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「ボバ・フェット」最終話の展開を振り返り

ディズニープラスで配信中の「スター・ウォーズ」のドラマシリーズ「ボバ・フェット」最終話の展開と本シリーズを振り返ります。内容はネタバレを含みますので未視聴の方はくれぐれもご注意下さい。

「名誉」はホンドー・オナカーいわくジャンゴが一番大事にしていたもの

ついに最終回となりました。毎度物議を醸すロドリゲス監督回。
色々なサプライズを期待したファンの間でも意見が分かれました。

ボバ 「俺は彼ら(町の住民)を見捨てはしない」
ベイン「タスケンの時のようにか」
ボバ 「俺をからかうなよ、もうあの頃のガキじゃない。お前は歳を食った。」

深読みしすぎかもしれませんが00:44頃のこの会話、ここでキャド・ベインが言うタスケンは序盤の交渉の時の「your Tusken family」ではなく単純に「Tusken」と言っていて、そこに「あの頃の〜」が掛かっているならやはり本作の回想シーンのタスケンの部族を指しているのではなく、お蔵入りになっているエピソードのタスケンが絡む何らかの事件と、決闘の経緯を指しているようにも。
※「からかうなよ」は元の台詞では「Don't toy with me.」
 字幕では「侮るなよ」、吹替では「怒らせるなよ」
 この後の展開のこと(後述)を考えると吹替のニュアンスが正解かも。
未公開エピソードの詳細なプロットの公開や改めてのアニメ化が期待されます。

サンクチュアリでパイク襲撃者を撃退後、スコーペネク殲滅ドロイド2機が出現。デザインはダグ・チャンによる「エピソード2 クローンの攻撃」の不採用案を再利用したもので初めての映像化となりました。

ダグ・チャンによる元絵はプリクエル時代のデザインコードですね。この度のアレンジはライアン・チャーチによる模様。ちょっとボバ版はパーツ分割が細かすぎかなという印象も。それにしても本作はダグ・チャンの様々なお蔵入りデザインが映像化されました。副社長就任のお祝いも兼ねている?(2/14 追記)

解らなかった方への解説ですが最初はダークセーバーでも斬れなかったシールド内にディン・ジャリンが破って入れたのは、ランコアの攻撃を受けたドロイドがシールドのエネルギーを前方に集中したせいで後方が脆くなったためでしょう。
挟み撃ちすると後方からの攻撃に弱いというのもオンダロン支援作戦で言及されていました。

鍵はゲーム作品への熱いリスペクト

スコーペネク・ドロイドとの戦闘が小規模かつドロイド・ポッパーのようなEMP兵器を使わず、ブラスターでのシールド剥がしに終始するのは明らかに「バトルフロント」シリーズのウォーカーアサルト(40人対戦)を意識した意図的な演出であったと考えます。敵がリスポーンするように次々出て来たり、ジェットパックで浮揚して攻撃するボバも同ゲームプレイの立ち回り方を思わせます。

同様に過去のゲーム作品やそれに関わったクリエイターへのリスペクトとして、町で暴れるランコアは2012年の「Kinect スター・ウォーズ」のランコア・ランページから、ランコア・マウントは2008年の「Star Wars: The Old Republic」からの引用と考えられます。改造ギャングについてはやはり1998年の「マスターズ オブ テラス・カシ」や、ユーザーが作ったキャラ感とゲームっぽいアクション含め「Star Wars: The Old Republic」や2003年の「Star Wars Galaxies」などのキャラメイク等の引用の可能性が濃厚です。
BDユニットはもちろん「JEDI: Fallen Order」から。

2002年にゲームキューブとPS2でリリース
2015年に再リリースされたHD版は日本未発売

そしてボバ・フェットに関係のあるゲームとしてルーカスが積極的に関与していた最重要な作品が2012年にキャンセルとなった「スター・ウォーズ1313」と2003年発売の「ジャンゴ・フェット(Bounty Hunter(2002))」です。
特に後者が、関連する2002年のスピンオフコミック「Jango Fett: Open Seasons」(共にレジェンズ)と合わせて本ドラマを読み解く上ではとても重要度が高かった事が判りました。正史での設定再採用となったように感じました。

ボバ・フェットのアーマーの秘密

ボバ・フェットのアーマーは映画だけの情報を参考にするとジャンゴ・フェットのものを継承したように見えますが、ボバが持っていたジャンゴのヘルメットはアニメ「クローン・ウォーズ」でメイス・ウィンドゥを暗殺するための爆弾として破壊してしまっています。(※暗殺は未遂に終わります。)

ファンの解析では「マンダロリアン」シーズン2でボバが見せたアーマーのチェーンコードにはジャンゴの師匠ジャスター・メリール(後述)らしき記載があることが指摘されています。これがあの時点で提示されていた大きなヒントでした。

スター・ウォーズの作劇では歴史の反復が意図的に用いられる事が多く、ジャンゴも師のジャスター・メリールのアーマーを遺品として所有していて、ボバはそれを継承したのではないかと推測します。

