台風のときは山小屋で寝ているに限る
夏になると登山者が増えます。
山小屋泊まりで山に行くと、小屋がメチャクチャに混んで人間扱いされない。テント場もやたらに混む。
天気が安定する7月下旬からお盆休みのあたりが特にひどい。
行く時期をずらせば登山者が減るので、私は、お盆明けから9月にかけて行くことが多くなりました。
しかし、そうすると、台風に遭遇する機会が増えてきます。
というわけで、今回は、サラリーマンになったばかりの夏山の体験談を披露します。
その年の8月下旬、私は山仲間と2人で北岳に行きました。
ちなみに、北岳は富士山の次に高い山で、南アルプスにあります。
台風が来ていましたが、逸れる可能性があったので、それを期待しました。
その日、東京発の終電で甲府に向かいました。
なぜ夜に行ったのか理由は覚えていませんが、甲府到着は深夜。
駅付近には、他の登山者が何人もいました。
甲府からはタクシーで広河原に到着。
そこから北岳の頂上に向かい、途中で昼寝をしながら頂上の山小屋に到着し宿泊。
ところが、夜から暴風雨。台風はこっちに来ちゃったんです。
翌朝起きても当然暴風雨。全然動けない。
一日中山小屋で寝ていました。
そして、更に翌日。
まだ暴風雨が続いている。ラジオを聞くと、新たに別の台風がやってきたことが分かった。
二つの台風にやられたらたまらない。
暴風雨の中を強行して撤退するパーティーがかなりある。
我々も、あと一日ゴロゴロと寝るのはイヤだ、となった。
つまり、撤退を強行!と決定。
スグに準備して小屋の外に出た。
当時の雨具はポンチョだから、外に出たら風にあおられ、すぐ雨でビショビショになった。
見通しもきかないから、我々の前に撤退していったパーティーは、どこにも見えない。
雨も風もすさまじく、雨が顔に当たると痛い。
身体も風に吹かれて浮き上がる。
何より呼吸が大変だった。
風が鼻からどんどん入ってくるので、息を吐きだすのに苦労した。
水泳のときに息継ぎするのに似ている。
岩につかまりながら下りているうちに、他の2人ずれのパーティと一緒になった。
彼らも下山しているところだしペースも同じだったので、
いつの間にか4人一緒に下ることになった。
やがて、全身びしょ濡れで、山を下りて広河原に到着。
しかし、ここから先の私の記憶が曖昧なんです。
多分、到着したのは広河原山荘だったと思うんですが、小屋に入ってみるとなんとバスが運休。
考えて見れば、台風なんだからマトモに運行するわけがない。
この点も浅はかでした。
時間はちょうど昼時だったし、我々4人は腹が減ってきた。
とにかく飯を食おうということになって、小屋の中で昼飯の準備を始めました。
食糧は余っているから、みそ汁の中に色んな具をぶち込んでごった煮を作り
それから30~40分後、飯も焚けた。
さあ食おうとした、そのとき「バスが来た」と一声!
他の登山者は次々に小屋を出ていく。
「エーッ」となったけど、この後のバスは期待できない。
料理は全部捨てる羽目になった。
ご飯は、小屋の人がもらってくれたと記憶していますが、食器類を片付け、
大慌てでパッキング。
ザックを担いで、外に出たら普通のバスより小さなバスがあった。
他の登山者は黙って待っていてくれた。
前にも述べた通り、このあたりの私の記憶が曖昧なんです。
私の相棒の記憶だと、バスじゃなくて砂利トラで、それも荷台に乗ったと言うんです。
しかし、雨の中で、他にも登山者がいるのに、砂利トラの荷台になんか乗ったんだろうか?
どちらが本当なのか、タイムマシンに乗らないと本当のことは分かりません。
若くて体力もあったから台風の中を強行下山したけれど、
考えて見れば無理に下山することはなかった。
あと一日山小屋に寝ていれば楽だったのに!
若気の至り、というヤツです。
若い時は色々やらかします。
こうやって経験を積んで、少しずつ利口になるんでしょう。
今更ながら、自戒を込めて思い出話をした次第です。