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漁村の冬終わり、春。


漁村の冬を書き残そう。
来年までみることのできない冬の景色について。

冬鳥たちがいることで漁村は冬めく。

弁天島と海鵜(うみう)の大群。
この景色も、冬。

去年の台風で傷んだ屋根が痛々しく、
そして海の怖さが伝わってくる。

海鵜は違う季節に見かけることもあるけど、
こういう大群は寒い時期だけ。

海鵜と混ざって飛ぶのは、カモメ。

カモメこそ冬鳥。
ここ阿曽浦では9月頃に現れて、3月頃また旅立つ。

カモメがいなくなると、漁村は寂しくなる。
また来年の夏が終わる頃、再び来てくれるのだろうか。

そんなことを、足元のうんちを見ながら考えた。

海鵜のうんちで白くなったと、地元の人が言う岩。


海にも季節があるってこと。
それが一年間漁村で暮らしてわかったこと。

上空から季節を伝えてくれるのは、冬鳥だけじゃない。
雲にも季節がある。

一概には言えないけど、
空全体を覆い隠すほどの雲は、漁村を冬らしくする。

積雲と呼ばれる類のこの雲は、
太陽の光を遮って寒さを一層強くさせる。

でもその間から光が溢れたら、幻想的だ。

漁村の冬はまだまだある。

アオリイカは冬の味覚というわけではないけど、
夏の間はほとんど見かけることがなかった。

アオリイカの寿命は一年で、
春に産卵すると死ぬ。

新しく産まれたアオリイカは、
夏から冬にかけて成長する。

成長して大きくなったのが、
再び捕れはじめるのが、冬。

捕れたときに1番嬉しい生き物かもしれない。
だって、おいしいから。

冬が旬の魚といえば、鰤(ブリ)。
師走が名付けられるくらい、冬を代表する味覚。

夏が終わりだした頃からツバスが捕れはじめる。

地元漁師は感覚的な使い分けをしているけど、
ツバスが成長したらハマチと呼ぶようになる。

最後には鰤になる。

2月は養殖筏の周りをぐるぐると、
鰤が泳いでいた。

出世魚。
鰤は季節を伝えてくれる魚。

冬の漁村のカケラはいくらでもある。

(阿曽浦では)12月から漁期が始まる伊勢海老にしろ、
冬の季節だからこそ味わえる漁村があった。

自然のサイクルのなかで変わる環境。
それぞれの季節に合わせながら、仕事のスタイルが変わる。

大変なことのように思える。

でも季節の移ろいが間近で感じられるこの暮らしは、
僕の贅沢の定義そのものだった。


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ふと足元を覗くと、春を見つけた。

雪どけの合間からフキノトウが顔を出すように、
筏の真下には伸びかけのヒロメがはえていた。

まだまだ小さくて収穫するには早いけど、
海で働く人々に春を知らせてくれる。

この光景を一年ぶりに見れたことが嬉しくて、
また新しい季節が始まることに期待が募った。

春・夏・秋・冬。

一年目はすべてが初めてのことだけど、
2年目からはその違いがきっとわかる。

もっと深く。
僕は漁村を知りたい。


ヒロメがはえた。だから春だ。
ヒロメから始まる1年よ、ふたたび。

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橡 峻希 | kunugi shunki
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