メカとメックとボットとビークル
10〜20年来のアメリカ人、イギリス人、スウェーデン人、ロシア人、イタリア人の友達がいます。日本のサブカルを海外の雑誌で紹介しているライターや、DICEやRESPAWNというゲーム会社のクリエイターです。みんなロボアニメが好きでここ数年は彼らが休暇で日本に来る際は(日本に住んでいる方もいますが)必ずお台場のガンダムベースへ連れて行ったり秋葉原や中野ブロードウェイでのロボットトイ爆買いに付き合ったりします。
彼らと付き合って知ったのは「メカ(Mecha)」は和製英語だという事です。
海外のSF映画等に登場する我々が「メカ」と認識するものは、乗り物なら「ビークル(Vehicle)」であり搭乗可能な歩行型ロボットであれば「メック(Mech)」、自律的なロボット(Iron GiantやTransformersなど)は「ロボットあるいはボット(Bot/Bots)」など。後者二つは「マシン(Machine)」とも呼ばれます。
「日本の主流的SFロボット像」の記事で挙げた「日本特有の架空ロボットイメージ」、つまり「ガンダム」のような装飾的でヒロイックなスタイルの搭乗型の巨大ロボットを指して彼らは『メカ』と言って「メック」や「ボット」とは明確に差別化していました。私の経験ではそれが欧米での一般的な感覚だと思います。
日本の「メカ」の概念は、ジャンル問わずアニメのプロダクションデザイン/プロップデザインワークのなかにおいて(自動車、飛行機やミサイルなどを専門的にデザインする)「メカニックデザイン」という役職がまず存在し、徐々に「メカデザイン」と省略されたこととその役職がロボットアニメのロボットのデザインを担っていたことが起源であり、やがて玩具文化と共に定着していったと考えられます。
80年代に日本のロボットアニメが海外に輸出される際に『日本では人が乗るヒーローロボットのことを「メカ」と言う』と認識されていったのかもしれません。ちなみにイタリア人の友達は「メチャ」と発音していました。
私は「鉄騎」というゲーム作品などでは搭乗型の巨大ロボットをデザインする際に(80年代のハリウッドSF映画のプロダクションデザインの進化のライン上にあるものとして)「メック」的なスタンスで制作していました。ところが、欧米の友達からすると「メカ」っぽさもありユニークだとよく言われます。
欧米では90年代以降はケーブルテレビの普及、昨今は配信サービスなどで日本のロボアニメを幼少時から見て育った世代も多く、「gen:LOCK」や「Voltron(百獣王ゴライオンのリメイク版)」、「Pacific Rim」などが作られ日本の「メカ」観は海外でも浸透しているようです。しかし、それはサブカルチャーでの限定的な分野に限ってのことで、家庭用や日常活動型ロボットなどの分野ではロボットに対する感覚はいまだコンセプトの段階から顕著な差があるように見受けられます。
Wikipedia(EN)の「メカ」の項目
「Video Games」の項目で例に挙がっている画像は私が参加した「Strike Suit Zero」という英Bone Ready Gamesのゲーム作品です。戦闘機に変形する「メカ」のデザインをしました。この裏話はまた別の記事で。
追記(2021-05-16):「メック」の語源も「メカ」
Twitterでのシェアとコメントを受けて補足です。「メック」という呼称も「メカ」が起源のようです。FASA社が1984年にリリースしたゲーム「BattleTech」において二足歩行型のロボットユニットを指して「バトルメック」と呼称しており、その後「MechWarrior」というシリーズに展開していきます。このタイトルがルーツとなってSFファンの間で慣例的に「メック」という呼び名が広がっていったのかもしれません。初期作品ではマクロスやダグラムなどの80年代の日本のSFアニメに登場する「メカ」のデザインが盗用された経緯があります。そうした事実からも「メック」の呼称はやはり日本の「メカ」に由来すると考えられます。