【引っ越しエッセイ】長い旅の終わりの一日
まだ雪は残っているだろうか。
相当に年季の入ったビジネスホテルの一室で、朝起きた瞬間ふと残雪のことが気になった。バスルームから流れてくるカビの臭いで、だんだん夢の世界から現実に引き戻される。どうやら換気扇が壊れているようで、湿気のたまった部屋の窓は水滴でびっしょりしている。
「もうすこし寝ておこうかな?」
隣で目覚めた妻が尋ねてきた。ビジネスホテルのパジャマ姿がどうにも間抜けな感じで愛らしいけど、朝からそれを伝える気分にはならない。
「いや、もう起きようかな。朝食に間