ルーカスが描いたジャンゴの人物像と後継者ボバ

ゲームのジャンゴは好感が持てるキャラクター
ザム・ウェゼルとのコンビはフェネックとボバのよう

ボバ・フェットのオリジナルであるジャンゴ・フェットがどういう人物だったのかはこの作品と、同時期発売のコミック「Jango Fett: Open Seasons」(AmazonでKindle版が購入可)で語られています。上図はそれらの作品で描かれている内容をまとめたものです。

ボバやマンドーと同じくジャンゴも孤児であり、道徳派のマンダロリアン氏族を率いるジャスター・メリールに育てられるところから物語は始まります。

仲間の裏切りでジャスターを失ってからはジャンゴが統率者の役目を引き継ぎます。しかし敵対する武闘派閥デス・ウォッチのトア・ヴィズラの策謀でジェダイが介入、組織は殲滅させられジャンゴは孤独な賞金稼ぎとなります。
(ちなみに殲滅任務を指揮したのがドゥークーとコマリ・ヴォサで、この事件や他の出来事を経てジェダイに失望した二人は離脱します。)

(追記:2022年配信の「テイルズ・オブ・ジェダイ」でドゥークーは「エピソード1ファントム・メナス」の時代までジェダイだったと設定が更新されました。)

ジャンゴは報酬で得たボバを愛情を持って育てるつもりでしたが、ジェダイへの憎しみが結びつけたドゥークー伯爵との同盟が災いしてジオノーシスの戦いで命を落としてしまいます。父ジャンゴも憎しみに囚われて道を間違えていたのです。

ボバにはダークセーバーを壊す資格がありそう

ボバもまたメイスを恨んで復讐を試みますが失敗します。そして本作です。
キャド・ベインとの決闘で彼は追い詰められますが「心の平静」を得て打ち負かすことができました。反撃に転じる前の一瞬の穏やかな表情に注目です。
棍の修行を通して精神を修練し会得した近接戦闘力により運命を変えました。
原題は聖書外典的なニュアンスかもしれませんが、宮本武蔵の「五輪の書(The Book of Five Rings)」からのインスパイアもあるのではないかと少し思っています。

加えて今回のドラマでボバが見せた新たな側面は、レックスやハンターらの人格にも現れていたジャンゴがジャスターから継いだ統率者の資質であり、手探りながらもボバの遺伝子にも備わるその力の「覚醒/開眼」を描く物語でした。

スター・ウォーズ公式によるTwitterライブ配信番組「ボバフェット大考察特番 Vol.3」における金田明夫さんのご意見「ボバ・フェットは賞金稼ぎ以外の生き方を知らないからいちいち行動が変」も非常に的を得た考察だと思いました。

シリーズ全体の感想

スピンオフに乏しい日本ではマニア向けの難度が高い作品でした。似たようなコンセプトであり「新たなる希望」の元ネタの一つでもある「デューン」と比べてしまうと抗争は極めて小規模に感じられ、また上記のようなバックグラウンドの情報が分からないとボバの行動原理も不可解でプロットの粗い作品に見えてしまいます。

90年代の古いスピンオフではサルラックからの生還後はハン・ソロを執拗に付け狙う凶悪なキャラクターでしたから、私は彼がマンダロリアンに登場した際もレックスやその他のクローン兵とは違う油断できない奴という感じで見ていました。

しかし上述のゲームとコミックによれば、実はプリクエル構想においてジャンゴ・フェットが生み出された時点で、分身クローンという位置づけに変わったボバ・フェットにはルーカスの新たなビジョンが計画されていたわけです。

計画が実行されていた当時はファンのルーカス叩きが本当に酷かった
私は駆け出しの貧乏期でゲームを買う余裕もありませんでした

本作はこうした歴史に埋もれていたルーカス由来の優れたビジョンを、今後のシリーズで蘇らせる儀式的役割を担っていたと考えられ、派生作品が今後作られていくと見方がガラッと変わる可能性も秘めています。微妙だったという感想で終わらせるには惜しい作品です。

最終的にジャンゴの凶悪な側面を継承した鏡像的キャラクター キャド・ベインをも打ち負かし、ジャンゴ・フェットや延いてはジャスター・メリールに続く真のマンダロアの継承者としての覚醒とも言えるかもしれません。今後「マンダロリアン」でも引き続き重要な役割を担うことになると予想します。
(しかも分身クローンは「もう一人いる」!)
以上、全然違ったらかなり恥ずかしい。

ビジュアル面では「マンダロリアン」(や「アップライジング」)のブライアン・マティアスの登用が非常に限定的だった点が残念でした。恐らく他の作品で動いているのでしょう。一方で、ベテランのライアン・チャーチによるグラヴィスのデザインやナブー・スターファイターのアレンジはとても素晴らしかったと思います。

次はいよいよ5月25日に「オビ=ワン・ケノービ」配信開始!
気になるのはまたしても5月公開の庵野秀明「シン・ウルトラマン」!!!

これまでの「ボバ・フェット」関連の記事をまとめた非公式ガイダンスはこちら。

更新:2022-02-14 グラフィックを一部修正
更新:2022-05-22 情報を一部追加/修正
更新:2022-10-02 情報を一部修正
更新:2022-12-30 情報を更新/追加

「マンダロリアン」非公式ガイダンスも合わせてどうぞ。