓
▓体:▓▓▓▓(25)
先天▓▓視覚障▓を持ち▓がら▓▓親の理解▓得て▓害者競技の▓▓とし▓▓▓で活躍し▓▓た。
家▓旅行▓▓メルキ▓▓▓▓の仕組▓だ事▓▓▓遇。
▓▓▓▓グ化処▓▓受け▓。
他の姉妹▓▓異な▓精神面での拒▓▓応が強く、2ヶ月前▓▓▓▓経緯を知っ▓▓とで暴走。
研▓▓から脱▓▓▓。

リン
「精神と身体のバランスか……まったく、知ってしまったら、放っておけないじゃないか」


「にゃ、ニンゲンは面倒くさいにゃね。吾輩、賢い猫又だからいんたあねっとも使えるにゃ!」

リン
「よしよし、麦ちゃんは賢いねえ~」


「むふん。もっと撫でるにゃ!」

モルス
「……死。それって……さ……ペトルーシュカ……超えたら……こんな……怖い思いすんのに。どうしてなんだよ。みんなでなりゃ怖くないってか?」

モルスは集めた資料を持ち読んでいたが、ふたりが騒がしく、カッとなって投げつけた。

モルス
「いいか、本気でやってんだろうな! じゃなかったらマジでてめぇら叩き出すからな!!」

リン
「ん、調べる事はちゃんとやってるよ。その上で、気を抜ける時は抜くべきだよ……ずっと張り詰めてたら、動くべき時に動けなくなるからね」

そう言って調べた情報をまとめた書類を投げ渡す。

リン
「ボクが調べてきた情報が入ってる、確認してくれるかな?」


「にゃ。まったく、短気なニンゲンだにゃ。吾輩を見習ってどっしり構えるにゃ。子分にしてやってもいいにゃよ?」

モルス
「誰が子分だっ!!」

悪態をつきながらも、資料をめくっていき、とある項目で指が止まる。
『モルティスシリーズ』
震える指で内容をなぞっていき、最後の一枚をグシャリと握りつぶしてリンに掴みかかった。

モルス
「……見たのか」

リン
「うん、見たよ。……他に、何か言葉は必要かな?」

モルス
「……はっ、そうだよな。敵のことは、排除しなきゃいけねぇやつの事は知らなきゃだもんな!」

モルスはそれを、蘭を守るために必要なことと自分に言い聞かせる。

「……なぁ? 依頼のためだから、さぞかしなんとも思わねえんだろうな。割り切れる奴はいいよな、他人事で!」

苦しさのあまり、子供っぽいとわかりきっていてもなお、吐き捨てずにはいられなかった。

リン
「……キミの怒りは正当だよ。いくら必要だからといっても、キミの過去を洗うようなことをしてしまった……それは事実だ。そして、それを行ったのはボク自身だ。……だから、キミ……いや、モルスがボクに対して怒ることを止めはしない。……だけど、その怒りをぶつけるのはもう少しだけ待って欲しい。蘭ちゃんに危機が迫っているのは紛れもない事実だ、それを退けた後、すべてをこの体で受け止めよう」

モルス
「違うだろっ!! すかしやがって、そういうところが人形なんだよ!! 俺が幼稚なんだ、そんくらいわかってねえとか侮ってんじゃねぇ!! 受け止めるとか、赤の他人のくせに、なに図々しい事っ!!」

モルスはその感情のまま麦のことも睨みつける。

モルス
「お前もだサビ猫!! どこでどういう関わりがあって入り込んだか知らねぇが、いたずらに引っ掻き回すってんなら……お前だって俺らの人生狂わせた奴と何ひとつ違うもんかっ!!」

そこまで当たり散らしてから、モルスはバツが悪くなって顔を背ける。


「吾輩、ニンゲンのお願い叶えに来たにゃ。この間言ったにゃ! 覚えてないにゃ? さてはあんまり賢くないニンゲンだにゃ? 仕方にゃい、吾輩は寛大な猫又だからにゃ! 今度はちゃんと覚えればいいにゃ!」

モルス
「………ニンゲン」

リン
「……人生を狂わせた、か。なら……ボクも、キミと同じ存在に狂わされているよ」

リンは衣服を開き、胸部を見せる。
そこには、数多の傷と人工物が刻まれており……胸を開くと静かに脈打つ機械の心臓……心魂機関が見える。

麦の人間認定に少しだけ落ち着きかけたモルスだったが、脈打つ機械の塊を見てゾワリと身の毛がよだつような錯覚に震える。

モルス
「勝手に括るな! 俺は魔物とかそんなんじゃねぇ!! 俺は人間だ! 化け物なんかじゃないっ!! でも……とりあえず、信用するほかなさそうだから、置いといてやる。俺は勝手にするから勝手にしろ」

血の流れてない、いつでも直ってしまう体を持つ自分の言葉に、モルスは虚しさを感じる。

じきに修理の完了するウーナとドゥアエによる再襲撃は確実だろう。
第三勢力に関する情報は得られなかったが、襲撃に備え、半魔たちは蘭の警護を固めることにした。

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経ヶ辻邸のペトルーシュカ研究室。
半魔たちは研究作業を続ける蘭の護衛、ただ見守るという少々退屈な状況にある。
作業の手を止めた蘭が息抜きとばかりに声をかけてきた。


