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ファンタジーRPGについて小考 番外編
その10の前に番外編を挟みます。
何が始まるのかというと、泉井夏風というライターはファンタジーについて語っているが、偉そうに講釈垂れる本人はどんなファンタジー作品を作っているのだ、という疑問への回答です。
私は長らくソーシャルゲームのシナリオライターをしてきました。悲しいことにソーシャルゲームのほとんどは、ライターの名前が世に出ません。したがって、あの作品に携わったんだぜということを大っぴらに言えないのです。ばんばんCM打っているような有名作品にも参画していたのですが、残念ながら口をつぐむしかありません。業界の体質について文句を言っても仕方がないので愚痴はこの辺にしておきます。
代わりに個人制作のTRPG作品を紹介しようと思うのですが、ただの宣伝にこの番外編を使うつもりはないので、もう少し前フリを続けます。
私はフレーバーテキストが大好きです。フレーバーテキストというのは『マジック・ザ・ギャザリング』などのカードに書いてあるような短い雰囲気文章に代表される、世界観を伝えるためのテキストです。作品によっては短いとは限らないのですが、ゲームのメインとは一歩離れたところから、想像力をかき立てるのが役割であることに変わりはありません。私はそんなフレーバーテキストに魅せられました。特に『カルドセプト』のフレーバーと『聖剣伝説レジェンド・オブ・マナ』の世界事典は、私にその重要性を教えてくれた原点です。
フレーバーテキストの書き方講座のようなものをいずれ公開しようと思っているので、ここでは多くを語りませんが、短文フレーバーは和歌のようなものです。5・7・5・7・7の31文字に文章外の情報をいかに込めるかという、ハイコンテクストな文学なのです。長文フレーバーにしても同様で、言外の情報をいかに多く読み手に伝えられるか、言い換えればどれだけ想像力を刺激できるかの勝負となります。
せっかくなので例として企画ごとボツになった作品用に書いた、「丸いテーブル」のフレーバーテキストを紹介します。
貴婦人が屋敷の庭先で夕涼みをしている。
彼女が肘をついているエルム材の
テーブルは少女の頃からのお気に入りだ。
ふちに彫刻された葡萄の蔓が
とても美しいと思う。
嫁入り道具として新品の家具を
誂えてもらったが、このテーブルだけは
どうしても持って行きたいと我儘を言った。
後日、父から聞いた話では、
母が嫁いで来る時に
実家から持ってきたものらしい。
そして、物心のついてきた自分の娘も
このテーブルが大のお気に入りだ。
持って行かれるのだろうな。
なめらかな木肌を撫でながら、
そう、独りごちた。
ゲーム画面では表示される文字数に制限があるため、上記のフレーバーでは横20文字以内になっています。
表示制限を考慮するなら、極端な例ですが、こんな文字数ぴったりにしたフレーバーもあります。
暁の空に感謝を。安息の夜に感謝を。
命の雨に感謝を。実りの土に感謝を。
知の灯に感謝を。季節の風に感謝を。
祈りを捧げる騎士に祝福が降り注ぐ。
「人の営みを守る力を与えたまえ」
フレーバーテキストをまったく読まないプレイヤーは少なくありません。ゲーム内に図鑑があったとして、「体力を回復する薬」とか「使いやすい長剣」のような単なる説明文しか書いていなければ、全部を読もうとは思わないでしょう。他にも属性のバリエーションがあるアイテムのフレーバーで「火の力を宿すクリスタル。使用すれば~」「水の力を宿すクリスタル。使用すれば~」「土の力を宿すクリスタル。使用すれば~」のように、ほぼ同じことが書いてあっても読む気がなくなるでしょう。私が思う良いフレーバーテキストは、なんとなく図鑑を開いたら思いのほか面白いことが書いてあって、全部読んでしまった。新しいアイテムを手に入れる度にチェックしたくなった。というような感想を得られるものです。更に言えば、これらのフレーバーを読み解くことで、本編では触れられない世界観が見えてくるのが理想です。プレイヤーがフレーバーを元に世界の秘密を考察してくれればライター冥利に尽きるというものです。
そんなフレーバーテキストライターから経歴をスタートした私は今でもシナリオ本編より世界観構築やフレーバーの仕事が好きです。世界観を創り出すことを何よりの楽しみにしているのです。このファンタジーRPGについて小考も、世界観という視点で書いています。
さて、前フリが長くなりましたが、私が作った『共に奏でるRPG ソング・オヴ・スピリッツ』について紹介したいと思います。
この作品はファンタジーに慣れ親しんでいなくとも遊べるライトさを売りにしています。プレイヤーキャラクターを作るのも簡単で、慣れれば30分もかからないでしょう。TRPGについて疎くとも、ルールが軽いので簡単に覚えられるはずです。
というわけで、せっかく無料なので、ぜひダウンロードして読んでみていただければと思います。
ライトファンタジーと書きましたが、プレイヤーキャラクターたちが冒険するゲーム内の現代は牧歌的な雰囲気なものの、その過去の歴史は重い世界観を用意しています。遊ぶ上で読む必要はないですが、知っているとより楽しめる、つまるところフレーバーテキストのような世界観パートを書きました。プレイヤーがシナリオを作る際に参考にできるよう色々な要素が散りばめてあります。
もし、上記を読んで、もっと詳しく知りたいと思ってくださった方のために、『レイレティア年代記』という資料を書き進めています。25年2月現在では未完成ですが、pixivFANBOXにて随時先行公開しています。泉井夏風の活動を支援してやってもいいという方はぜひお願いいたします。
つまるところ、この番外編は宣伝には違いないのですが、その9まで小考につきあってくださった方なら、実践編としてルールブックと年代記を読んで、なるほどなぁと思っていただけるはずです。ぜひご興味いただければ幸いです。
泉井夏風