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神戸、お財布があった世界線#8

東京はずいぶん寒くなってきている。
まもなく12月になろうというのだから当たり前だ。秋用の上着じゃ太刀打ちできそうもないほどに、夜はよく冷える。
ダウンジャケットなどは、なるべく真冬にならないと着たくない主義だ。
なんとか12月までは秋物でやり過ごせないかと願いを込めて、デニムジャケットだけを羽織って兵庫県に向かう。願いが通じたのか、ここ最近では一番と言っていいほど暖かな陽気の兵庫県尼崎は、上着なんていらないほどで、軽やかな気持ちになっていた。

リリースツアー3本目となる兵庫県神戸市のライブハウス「KINGSX」通称"キンクロ"に向かう車は、遠征初日恒例の銭湯に到着。
関西方面に来る際にはいつもお世話になっていた尼崎"極楽湯"が無念の閉店をしてしまったため、これまた通い慣れているもう一つの尼崎名所"夢の公衆浴場五色"の暖簾をくぐった。
正直、風呂に到着する際は毎回寝起きのため、通い慣れたと言っても、ほとんどどちらの銭湯も区別がついていなかったが、浴室内に入ってから、あーここだったのかと気付いて、
てことはあっちの風呂が閉店してしまったのか、ともなったわけである。
熱い風呂でさっぱりして、なにか食べようと色々案を出し合っていたが、風呂に併設されている食堂のような場所でうまそうなうどんが出されていた。"うどんコーナー"という文字と目が合う。肉うどんとカレーうどん。なんか美味そうなのでそこにした。
券売機には、入浴券と並んで"うどん券¥550"のボタンがある。
"うどんコーナー"にはまだ午前中の黄色い日差しが差し込んでいて、早くも兵庫県の柔らかい歓迎を受けたようだった。俺は肉うどんとおにぎりを、2人はカレーうどんを。おにぎりが俵のようで食べ応えがあってうまい、うどんは世界で一番しょっぱかったが、濃い味が好きな俺には満足だった。裸足で食べるご飯は子供の頃を思い出して好きだ。

おにぎりが積んである
多分五色のG


予期せず早めの昼食を摂ることができて、入り時間の40分前にキンクロの前に着いた。
えんじ色の阪急電車が真上に通る高架下のライブハウス。BraveBackともやが"Maroon"という曲を作っていた時の話を思い出した。このマルーン色の阪急電車で仕事に行く時にできた曲なんだと言っていた気がする。この電車がそれだったのかと、しばらく後に気がついた。
入り時間になり、ライブハウスのスタッフと挨拶を交わす。キンクロには2023年の年末に来た以来、となると約1年ぶりになる。その時慌ただしい年末の活気で箱内で話すこともなかったから、
ゆっくり話せてより居心地が良くなった。
ライブに向けてノソノソと準備を始める。
衣装にアイロンをかけよう。
アイロンがない。どっかに忘れたかなと。
車を探しても機材の山を探してもない。
おそらく八王子RIPSに忘れてきたかもしれない。
そのまま時間になってしまったためリハーサルへ。
少々苦戦しながらも、音作りは物にできた気がする。
リハ終わり、再度アイロンを探していると、自分の財布がどこにもないことにも気付いた。手荷物は全部エフェクターボードの蓋に置いたはずだがそこにはなく、トイレも、リュックも、ギターケースも探して、
さすがにやばいと思って改めて車の後部座席を探してもない。もうアイロンなぞは今更どうでもいい。
近くのコンビニに行ったら落とし物の財布ありますよと言われたが違う財布だった。
おじいさん店長の前で膝をつくほど落ち込んでしまった。顔が引き攣ったままライブハウスに戻って、改めて財布を置いた場所を探すと地面のちょうど影になっているところに黒の革財布が落ちていたというわけだ。まじでよかった。
ほとんど臨死体験に近い。どんなにメンタルを鍛えても、物をなくした時の絶望感には抗えない。すごく気を付けようと思った。そして今、財布が見つかったパターンの世界線を勝ち取ったのだ。
俺の不注意さなら逆のパターンだって十分にありえただろう。0円の状態から、財布の中身全部を手に入れたことになる。今日はお金いっぱい使っちゃおうと心に決め、アイロンを買いに電気屋に向かった。
歩いて15分ほど、三宮センター街は東京にはない賑わいで駅がやたらでかかった。
地方の大都市に来た時の、なんともいえない旅感を感じていたのはいいが結局いいアイロンはなく諦めた。
結局30分ほどふらついてトイレをしただけだったが神戸の街を堪能できた気がする。

今日も仲間が共演してくれる。
ただの1人でライブをすることは最近そうそうない。それはいいことなのかもしれないし、決定的な弱さなのかもしれないが、俺の音楽の心情は、
自分らしく、生き、足掻くことだ。
そばにたくさんの人たちがいて、支え支えられることは、たとえ嫌がったって自分の心情や信念に合っているのだろうと思う。
このツアー初めての県外でのライブに少し体が強張る気持ちもあったが、結局は解放して飛ばすだけだった。計算なんてものもないし、そもそもできやしない。

打ち上げ終わり、三宮最強のラーメン"丸高"を食べた。初めて神戸に来た時から食べ続けている、バンドマンが足繁く通うラーメン屋。ラーメンとチャーハンのセットを頼むのがベターだと思っているが、他のメニューで人気な物とかはあるのだろうか。何度来ても他のメニューを頼むのは難しい気がする。ラーメンチャーハンが美味すぎる。
BraveBackネオが、和歌山ラーメンがルーツだと教えてくれた。
金を使うと決めていたから、カメラマンの谷にラーメンを奢ってみた。気持ちよかった。
酒とラーメンで温まった体に、少し寒いくらいの夜風が当たる。お財布のありがたみが、なにより身に染みます。

丸高ラーメン

翌日静岡磐田FMステージへ向かう
車をコロコロ転がして、旅は続いていきます



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