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京都の空#2


京都は暑い、盆地だから。
そういう割にはカラッとした暑さで
車を降りたら3人とも
あれ?意外と?
と口々に言うほど過ごしやすい気温だった
幸先はどちらかと言えば良い方だ

8月1日
夏のど真ん中から始まった京都でのレコーディングは
まず少々の遅刻から始まり
焦りたくないからゆっくりタバコを吸う
ついでに、
リラックスしたいから自販機でCCレモンを買って
きっかり30分遅れてスタートした
時間は、守るにこしたことはない

ドラムとベースからの録り出しのため
俺自身、やることはないのだが
それでも自分たちの作った曲が
どう築き上がっていくのかを見届けること、
時には音やプレイにあーだこーだ言うことなどする
この時点からとにかくクソ楽しい
俺は音楽を作るのが好きなのだ
あんちゃんが
「なおむが遊戯王のデッキ作るのが大好きなの、よくわかるわ」
と言っていたのがやけにしっくり来ている
自分の魂とも言うべき言葉とメロディ
それとはまた違ったベクトルで
自分の聴きたい音楽と
聴く人が心地いい違和感を覚える音楽
その両立を狙うのが難しく、何より楽しい
遊戯王が楽しいのも、勝利することが絶対目的ではなくて
勝利までの道筋にロマンを感じる
過程、軌跡だ
あんちゃんがタンバリン奏者に向いてることが発覚した日だった
車移動で疲労していた俺たちの初日は
すぐさま宿に帰ってオリンピックを見て寝た
オリンピックはすごかった
ほとんど何も覚えてないけど

2日目は録りこぼしたドラムベース一曲を録り
いよいよ俺のギター録音をする
俺はギターもすごく好きだ
特にレスポールが好きだ
百円玉を見ているような、日本刀を見ているような、エロいギャルを見ているような
そんなワクワクドキドキが詰まっている
BLUESPRINGしゅんが作ったギターも携え
スタジオのギターなんかも使って
一時は6本ギターが並ぶ瞬間さえある
ギタリストにとっては、夢にまでみた景色
興奮で頭の回転が早まり過ぎて
ほとんど喋れていなかったことを覚えている
スマホとピックをスタジオ内で30回くらい無くして
その度にあんちゃんが届けに来ていた、ご苦労

2日目の帰り、一成の運転する商用車は
さもそれが当たり前のように
あくまでなんの断りもなく
京都御苑へ入っていく
彼にはそう言うところがある
スピリチュアルに明るいんだ彼は
駐車場代が800円もかかるのに、誰の許可も得ずに京都御苑に車を止めてタンクトップでカツカツ歩き出す後ろ姿を見て、俺疲れてんのによーなんて思いながらも歩き出す


何のための施設なのか
いまだに分からないでいるが
空が、世界の幸せを全て集めたように綺麗だった
誰もが同じ空を見られているのだとしたら
それがまさに平和だと言っていいほど
空が、綺麗なのだ
俺たちの瞳はとても純粋で
子供のようにキラキラ輝いていたとおもう
白いeastern youthのTシャツが汚れることなど気にもせず
じゃり道に寝転がり青空と夕日が混じり合う色を眺めていたら
ふと怖くもなった
とてつもない幸福感と同時に
この一瞬が尊く、儚い
それがとても悲しかった
あの空は
俺たちが生き、苦しみ、足掻き、もがき苦しんだからこそ見ることのできた空だったのかもしれない
この先、少しでも手を緩めてしまったら
2度と出会えない色彩を持っていると感じた
また未来で
見上げることが叶うなら
俺たちは間違っていなかったとわかるはずだ
そんな空だった


歌うことは、正直にしゃべることだ
正直にしゃべるには
丸裸な必要がある
まだ、丸裸になるための心の経験や
時に技術も必要になってくる
歌とはそういうものなのかもしれない
3日目4日目、歌の録音はかなりしんどかった
うちひしがれ疲れ果て
スタジオの空気がどんどんと湿気を帯びて行く
ただ、やっぱり歌は自分でしかないのだ
歌が自分を超えていくことはない
ありのままの1番柔らかい部分で誰かに触れたいと思うから
歌を歌いたいと思う
正直に向き合った、できることは全てやった
悔しさが残った
帰ってデータを聞いたら
そんな苦しみが正直で
これしかないと思えた、とても良い歌だった
新しい発見だ
もっと正直になるために
これからも人間が歌う歌を歌いたい
そう思えたレコーディングだった

4日間の合間、友達が何度か宿に遊びに来てくれる
みんな、ドアを開けたらガキみたいな笑顔で
「遊ぼう!!」
と言ってくる、とんでもねーよ馬鹿どもが
俺は毎日疲れていて、それどころじゃないなんて
思った部分もあったが
そうやって集まってくれることへの途方もない嬉しさを
一緒にいる時間で返してあげることができなかった自分の体力の無さを少し悔やんだりもした
いつまでもガキみたいに遊ぼう
あの空だって、次はみんなで見上げてみたいもんだ

新しい音源を聴くたびに
あの夏だったなと
思い出すだろう
AIRTONIC9年目の、夏の記憶






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