「あなたたちはテセウスの船というパラドックスを知っているかしら? テセウスという人物の所有する船は、破損の度にパーツが交換され、やがてすべてのパーツが建造当初と違うものになるの。最初のパーツがひとつも残っていなくても、それはテセウスの船なのか、あなたたちはどう思う?」

リン
「……ボクはたとえどんなことがあろうとも。テセウスの船であると思うよ。どれだけ中身や外装が変わろうとも……その船に名付けられた名前は、込められた想いは変わらないからね」


「うにゃ? てせう……よくわかんにゃいけどてせなんとかに決まってるにゃ! ニンゲンはすぐ難しく考えたがるにゃね。てせなんとかって船はずっとてせなんとかの船にゃ!」

モルス
「……わかんねぇ、俺は俺だって言いてぇのに、テセウスの船を認めたら俺は……俺はっ!!」


「タイムリープやテレポーテーションだって、転移前と転移後では体を構成する物質要素は再構築された別物のはず。そんな特殊な状況を想定しなくても、人間の体は細胞に寿命があって、日々新しい細胞と入れ替えが発生している。細胞がすべて入れ替わっても、その人は別人にはならないわ。じゃあ、自分が自分であるために必要なものは何かしら? 人間であり続けるために」

リン
「……そんなのは、たったひとつだよ。自分自身を貫き通す魂であり……誇りでもある、譲れないモノさ」


「吾輩が吾輩なのに理由がいるにゃ? そんにゃのなくても、吾輩はちゃ~んと吾輩が吾輩だって知ってるにゃ! 賢い猫又だからにゃ! 理由がないとニンゲンじゃにゃいにゃんて、ニンゲンは大変にゃねぇ」

モルスは三者の言葉に息を呑む。
息を呑む、この体はそんなことまでできる。
自分自身が自分自身であるために必要な事とは。

モルス
「考えたこと……なかった。だって、あの日まではずっと俺は俺で、そんなこと悩む必要もなくって……。頭がぐるぐるする。俺は、今の俺はなんで自分のことを俺だって定義付けてる? 俺を俺だって証明するものって……なんだ? どこに……そんな……」

麦の理由がないといけないなんて大変、という言葉にモルスは衝撃を覚える。

モルス
(今まで、理由なんかあったか? 俺……)


「私だって、二年前まではこんなこと、欠片も考えたことは無かったわ。でも、今は必要。私は人間を人間として蘇らせる方法を見つけ出さないといけない。奇跡も魔法もあてにしてはダメ。あくまで人間の知恵で果たさなければいけない命題なのよ」

モルス
「けどよ! だって……蘇るって怖いんだぞ蘭! 俺は独りだった! 無かったものがあって、あったものが無くなって遺された! そんなことばっかり増えていきやがる! 俺のこの手には! 年を取らないこの手には! ずっとずっと先! 今抱えてたものも昔抱えてたものも何ひとつ残らなくなってしまうんだ! そんなんおかしいだろ! ずっとひとりぼっちで!!」


「モルスさんは人間よ。たとえ、今そうじゃないとしても、私が人間に戻す。必ず」

リン
「……そうだね、確かにキミは人間だよ。だって、自身の現状を知ってもなお、人間だと叫んでいるんだから。本当にそうでないのなら……ここまでボクや麦ちゃんに対して、強く当たれないでしょ?」

モルス
「俺が一番わかんねぇのにっ、そんな戻すとかどうとかっ、こんな体で戻れるとか! ……お姉ちゃんたちは!? 俺がひとりで人間に戻って!」


「さっきから何言ってるにゃ? ニンゲンはみんな揃いも揃って難しいこと考えるにゃねえ。騒がしいのも、吾輩のこと好きなのも、ニンゲンも、みんなニンゲンだにゃ? 違うって意味が分からにゃいにゃ。そう思いたいにゃ?」

モルス
(違うと思いたい?)

モルスは麦の言葉に衝撃を受け、力が抜けて座り込む。

モルス
「俺は、俺は人間やめたくないっ! 今だって……今だからそう思うのに、もう何も手放したくないって。俺は人間だって、ずっと言い聞かせて!! 蘇ったり直ったり、変なことばっかでっ怖いんだ!! なのに俺が生身の体に戻ったら今度はお姉ちゃんたちがっ」

モルス
「翔やペトルーシュカもこの力がなけりゃろくに守れねぇ!! ………なぁ、こんなめんどくさいこと………考えるのはニンゲンだからなのかよっ!!」


「そりゃそうにゃ。も~、ニンゲンはそんなことも教えてあげにゃいとわからにゃいのにゃ? 吾輩は賢い猫又だから知ってるにゃ! そんにゃめんどくさいこと考えるのはニンゲンくらいにゃ」

リン
「そうだね、むしろ考えるという特権を持っているのは人間だけさ。自分自身のことや、他人のことを思って悩める……そんな事が出来るのはエゴに流される魔物ではなく、人間にしかできないと思うよ」

モルス
「俺は人間で……いい。今も……いつでも」

モルスの胸にすとんと言葉が落ちる。

モルス
「……なぁ蘭。俺さ………また後でコロコロ意見変わっかもしんねぇけど、当分はお前らを守りてぇし……俺はっ、お姉ちゃんたちを置いていきたくないからっ! だから俺っ!! まだ!」

まだ生身に戻れないと言いかけて、目頭が熱くなり言葉つまらせた。

蘭が返事のために口を開こうとすると、研究所内に警告音が鳴り渡る。


「来たわね、迎撃をお願いするわ」

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